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第二章 ヒーローとしての在り方
第43話 一世一代の告白
しおりを挟む昼食を終えた二人は、残る時間を悔いなく過ごすように、思い切り遊ぶことを決める。
そして、目に入ったアトラクションすべてに乗る勢いで、足を運んでいく。
まず二人が乗ったのは、ゴーカート。遊戯用の小型自動車を運転するものだ。遊戯用なので、当然免許は必要ない。
次に、メリーゴーランド。尊は恥ずかしがったが、愛にせがまれ乗ることに。
それに回転ブランコ。観客全員が飛んでいるような姿が、印象的だ。
他にもいろいろなアトラクションに乗り、二人の間に笑顔は絶えなかった。
「あははは、あー楽しい」
「だな。遊園地なんて初めて来たけど、今度渚と来てみるかな」
これまでに、遊園地に来た経験がなかったが……いいもんだなと、笑う。
とはいえ、今回は割引チケットがあったから来れたが、普段はそうもいかないだろう。
「えっと、次は……」
「そろそろ、アレ行っとくか」
キョロキョロと、忙しなく首を動かす愛に、尊はある一点を指さした。
そこにあるのは、遊園地の中でも一、二の人気を争うであろうアトラクション。遊園地イコールそれをイメージする人も少なくないだろう。
ジェットコースターだ。昼食後すぐは、気分が悪くなる可能性もあるからと、やめておいた。
だが、時間が経ち……頃合いだと思えた。
「お、いいねぇ」
「じゃ、行こうぜ」
二人は、ジェットコースターの待機列へと向かう。
それなりに人は並んでおり待機時間があったが、談笑する二人にとってはたいした時間ではなかった。
そしてついに、二人の番がやって来る。
「わー、ドキドキする」
「そうだな」
遊園地に来たのが初めてとなれば、ジェットコースターに乗るのも初めてだ。
若干の緊張と不安がありながらも、同時にそれ以上の期待がある。
係員の案内に従い、ベルトで体を固定。
振り落とされてしまわないよう、しっかりと座る。
準備が完了し、いよいよコースターが動き出す。
「結構ゆっくりなんだな」
「だね。けど……」
レールの上を、ゆっくりと進んでいく。しかし、愛はわかっている。
これが、あと数秒後に来る衝撃の準備だということに。
レールに従い、コースターはゆっくりと上昇していく。
途中、レールが途切れているように見えるが、レールが途切れたわけではない。
「来るよ」
「お、おう」
頂点へと至ったコースターが、下っていくレールに従って急加速して、進んでいく。
先ほどのゆっくりスピードとは全然違う。先ほどとの速度差が余計に、体感速度を感じさせる。
落下する際の浮遊感が、乗客を包みこんでいく。
「きゃーーー!」
「うぉおお!?」
乗客が一様に、声を上げる。それは歓喜の、あるいは恐怖も混じったものだ。
愛もまた、楽しそうに声を上げていた。尊の声は、果たしてどちらだろうか。
長いと思われていたレールの上を、コースターは流れるように猛スピードで進んでいく。ゆえにジェットコースターだ。
とてつもない長さのレールを、ものの数十秒で走り抜けた。
「っはぁ~、楽しかった!」
「け、結構速かったな」
ジェットコースターから降りた愛は、うんと伸びをしながら、晴れやかな笑顔で言った。
尊も、若干疲れた様子ではあるが、楽しそうだった。
先ほどは、無神経な行動で尊のトラウマを刺激してしまった。だから、少しでも尊が楽しんでくれたら……
その思いから、愛は積極的に尊を引っ張っていった。
「いやぁー、でも楽しいや。愛と来れてよかったよ」
「も、もう、なんか恥ずかしいなぁ」
これは、もしやいい雰囲気なのでは……と、愛は思った。
二人きりで遊園地、いろんなアトラクションに乗り互いの緊張もほぐれたし……
そう意識した瞬間、愛の心臓が高鳴る。同時に、体も熱くなっていく。
今、気付いたのだ……尊と、自然に手を繋いでいる。いつからだったろう。
固く、そして大きな手。愛の頭を撫でるその手が、愛は好きだった。
(こ、このシチュエーションは……)
ドキドキ、と愛の心臓が騒ぎ出す。
このうるさい音が、尊に聞こえてしまっていないだろうか。
これは、良いのではないだろうか。いっちゃっていいのではないだろうか。
今まで、愛は自分の気持ちを直接、伝えようとはしなかった。それは、尊に女の子として見られているかわからないし、なによりこの関係が変わってしまうのが怖かったから。
幼馴染であり、互いの家を行き来する仲。下手な恋人よりも近い今の距離は、心地良いものだ。
もし、告白をして……それが断られたら。その心地良い空間すら、なくなってしまうのだ。
完成した関係性ほど、なかなか変えにくいものなのだ。
(でも……)
いつまでもこのままでいいとは、思っていない。なにもしなければ、なにも変わらない。
それどころか、いつ尊に恋人ができるかもわからない。今は愛が目を光らせているから、見る限り女の影はないが……
尊が女子に人気があるのも知っている。愛の知らないところで、なにがあるとも限らない。
なにもしないまま、いつの間にか尊が離れていったら……
(そんなの、耐えられない……)
「? 愛、どうかしたか?」
なにもしないまま関係が終わってしまうのと、勇気を出した結果に関係が終わってしまうのと……どちらを、選ぶか。
愛の手に、力が込められる。握られる強さが増し、尊が声をかけた。
そして愛は、足を止める。
「尊……あのね」
「おう」
「は、話したいことが、あるの」
愛は、尊へと向き合う。手は繋いだままだ。
顔が熱い。きっと、顔が赤くなっている。尊にもバレている。恥ずかしい。
尊はじっと、愛の言葉を待っている。
愛は、深呼吸をする。今だ……伝えるのだ、昔から彼に抱いていた、想いを。
『好き』だという、その気持ちを。
「私は、たけ……」
「げひゃひゃひゃ! 遊園地なんてリア充の巣窟、全部ぶち壊してやるぜ!」
今、柊 愛の中で、一世一代の告白が紡がれる……
……はずだった。
空から、バサッと大きな翼をはためかせて現れたのは、紛れもなく怪人だった。
人型の真っ黒な体は、一般男性の大きさ……しかし背に生えた翼は、その数倍ほどの大きさがある。
その言葉には、遊園地というかリア充に対しての恨みつらみが込められていたが……そんなこと、彼女にとってはどうでもよかった。
「か、かいじ……」
「…………」
怪人の出現に狼狽える尊とは裏腹に……黙りこくる愛。
彼女の中で、なにかがブチギレた。
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