久野市さんは忍びたい

白い彗星

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第一章 現代くノ一、ただいま参上です!

第20話 気軽に話せる男友達

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「へへへ……」

「……なんてふぬけた顔してんだお前」

「あぁ、おはよう」

 なんとか始業前に学校に着いた俺は、自分の席に座り、机に突っ伏していた。その前に、一人の男子生徒が立つ。
 男子生徒は、俺の顔を見て呆れたような表情を浮かべている。

 どうやら、今の俺の顔はとても見れたもんじゃないらしい。

「あぁ、はよ。
 ……で、なんでそんな顔してんだよ木葉ぁ?」

「ちょっといいことがあってなぁ」

 ここに鏡がなくてよかったという気持ちと、なくて残念だという気持ちがある。
 とのもかくにも、俺がこんな顔になっている理由は一つ……今朝の件が原因だろう。

 昨夜、怒らせてしまったと思った桃井さんと仲直りできたからだ。

「なになに、もしかして夢の中で、美少女と同棲したとか?」

「……違うヨ」

「なんだ今の間は」

 俺の前の席に座り、体を反転させて話しかけてくる男子生徒……神崎かんざき ルア。金髪のツンツン頭で、よく笑っている。
 金髪なのは染めているわけではなく、地毛だ。ルアは父親が日本人だが母親が外国人……しかし生まれも育ちも日本という経歴だ。

 ルアとは高校に入ってからの付き合いだ。まあルアだけでなくこの教室の人全員となんだが。
 なのに、もう下の名前で呼び合っている。それは、ルアの要望だ。本人の性格か、それとも親の教えか……基本的には、人とは下の名前で呼び合うようにしているようだ。

 生まれも育ちも日本なので当然だが、ペラペラの日本語。さらにはジョークも結構言う。
 そんなルアからの、何気ない一言……美少女と同棲した夢。それは夢ではなく、現実だったからだ。いや同棲ではないけども。

 昨日の今日だ、そのような事態になっているなど誰にもわかるはずもないが。

「まあ、いいや。木葉が嬉しいならオレも嬉しいしな」

「……そういうことさらっと言って、嫌味じゃないのマジすごいよな」

「うん?」

 上京して、高校に入って、右も左もわからない俺に話しかけてくれたのが、他でもないルアだ。ルアに話しかけられなければ、俺は今も一人だったかもしれない。
 そのため、ルアにはとても感謝している。恥ずかしいので、本人には言わないが。

 初めて、同い年で、気軽に話せる男友達だ。大事にしたい。

「ねぇ、男二人でなに話してるの?」

「やぁ紅葉、はよ」

「はよー」

 男二人の空間に、割って入ってくる明るい声。その人物に、ルアは真っ先に挨拶し、彼女も挨拶を返す。
 続けて俺も「おはよう」と告げれば、彼女も「おはよう」と返してくる。

 茶髪のツインテールを揺らす、小柄な少女。彼女は火車 紅葉ひぐるま もみじ。ツインテールというやつは俺は上京して初めて見たが、彼女の髪は肩辺りの長さで止まっている。
 にしし、と笑う火車さんは、特徴的な八重歯を光らせ身を乗り出す。

「あのねあのね、今日すんごいいいことがあったんだよ!」

「ほほぉ、いいこと?」

「そ。なんだと思う?」

「うーん……十円拾ったとか?」

「違うよー! もっといいこと!」

 火車さんは、ルアとは違った意味で明るい性格だ。なんというか……ルアは実は賢いのでバカっぽさを演じている節があるが、火車さんは普通にバカだ。
 能天気と言ってもいいのかもしれないが、とはいえその明るさは見ていて飽きない。

 今だって、まるで子犬のようにはしゃいでいる。尻尾があったらブンブン振ってそうだ。

「わかんないなー。もったいぶらずに教えてよ紅葉」

「へへー、仕方ないなー。
 よく聞きなよ木葉っち、ルアっち。実はねー」


 キーンコーンカーンコーン……


「ほらお前たち、席につけ」

「がーん!」

 火車さんのいいこと、の内容を聞く前にホームルームのチャイムが鳴り、先生が教室に入ってくる。
 自分でがーん、と言う火車さんは残念そうに肩を落としながら、去っていく。
 ルアも同様に、自分の席へと戻っていった。

 それぞれが、自分の席へと座る。そして、教壇に立つ先生が、朝のホームルームを始めていく……
 これが、今の俺の日常だ。

 村では、決して多くないいろんな年齢の子が一クラスに集まり、授業を受けていた。年齢が違うので、当然決まった授業ができるわけではない。
 なので、ほとんどの場合が自習となる。年の上の子が年が下の子にものを教えたり、実習としてみんなで体を動かしたり。

 もちろん、それも楽しかった。が、いざ高校というものに通ってみれば、俺の中の常識が覆ることばかりだ。
 年齢が同じ子だけが一つのクラスに集まる。しかもクラスはいくつもあり、その上一年生から三年生まで学年が別れているのだ。

「では、授業を始めるぞ」

 ホームルームが終わり、そのまま一限目の授業へ。驚いたのは、ここでもだ。高校だと、授業ごとに教える先生が変わるのだ。
 村の学校はほぼ自習や実習だったため、基本先生は一人か二人。学校にいる間は、同じ先生と一緒の教室で過ごす。

 だが高校は、国語なら国語の、数学なら数学の先生と担当科目によって先生が変わるのだ。
 なんと、人口に恵まれた場所だろうか。これが、都会というものか。

「木葉ー、メシ食おうぜー」

「悪い、購買で買ってくるから先に食べててくれ」

「あ、ウチも行くー」

 何度かの授業を受け、昼になれば昼休みが来る。持参した弁当を食うなり、購買でなにか買ってくるなり、食堂でなにか頼んで食うなり……昼メシの時間だ。
 俺は弁当を持ってきたり購買行ったりとまちまちだが、今日は忙しくて昼メシを準備してくる余裕がなかった。

 なので、購買に向かう。そこに、火車さんも着いてくる。

「火車さんも購買なんだね」

「そうなんだよー、ちょっと寝坊しちゃってさー」

 人の家の事情はよくわからないが、どうやら火車さんは自分で弁当を作ってきているようだ。俺と同じだ。
 理由こそ違うが、今日の分は用意できなかったということで、購買に行くことにしたわけだ。
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