上 下
43 / 46
第二章 ヒーローとしての在り方

第43話 一世一代の告白

しおりを挟む


 昼食を終えた二人は、残る時間を悔いなく過ごすように、思い切り遊ぶことを決める。
 そして、目に入ったアトラクションすべてに乗る勢いで、足を運んでいく。

 まず二人が乗ったのは、ゴーカート。遊戯用の小型自動車を運転するものだ。遊戯用なので、当然免許は必要ない。
 次に、メリーゴーランド。尊は恥ずかしがったが、愛にせがまれ乗ることに。
 それに回転ブランコ。観客全員が飛んでいるような姿が、印象的だ。

 他にもいろいろなアトラクションに乗り、二人の間に笑顔は絶えなかった。

「あははは、あー楽しい」

「だな。遊園地なんて初めて来たけど、今度渚と来てみるかな」

 これまでに、遊園地に来た経験がなかったが……いいもんだなと、笑う。
 とはいえ、今回は割引チケットがあったから来れたが、普段はそうもいかないだろう。

「えっと、次は……」

「そろそろ、アレ行っとくか」

 キョロキョロと、忙しなく首を動かす愛に、尊はある一点を指さした。
 そこにあるのは、遊園地の中でも一、二の人気を争うであろうアトラクション。遊園地イコールそれをイメージする人も少なくないだろう。

 ジェットコースターだ。昼食後すぐは、気分が悪くなる可能性もあるからと、やめておいた。
 だが、時間が経ち……頃合いだと思えた。

「お、いいねぇ」

「じゃ、行こうぜ」

 二人は、ジェットコースターの待機列へと向かう。
 それなりに人は並んでおり待機時間があったが、談笑する二人にとってはたいした時間ではなかった。

 そしてついに、二人の番がやって来る。

「わー、ドキドキする」

「そうだな」

 遊園地に来たのが初めてとなれば、ジェットコースターに乗るのも初めてだ。
 若干の緊張と不安がありながらも、同時にそれ以上の期待がある。

 係員の案内に従い、ベルトで体を固定。
 振り落とされてしまわないよう、しっかりと座る。

 準備が完了し、いよいよコースターが動き出す。

「結構ゆっくりなんだな」

「だね。けど……」

 レールの上を、ゆっくりと進んでいく。しかし、愛はわかっている。
 これが、あと数秒後に来る衝撃の準備だということに。

 レールに従い、コースターはゆっくりと上昇していく。
 途中、レールが途切れているように見えるが、レールが途切れたわけではない。

「来るよ」

「お、おう」

 頂点へと至ったコースターが、下っていくレールに従って急加速して、進んでいく。
 先ほどのゆっくりスピードとは全然違う。先ほどとの速度差が余計に、体感速度を感じさせる。

 落下する際の浮遊感が、乗客を包みこんでいく。

「きゃーーー!」

「うぉおお!?」

 乗客が一様に、声を上げる。それは歓喜の、あるいは恐怖も混じったものだ。
 愛もまた、楽しそうに声を上げていた。尊の声は、果たしてどちらだろうか。

 長いと思われていたレールの上を、コースターは流れるように猛スピードで進んでいく。ゆえにジェットコースターだ。
 とてつもない長さのレールを、ものの数十秒で走り抜けた。

「っはぁ~、楽しかった!」

「け、結構速かったな」

 ジェットコースターから降りた愛は、うんと伸びをしながら、晴れやかな笑顔で言った。
 尊も、若干疲れた様子ではあるが、楽しそうだった。

 先ほどは、無神経な行動で尊のトラウマを刺激してしまった。だから、少しでも尊が楽しんでくれたら……
 その思いから、愛は積極的に尊を引っ張っていった。

「いやぁー、でも楽しいや。愛と来れてよかったよ」

「も、もう、なんか恥ずかしいなぁ」

 これは、もしやいい雰囲気なのでは……と、愛は思った。
 二人きりで遊園地、いろんなアトラクションに乗り互いの緊張もほぐれたし……

 そう意識した瞬間、愛の心臓が高鳴る。同時に、体も熱くなっていく。
 今、気付いたのだ……尊と、自然に手を繋いでいる。いつからだったろう。

 固く、そして大きな手。愛の頭を撫でるその手が、愛は好きだった。

(こ、このシチュエーションは……)

 ドキドキ、と愛の心臓が騒ぎ出す。
 このうるさい音が、尊に聞こえてしまっていないだろうか。

 これは、良いのではないだろうか。いっちゃっていいのではないだろうか。
 今まで、愛は自分の気持ちを直接、伝えようとはしなかった。それは、尊に女の子として見られているかわからないし、なによりこの関係が変わってしまうのが怖かったから。

