久野市さんは忍びたい

白い彗星

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第一章 現代くノ一、ただいま参上です!

第16話 一緒に寝ましょうか、主様!

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 さて。風呂の使い方がわからないのならば、本来ならば一緒に入って説明してやるのが、一番手っ取り早い。
 だが当然、異性相手にそんなことはできない。そのため、俺は久野市さんが風呂に入る前に、服を着たまま風呂場に入り……彼女に、容器の説明をする。

 普段使っていなければ、どれも似た容器なのでどれにどれが入っているかわからないだろう。ぶっちゃけ、毎日使っている俺でも、たまにボディソープとシャンプー間違えるし。
 なので、位置を決めておく。右に置いたのがボディソープ、左がシャンプー、といった具合に。

 あと、女の子ならリンスを使うのかもしれないが……あいにく、ウチにそんなものはないので、勘弁してもらいたい。おしゃれを気にしないわけではないが、買うのは必要最小限のものだけにとどめたい。

「シャワーの使い方は……」

「大丈夫です! 主様の残り湯で流させてもらいますので!」

「……せっかく湯を溜めたんだから湯を使ってくれるのは経済的にもありがたいんだけど、言い方」

 一通りの説明を終え、あとは久野市さんを脱衣室に残して、俺は一人部屋を出る。そして、そっと戸を閉める。
 やれやれ、使い方を教えるだけで一苦労だ。

 ……この戸の向こうで、女の子が……
 ちょっとくらい、覗いてみたって……

「って、なに考えてんだ俺は」

 このままでは煩悩が頭を埋め尽くしてしまうと感じた俺は、首を振り、そそくさとその場から移動した。

 結局、流れとはいえ久野市さんを今晩、この部屋に泊めることになってしまった。
 勝手に来たのは向こうとはいえ、一週間公園生活を聞かされてはもうむやみに追い出すわけにもいかない。ご飯も作ってもらったし。

 とはいえ、会ったばかりの女の子を部屋に泊める行為は、いかがなものだろう。もし、間違いがあったら……
 いや、ない。ないよ? 俺はそんな、間違いとか起こすつもりはないよ? ないんだけど……

「んーーー……」

 彼女もできたことのない俺に、女の子に対する耐性があるかと言われると……ない!
 村の女の子たちは妹みたいなもんだったし、久野市さんも村に住んでいたとは言っていたがその記憶はないし。せめて、久野市さんが村に住んでいたことを思い出せればなぁ。

 まあそれは、久野市さんが村に住んでいたいう話が本当なら、という前提が付くが。

「……友達を部屋に泊めて、っていうのは学生生活の目標の一つだったんだけどなぁ」

 布団を敷き、その上に寝転がり……天井を、見る。
 学校で友達を作り、その友達を部屋に呼んで泊める。それで、いとんな話をする……ってのは、学生生活における俺の目標の一つだった。
 アパートの部屋に友達を泊められるか、という問題は置いておいて。桃井さんや隣人に許可取っておかないと、うるさくしたら迷惑だろうし。

 ……けど、今俺は友達ですらない女の子を、内緒に泊めようとしている。
 人生なにがあるかわかんないっていうか。学校から帰ってきて、この数時間でどっと疲れたよ。

 バイト先は、いつも通りだったけど……いや、違うな。桃井さんを怒らせてしまった。
 明日にでも、ちゃんと謝らないと……って、もう明日じゃなくて、今日か。

「なんか、静かになったら眠くなってきたな……」

 いつもなあ、そろそろ寝る時間だ。今日はいつもより疲れただけあって、やけに強い睡魔が襲ってくる。
 まだ久野市さんが風呂に入ってはいるが……もう、寝ちまうかな。別に、待っている必要は、ないわけだし……

 そのまま俺は、本能のままに、睡魔に抗うことなく、目を閉じて…………

「主様、お風呂ありがとうございました! おかげでさっぱりしました!」

「……んぁ?」

 …………聞こえてきた声に、目を覚ました。
 あれ、もう上がったのか……女の子の風呂は長いって聞くけど、まだ数分くらいしか経っていないだろうに。

「ふぁ……もう上がったの?」

「はい。申し訳ございません、あまりの心地よさに、三十分ほども使わせていただきまして」

「……三十分?」

 起き上がる俺はまぶたを擦りつつ、時計を見る。すると、時計の針は確かに三十分くらい進んでいた。
 ってことは、俺は気づかないうちに寝ちまってたってことか……どんだけ疲れてたんだ俺は。

 ただ、寝起きのぼんやりとした感覚はある。

「あぁ、もしかして主様、お休み中でしたか!? 申し訳ありません、起こしてしまいましたっ」

「いや、いいよ別に……!?」

 俺を起こしてしまったと、慌てる久野市さんに気にすることはないと、返答して彼女を見るが……
 その姿に、俺は寝ぼけていた目が一気に冴えていくのを感じた。

 久野市さんの着替えには、俺の服を着替えとして出していた。白いTシャツに、黒い短パンというラフもラフな恰好。
 それを、彼女は着ているのだが……俺とはサイズが違うためか、若干ぶかぶかである。女の子が自分の服を着て、それがぶかぶか……そのシチュエーションは、なんというかその……

 しかも、風呂上がりであるため体は若干火照っているようで、頬も赤い。一目見た時からきれいだと思っていた黒髪は、後ろで結んだ状態だったのが今は解かれている。
 なんでだろう……さっきまでの恰好よりも露出は減っているのに、同じかそれ以上に……

「主様?」

「! な、なんでもない!」

 い、いかんいかん。あんまりじぃっと見ていては、不審に思われる。いやもう思われているかもしれないが。
 ただ、目をそらしても……鼻をくすぐるいいにおいが、する。

 なんでだ、同じシャンプー使ってるよな。なんでこうも……

「と、とにかく。もう寝るぞ。
 俺は適当に床で寝るから、久野市さんは布団を……」

「はい、では、一緒に寝ましょうか、主様!」

「使って…………うん?」

 このまま話していては、身が持たない気がする。なので、とっとと寝よう……だが、二人分布団があるはずもない。もちろん一緒の布団で寝るわけにはいかない。
 そう考え、久野市さんには布団を使ってもらい、俺は適当に床で寝ようとした。しかし。

 そんな俺の考えなど、お構いなしと言うように……久野市さんは、とんでもないことを言い出した。
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