久野市さんは忍びたい

白い彗星

文字の大きさ
上 下
11 / 84
第一章 現代くノ一、ただいま参上です!

第11話 彼女とか、いるの?

しおりを挟む

 さて、篠原さんの言っていることだが……

 俺だってお年頃の男子高校生。かわいらしい女子大学生が自分に親しげに話しかけてくれる、というだけで勘違いしそうになったことはある。てか今もある。
 だが、桃井さんには彼氏がいるようだし……本人の性格は、どうやら世話好きだ。俺のことは、弟くらいにしか思ってないだろう。

 バイト終わりに一緒に帰ることについても、たまたま時間が一致したからそうなっているだけだ。俺としても、アパートまで近いとは言え夜道を桃井一人に帰らせるわけにはいかないし。

「ま、いいわ。それよりも、早く行ってあげなさいな。もう交代の時間よ」

「あ、本当だ。
 じゃ、お先に失礼します」

 時計を確認し、タイミングよく次にレジに入る人が来たので、俺はこのまま失礼することに。
 篠原さんももう少しで終わりみたいだ。お客さんの数も少ないし、これから忙しくなることもないだろう。

 俺は休憩室に戻り、その奥の更衣室へ。テキパキと若干急ぎながら着替え、荷物を纏めると、部屋を出る。
 その後タイムカードを通して、仕事は終了。駆け足で、コンビニの入口へと向かう。

 目に見えた先には、見慣れた人影があった。コンビニの光に照らされた茶髪を指でいじりながら、壁を背にしゃがんでいる。
 その手には、先ほど買った棒アイスが握られていて、それをペロペロと舐めていた。

「桃井さん、お待たせしました」

「あ、木葉くんお疲れ様。……って、そんな走ってこなくてもよかったのに。勝手に待ってるって言ったのは私なんだし」

「いや、待たせてることに変わりはないので」

「まったくもー……はい」

 俺の姿を確認し立ち上がった彼女は、マイバックからなにかを……アイスを取り出し、俺に手渡す。
 反射的に、それを受け取ってしまったが……

「え、これ……」

「お仕事お疲れ様、木葉くん。行こっか」

 先ほど、同じアイスを二つ買っていた。てっきり、好きなアイスなのかな程度にしか思っていなかったが……
 桃井さんは、おそらく困った表情をしているであろう俺を見て、カリッとアイスを噛み砕き……ニッと、笑ったのだ。

「……ありがとうございます」

 夜道を、桃井さんと並んで歩く。
 もう日付が変わるころだ。人通りは少なく、暗がりを電柱の明かりと時折通る車のライトが照らしている。

 先ほど桃井さんにもらった棒アイスを、かじる。ソーダ味で、さっぱりとした食感が口の中に広がっていく。
 二人並んでアイスを食べながら歩いている姿は、なんだか悪いことをしている気分になった。

「木葉くんは、もう晩ご飯は食べたの?」

「はい。バイトに行く前に」

「そっかそっか」

 桃井さんとは、今でこそそれなりに普通に話せてはいるが……考えてみれば、俺は年の近い年上の女性と親しく話すのは、桃井さんが初めてだった。
 村には同じ年頃の女の子もそりゃいたが……俺が年長だったから、お姉さんはいなかったんだよな。妹に感じる子ならいたけど。

 だからか、初めて会ってしばらくは、そりゃ挙動不審だったと思う。正直、あんな変な男に話し続けてくれた桃井さんに感謝だ。

「それにしても、桃井さんは変わってますよね」

「変わってるー?」

「だって……コンビニバイトの俺が言うのもなんですけど、ペットボトル飲料とか、アイスとか……スーパーで買った方が、安くつくのに」

 何気ない会話。こういう会話が気楽にできる相手がいるっていうのは、いいよな。
 互いに止まらず足を進めて……いたが、隣から気配と足音が消えたのに気づく。

 振り向くと、桃井さんはアイスをかじろうとしたまま、立ち止まっていた。

「桃井さん?」

 どうしたのだろうか。もしかして、アイスをかじっていたら頭がキーンとなってしまったとか?
 そう心配しそうになったとき、しゃくっ、と桃井さんはアイスをかじった。そして、足を進める。

「いや、それはほら……コンビニって、24時間営業じゃん? こんな時間でも、空いてるから……それに、あ、これ欲しいなあれ欲しいなーってときに、コンビニのが便利だし」

「……欲しいなって思い立ったにしては、買い物の量多くないですかね」

 それに、こんな時間に買いに行くくらいなら、夕方にでもスーパーに行けばいいのに……とは思ったが、そこまでは言わない。一応コンビニバイトだし、別に桃井さんに来てほしくないわけじゃないのだ。
 俺から言っておいてなんだが、このせいで桃井さんが今後スーパー通いになっても困るし。

「あ、あとほらっ、コンビニのが家から近いし……」

「あぁなるほど!
 ……あれ、そういえば桃井さん、確か自転車持ってませんでしたっけ。わざわざ歩くんですか?」

「! い、いいじゃない別に! だ、ダイエットよ! 女の子にそんなこと言わせないで!」

「す、すみません」

 ダイエット代わりに散歩をするなら、まずアイスをやめたらいいのでは?
 そう思ったが、言わない。余計怒らせそうだし、しかもアイスを奢ってもらっている身だし。

 それから、会話は途切れてしまう……と、思ったが……

「そういう、木葉くんは……自転車は、買わないの? 通勤通学に、便利じゃない?」

「うーん、そうですね……確かに、自転車があれば移動にはすげー便利だし、長期的に見ればここで高い買い物をするのも悪くはないんですが……」

「ですが?」

「歩くの、好きなんですよ。学校への道も、コンビニへの道も……歩いているから、こうしてのんびり夜空も見上げられますしね。足腰の運動にもなりますし。
 それに、こうして桃井さんと歩く時間、好きなので」

「! そ、そ、そう……」

 こうして、どちらかが話しかけ、話が膨らんでいく。なので、桃井さんと会話していて、会話に困ったことはない。
 桃井さんとの時間は楽しいし、俺からも積極的に話しかけて行ったりするし、その逆も……

 ……しかし、会話が途切れてしまう。今度は隣に桃井さんは並んだままだし、止まっているわけでもない。ただ、うつむいてしまった。
 もうアイスのなくなった棒を、口に含んだり出したりしている。あんまり行儀が良くないし、ちょっと視覚的にもアレなのでやめた方がいいと思うが……

「……ねえ、木葉くん」

「はい?」

 数分か……もしかしたら数秒だったかもしれない沈黙の後に、桃井さんは口を開く。
 桃井さんと会話が途切れることはなかったので、なんだか時間間隔が狂う。

 周囲には、たまにすれ違う人の話し声と、車が通り過ぎる音だけが響いている。

「あの、さ……木葉くんって、か、彼女とか、いるの?」

「……彼女ですか?」

 やがて聞こえてきた、桃井さんの言葉……それは、俺が思いもしていなかった内容だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

処理中です...