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第二章 ヒーローとしての在り方
最終話 彼女はヒロインでヒーローで。
しおりを挟む……遊園地に行った日の、次の日。
休日であったため、愛は博士の下へ訪れていた。
「はい博士、これお土産。他のヒーローにも渡しておいて」
「おー、こりゃすまんのぅ」
愛が渡したのは、お菓子の詰め合わせだ。
プライベートで他のヒーローと愛は会うことはできないが、博士ならば会う機会もある。なので、その時に渡してもらおう。
一応、怪人を倒す同じヒーロー仲間なのだから。
「しっかし、驚いたわい。愛くんが遊びに行っとる遊園地に、怪人が現れたと報せを受けた時は」
「あははは」
「その上、愛くんが怪人を倒したと判明した時はさらにの。しかも素で」
「あははは……」
遊園地の一件は、博士に話してある。
警察には博士経由で、たまたま遊園地に訪れていたヒーローがたまたま怪人を倒し姿も見せず消えた、と説明している。
ヒーローなんだし、まあそういうこともある、と納得してもらえた。実際、レッドはそそくさと怪人退治をしているわけだし。
そして愛は……いろいろ考えて、ヒーロー休暇を、取り下げた。
なんか、休暇があんまり意味ないような気がしたし……結局、怪人のことが気になってしまうのだ。
自分が休んでいる間に、誰かが怪人にひどいことをされたら……
そう思ったら、いろいろ吹っ切れた。
「プールのときといい、愛くんは怪人に好かれとるのぅ」
「嬉しくないです」
「それで……どうだったんじゃ、たけるちゃんとの恋の行方は」
コーヒーを飲み、博士は表情を緩ませた。
遊園地に、尊と出掛ける……それだけ知らされていた博士は、下世話な視線を向けた。
愛の顔が、赤くなる。
「な、なにもありません! ないですから!」
「そうか……そりゃ残念じゃのぅ」
なぜかしゅんとする博士だが、実際、残念なのは愛も同意見だ。
あと一歩、タイミングが違えば……きっと……
あのときの勇気は、もう出ない。少なくとも、すぐには無理だ。
「はぁ……じゃ、私はこれで」
「む、もう帰るのかの?」
「えぇ。プレゼント配る相手が、まだいるので」
「忙しないのぅ」
博士に別れを告げ、愛は研究所を出た。
遊園地から帰り、母と弟にそれぞれ渡した。
博士にも渡したし、次は渚の番だ。尊もお土産を買っていたが、愛も個人的に買っている。
それから、次に登校した日には恵。それから……
お土産を渡す相手のことを頭の中に描きながら、愛は駆けていく。
――――――
「おはよー、愛ちゃん」
「おはようございまーす」
晴れやかな青空、小鳥のさえずり、賑やかな通学路……いつもの、日常。
通学路を歩くと、近所のおばちゃんから声をかけられる。小さい頃から構ってくれる、優しいおばちゃんだ。
微笑ましく繰り広げられるいつもの光景に、彼女はそっと手を振って応えた。
その際、笑顔を浮かべるのも忘れない。
柊 愛は、上機嫌だった。鼻唄まで歌って、その様子は見ればわかる。
遊園地での一件では残念なこともあったが、尊との距離は縮まった気がする。それが嬉しいのだ。
「よぉ、愛」
「ん、よー尊」
陽気な様子で歩いていると、ぽん、と愛の肩が叩かれた。優しく、タッチするような手つき。
それが誰の手であるか、振り向く前から愛にはわかっていた。
振り返ると、そこには幼馴染の顔があった。
「昨日はサンキュな」
「どしたの突然」
「渚にお土産持ってきてくれたろ、すげー喜んでたからさ」
昨日、神成家にお邪魔して、愛は渚にお土産を渡した。
選んだのは、ブルーのストラップだ。しかも、遊園地限定のコラボ商品。
本人はたいそう喜び、お礼を言われたものだ。
「ま、それくらいはね」
愛にとっても、渚は妹のような存在だ。
彼女の喜ぶ顔が見れるなら、少しの出費くらい安いものだ。
ふと、愛は尊の顔を見上げた。
「どうかしたか?」
「いんや、なんでもない」
以前であれば、尊は愛の頭をタッチしたりしていた。けれど、最近はそれがない。
さっきは肩だったし……考えすぎだろうか。それとも……?
頭に触られるのはびっくりするので安心したような、少し残念なような……
二人の距離が、少し変わったような、変わってないような。縮まったと思ったのは、気のせいだろうか?
それでも、いつも通りの日常は過ぎていく。
ブィイイイイ……!
スカートのポケットの中で、スマホが震える。
取り出したスマホの、その画面を見て……愛は、ため息を漏らした。
今日もまた、"出た"ということだ。
自然とため息が漏れてしまうこの仕草、どこか懐かしい。
「どした、スマホじっと見つめて」
「ごめん、私ちょっと用事思い出した!」
「え! なんかデジャヴ!」
スマホをポケットにしまい、愛は今来た道を、逆走する。
当然、並んで歩いていた尊は、突然の出来事に頭が追い付かない。
そのやり取りが、どこか懐かしい気がするのはなぜだろう。
「けど、もうすぐ学校……」
「一時限目までには戻るからー!」
「おーい!?」
後ろから尊の声が聞こえてくるが、愛は構わず走る。
人目を避けるように、裏路地に入り……ヒーロースーツを着用。
ヒーローレッドとして、怪人出現地点へと向かう。
これが、いつもの日常……
普通とはちょっと違うかもしれないけど、これが愛の日常だ。ヒーローとして、愛はみんなの平和を守る。
もう誰も、悲しい思いをさせないために。
「うわぁ、ホームルームまであと十分しかない! 急げ急げー!」
今日も、町にはヒーローが駆け走る。
―――完―――
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