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第二章 ヒーローとしての在り方

第40話 お化け屋敷での駆け引き

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「うはぁ、お化け屋敷だぁ!」

 次なる目的地は、お化け屋敷。
 風船を配っていたウッサーの横を通り、愛はお化け屋敷の入口へとやってきた。

 遅れて、隣に並ぶ尊。その顔は、気のせいだろうか普段よりも青い。
 ……もしかして、だが。

「尊、お化け怖いの?」

「!」

 浮かんだ疑問を、ぶつける。首を傾げ、隣の尊を上目がちで。
 しかし、問いかけておいて自分で思う。そんなことはないだろうと。

 だって尊だ。普段から弱い人の味方で、いじめられている子がいれば放っておけない。
 この間だって、プールではトラウマのある怪人相手に、一歩も引かなかった。

 そんな強い尊が、まさかお化けが苦手などと。

「は、はぁ!? 怖いわけあ、あるか! はっ、ガキじゃあるめぇし!」

「だよねぇ! じゃ、入ろっか!」

 本人から、怖くないとのお墨付きをもらった。
 その答えに満足そうに笑い、今度は愛から尊の手を取り、お化け屋敷の中へと入っていく。

 普通の女の子なら、お化けは怖がるものなのかもしれない。
 だが愛は、そんなことお構いなしだった。

「へぇー、結構本格的だねぇ」

「そ、そうだな」

 中は薄暗く、少しジメジメした印象。
 おどろおどろしい雰囲気であり、ただの娯楽にしては本格的だ。いや、こういう施設の娯楽だからこそ、だろうか。

 こうして、普通に歩いて出口を目指す……わけではないのは、愛にもわかっている。

(あ、そうだ)

 ここで愛は、ひらめいた。
 せっかくのお化け屋敷だ。どうせなら女の子らしく怖がって、尊に抱きついてみるのはどうだろう。

 大胆、だろうか。だが、せっかく暗がりで尊と二人きりだ。この機を活かしたい。
 尊と初めてのお化け屋敷。ならば、たとえ怖がったとして不思議はないはずだ。

 男の子は、女の子の弱い部分にぐっとくる、と本に書いてあった。

(弱い部分……よし!)

 一瞬、怪人をぶっ飛ばす自分の姿が浮かぶが……それを頭の外へ、追いやる。
 今は、ヒーローレッドではなく、普通の女子高生柊 愛だ。

 ちょっとくらい大胆になっても、いいのではないだろうか。
 ……いざ!

「ブォー!」

「キャー、こわーい!」

 まるでタイミングゆ見計らったかのように、視界の端から影が現れる。
 それは、全身をミイラでぐるぐる巻きにした、ミイラ男だ。目元や口元だけは空いており、そこもメイクで、恐怖を煽るものをほどこしてある。
 いわゆる口裂けみたいな。

 それを確認して、愛は尊の腕へと抱きついた。

(わ、わ、わ……やや、やっちゃった! い、いいのかなこれ! はしたないって、思われないかな!)

 愛としても、若干賭けだ。
 思い切って抱きついてみたはいいものの、本当にこれで効果はあるのだろうか、と。

 自分なりに、女の子っぽい悲鳴を上げてみた。
 だがそれは、物凄く棒だったことに愛は気づいていない。

(うわっ、熱っ……)

 周囲は、冷房でも聞いているのか肌寒いくらいだったのに。今の愛は、体が火照ってしまっている。
 胸を押し付ける、その尊の腕から彼の体温が伝わる。

 自分では見えないが、きっと顔が真っ赤だろう。
 薄暗くてよかった……こんな顔、尊にはとても見せられない。

(……ん?)

 ふと、愛はまぶたをパチパチと動かす。先ほどから、尊の反応がないのだ。
 普段であれば、「大げさすぎだろっ」とか言って、腕を振りほどいてきそうなのに。

 もしかして、私に抱きつかれて照れているのでは……と、愛は考えた。瞬間、心臓が大きく高鳴る。
 もしかして、意識しているのか、と。思えば、これまで尊からのスキンシップはあったが、愛からのスキンシップはなかった。

 最近、胸も大きくなってきたし……せっかく女の武器があるんだから使わなきゃ、とは恵の言葉。
 女の武器だなんて大げさだと思っていたが、これを使って尊に意識してもらえるならば、いっときの恥じらいなど。

 一瞬のうちにそこまでを考え、愛はドキドキと胸を高鳴らせたまま、そっと尊の顔を見上げる。
 そして尊は……

(び、微動だにしてない!?)

 真顔で、正面を見たまま、固まっていた。
 愛のスキンシップに動揺した様子もなく、ただただ突っ立っている。

(うぅ……これでも、だめかぁ)

 さすがに愛も、ショックを受ける。
 自分なりに勇気を出したが、尊に意識してもらうどころかもはや動揺すらされないとは。

 しゅんとしてしまい、手を離そうとしたところで……

「ひんっ」

「?」

 なにやら変な声が、聞こえた。
 愛のものではない。お化け役のもの? それにしては、やはり変な声だ。

 となると、だ……

「ひゃっ……って、コンニャク?」

 直後、愛のうなじにぬるっとした感覚が走る。
 いきなりのことに声を上げてしまったが、お化け屋敷でこのシチュエーションとなると、考えられるのは一つだ。

 落ち着いて手を後ろに回すと、そこにはやはり、紐にぶら下げられたコンニャクがあった。
 正面からのお化け、すかさず背後からコンニャク……定番といえば定番だ。

 こんなのは、子供だましだ……と、愛はコンニャクから手を離して……

「……もしかして、今の尊?」

「!」

 一つの推測が、生まれた。
 今聞こえた変な声。それが、コンニャクに驚いた尊の声だったら……合点が、いく。

 コンニャクに驚くくらい、まあ不思議ではない。ないのだが……これまでの尊の態度を読み取ると、さらに一つの推測が立つ。

「尊もしかして……お化け怖いの?」

 お化け屋敷に入る前と同じ質問を、投げかける。
 すると尊は、小さく肩を震わせて……

「は、はぁ? ん、んなわけないし!?」

 やはり、否定した。
 だが、気のせいだろうか……いや、気のせいではない。声が震えていた。

 もしかして、尊が固まっていたのは愛のスキンシップになにも感じなかったからではなくて……なにも感じる余裕がなかったから、ではないのか。
 お化けに意識を持っていかれて、他のことが頭から抜け落ちてしまった。

 もし、そうなら……

(よ、よかったぁ)

 私に魅力がないわけじゃないんだ、と愛はほっと一息。
 だが、尊がお化けが苦手なら、悪いことをした。

「そっか。じゃあ早く、ここを出ないとね」

「そ、そうだな? まあ、俺は怖くもなんともないわけだが……」

「うーらめしやー!」

「いぃいいいいひいいぃいい!?」

 歩き始めた最中、天井からのっぺらぼうが落ちてきて……尊はついに、悲鳴を上げた。
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