 幼馴染であり、互いの家を行き来する仲。下手な恋人よりも近い今の距離は、心地良いものだ。
 もし、告白をして……それが断られたら。その心地良い空間すら、なくなってしまうのだ。

 完成した関係性ほど、なかなか変えにくいものなのだ。

(でも……)

 いつまでもこのままでいいとは、思っていない。なにもしなければ、なにも変わらない。
 それどころか、いつ尊に恋人ができるかもわからない。今は愛が目を光らせているから、見る限り女の影はないが……

 尊が女子に人気があるのも知っている。愛の知らないところで、なにがあるとも限らない。
 なにもしないまま、いつの間にか尊が離れていったら……

(そんなの、耐えられない……)

「? 愛、どうかしたか?」

 なにもしないまま関係が終わってしまうのと、勇気を出した結果に関係が終わってしまうのと……どちらを、選ぶか。

 愛の手に、力が込められる。握られる強さが増し、尊が声をかけた。
 そして愛は、足を止める。

「尊……あのね」

「おう」

「は、話したいことが、あるの」

 愛は、尊へと向き合う。手は繋いだままだ。
 顔が熱い。きっと、顔が赤くなっている。尊にもバレている。恥ずかしい。

 尊はじっと、愛の言葉を待っている。
 愛は、深呼吸をする。今だ……伝えるのだ、昔から彼に抱いていた、想いを。

 『好き』だという、その気持ちを。

「私は、たけ……」

「げひゃひゃひゃ! 遊園地なんてリア充の巣窟、全部ぶち壊してやるぜ!」

 今、柊 愛の中で、一世一代の告白が紡がれる……
 ……はずだった。

 空から、バサッと大きな翼をはためかせて現れたのは、紛れもなく怪人だった。
 人型の真っ黒な体は、一般男性の大きさ……しかし背に生えた翼は、その数倍ほどの大きさがある。

 その言葉には、遊園地というかリア充に対しての恨みつらみが込められていたが……そんなこと、彼女にとってはどうでもよかった。

「か、かいじ……」

「…………」

 怪人の出現に狼狽える尊とは裏腹に……黙りこくる愛。
 彼女の中で、なにかがブチギレた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

アニラジロデオ ~夜中に声優ラジオなんて聴いてないでさっさと寝な!

坪庭 芝特訓
恋愛
 女子高生の零児(れいじ 黒髪アーモンドアイの方)と響季(ひびき 茶髪眼鏡の方)は、深夜の声優ラジオ界隈で暗躍するネタ職人。  零児は「ネタコーナーさえあればどんなラジオ番組にも現れ、オモシロネタを放り込む」、響季は「ノベルティグッズさえ貰えればどんなラジオ番組にもメールを送る」というスタンスでそれぞれネタを送ってきた。  接点のなかった二人だが、ある日零児が献結 (※10代の子限定の献血)ルームでラジオ番組のノベルティグッズを手にしているところを響季が見つける。  零児が同じネタ職人ではないかと勘付いた響季は、献結ルームの職員さん、看護師さん達の力も借り、なんとかしてその証拠を掴みたい、彼女のラジオネームを知りたいと奔走する。 ここから第四部その2⇒いつしか響季のことを本気で好きになっていた零児は、その熱に浮かされ彼女の核とも言える面白さを失いつつあった。  それに気付き、零児の元から走り去った響季。  そして突如舞い込む百合営業声優の入籍話と、みんな大好きプリント自習。  プリントを5分でやっつけた響季は零児とのことを柿内君に相談するが、いつしか話は今や親友となった二人の出会いと柿内君の過去のこと、更に零児と響季の実験の日々の話へと続く。  一学年上の生徒相手に、お笑い営業をしていた少女。  夜の街で、大人相手に育った少年。  危うい少女達の告白百人組手、からのKissing図書館デート。  その少女達は今や心が離れていた。  ってそんな話どうでもいいから彼女達の仲を修復する解決策を!  そうだVogue対決だ!  勝った方には当選したけど全く行く気のしない献結啓蒙ライブのチケットをプレゼント!  ひゃだ!それってとってもいいアイデア!  そんな感じでギャルパイセンと先生達を巻き込み、ハイスクールがダンスフロアに。 R15指定ですが、高濃度百合分補給のためにたまにそういうのが出るよというレベル、かつ欠番扱いです。 読み飛ばしてもらっても大丈夫です。 検索用キーワード 百合ん百合ん女子高生/よくわかる献血/ハガキ職人講座/ラジオと献血/百合声優の結婚報告/プリント自習/処世術としてのオネエキャラ/告白タイム/ギャルゲー収録直後の声優コメント/雑誌じゃない方のVOGUE/若者の缶コーヒー離れ

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...