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第一章 現代くノ一、ただいま参上です!
第3話 主様を守るのが、私の使命
しおりを挟む俺は昔に、両親を亡くし……じいちゃんと、二人で暮らしていた。
……だけど……
「お祖父様も、少し前に亡くなっていますね」
「……!」
「なんで知っているのか、といった顔ですね。主様のお祖父様と、私のじっちゃまは古い知り合いだそうで……
じっちゃまは、常々聞いていたそうです。一人暮らししている孫は元気でやっているのか、と」
会ったこともない女は、なんでこんなにも知っているのか。
今語られたことは、すべて真実だ。まあ、じいちゃんとこの女のじっちゃまが友人なんてのは知らなかったが。
じいちゃんは、両親を亡くした俺を引き取り世話を焼いてくれた。しかし、暮らしていた村には小学校中学校はあっても、高校はない。
なので、高校進学のため、俺はじいちゃんの下を離れ、一人暮らしを始めた。最初は、じいちゃんも一緒に暮らさないか聞いたのだが……
『せっかくの一人暮らしだ、のんびりしたらええよ』
俺に気を遣ってくれたのか、じいちゃんは村に残ったままだった。
それから俺は上京し、一人暮らしを始め……高校に入学してからすぐのことだった。じいちゃんが亡くなったと連絡を受けたのは。
……それを、この女は知っている。
「お前、なんで……」
「すみません、質問は後で受け付けます。
……主様のお祖父様が、莫大な遺産を残していたというのは、ご存じですか?」
「……は?」
質問は、後にと言われ、確かに話が取っ散らかってもいけないのでおとなしく話を聞いておこうと、思った矢先……
またも、予想外の言葉が飛んできた。
俺の反応で、遺産の存在を知らなかったことを、確信したのだろう。女の子は、淡々と続ける。
「その、莫大な遺産の相続権、優先度は主様にあります。お祖父様の血の繋がった身内は、もう主様しか残っていないのですから。
……主様は、遺産を狙う者から、命を狙われる立場になっているのです」
「……はっ。じゃあ、さっき言ってた、俺を守るっていうのは……」
「はい、相続争いから、そのお命をお守りするために」
……いきなり現れたかと思えば、意味の分からないことばかり。なんなのだろうこの女は。遺産? 相続争い?
ドラマじゃあるまいし、遺産を巡って殺し合いなんて……ありえないだろう。こんな話、まったくの作り物だ。
しかし、なんでだろう……これを嘘と断定するには、女の目はあまりに眩し過ぎる。嘘でも、冗談でもない……これは、真実なのだと。
じいちゃんのことも、知っている……これは、本当にただの作り話なのか……?
「……ははっ」
じいちゃんが亡くなって、その遺産が俺の手に入る……しかしそれは莫大な遺産らしく、遺産目当てで俺を殺そうとする奴がいる。
そういう輩から、俺を守るために来たのだと……彼女、久野市 忍は言った。
それを聞いて、俺は……彼女を、外へ放りだした。
彼女はなぜか俺の家庭環境を知っている。それに聞きたいことだってあった……そのはずだった。だが俺は、それを聞くことなく、彼女を追い出した。
遺産目当てで、命を狙われるなんて……馬鹿げている。それに、莫大な遺産があるなんてじいちゃんから聞いたことがない。
聞きたいと思っていたことも、聞く必要はない。もはや付き合っていられないと判断した俺は、彼女を強制的に追い出し、もう二度と会うことはないだろうと思っていたのだが……
「まさか、また来るとは……」
一週間経って、彼女は再び姿を、現した。
「はい、何度だって来ます! 主様を守るのが、私の使命ですから!」
「守るって……」
さて、どうしたものか……こうして部屋にまで入られてしまった以上、やはり警察に連絡するべきか。
いくらかわいい女の子だからって、やっていいことと悪いことがある。
この子に話で説得するのも無理そうだしなぁ。でなければ、一週間経ってまた来やしないだろう。
それに、だ。
「じゃあ、仮に久野市さん、キミの話が本当だとしよう」
「忍、でいいですよ」
「……久野市さん。キミは、遺産の相続争いで俺を狙ってくる奴がいるって言ったけど……
キミがその、俺の命を狙ってきた奴、じゃないの?」
この子の話がすべて本当だと仮定して。仮定した上で、疑いを持つならば。
今、俺の両親のことや遺産のことを知っているこの子こそ、怪しいのではないか。遺産を狙って、俺に近づいてきた人物。
まさに、この子だ。俺を守ると言いながら、俺が油断したところで俺の命を取る算段かもしれない。
もしもこの子の言うことが本当だとしたら、守りに来たはずの自分が疑われるなんて、我慢ならないことだろう。怒り狂い、なにを言い出すのか……さあ、化けの皮を剥がしてやる。
お前が俺の命を狙う……つまり刺客ではないのか。それを聞いた、久野市 忍は……
「おぉ、さすがは主様! 素晴らしい着眼点です!」
なぜか感心した様子で、目を輝かせていた。
「は……?」
「さすがは危機意識がしっかりしていらっしゃる。主様に仕える身とはいえ、私は初対面の相手……疑われるのは至極当然のこと。
あぁ、前回私を締め出したのも、私を刺客だと警戒してのことだったんですね!」
なんか、謎の感動を覚えている……刺客がどうのとかは今考えついたことだし、あのときは単純に帰ってほしかっただけだ。
けど、この子はなんか自分の世界に入っちゃってる。
「でも、心配はご無用ですよ。私は刺客ではありえません」
「いや、だからその証明が……」
いくら口で守る守ると言われても、それは信頼できない。人間、口ではなんとでも言えるのだ。
この子は、それがわかっているのかいないのか、自分は刺客ではないと話す。その証拠が、ないんだよな。
証拠がなければ、信じるわけにはいかない。それを盾に、この子を諦めさせようとして……
……首筋に、冷たいものが当てられた。
「だって、私が刺客なら……わざわざ油断させなくても、いつでも命を奪えますから」
……俺は視線だけで、首筋に当てられたソレを確認する。
ソレは、黒く、冷たい……彼女の手に握られた、先端の尖った短めの武器。これはあれだ、時代劇とかで見たことがある。
確か、クナイってやつだ。
どこからソレを取り出したのか、いつの間に首筋にソレを当てられたのか……まったく、見えなかった。それに、彼女は机を挟んでいた向かいに座っていたのに……いつの間に、距離を詰められた?
この子にとって、俺は……油断を誘うまでもない。たったまばたき一つの間に、命を奪うことのできる相手なんだ。
もしもこの子が刺客なら、俺は……この子と会った瞬間に、殺されている。
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