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第二章 ヒーローとしての在り方

第39話 私たちが遊園地に来た!

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「ついたー!」

 電車に揺られ、約十分。無事目的地の駅につき、愛と尊は電車を降りた。
 電車であれば、遠い駅もすぐだ。それに、尊と話していたおかげで、時間が早く感じた。

 電車の中では、別段トラブルなんてなかった。
 満員でもなかったし……痴漢をされる、なんてこともなかった。

 まあもし、痴漢をしてくる輩がいれば、どうなっていたかわからない。相手が。
 普通の女の子なら、痴漢に遭遇したら恐ろしくてなにもできないだろう。だが、日々怪人と戦っている愛にとって、痴漢なんて大した相手ではない。

 ……プールでナンパされそうになったときのことを、すっかり忘れている愛である。

「こっから少し歩くけど、大丈夫か?」

「んへへ……あ、う、うん! もちろん!」

 まあ痴漢なんかには絶対触らせないが尊になら少しくらいは……なんて、脳内お花畑なことを考えていた愛は、正気に戻る。

 駅から遊園地までは、まだ歩くようだ。
 だがそれくらいのことは、なんてことはない。

 尊の案内に任せて、愛は進む。
 その際、無意識にではあるが、持参した鞄をぎゅっと握っていた。正確には、中に入っているあるものを大切そうに。

「来たー!」

「おぉ、結構賑わってるな」

 十分ほど歩いたところで、大きな施設の前にたどり着く。
 人の通りは多く、休日ということもあってか人の出入りも盛んだ。もし一人なら、愛は絶対入らない場所だ。

 だが、今回は帰るわけにはいかない。

「すみません、このチケットを……」

「お二人様割引チケットですね、ありがとうございます」

 受付にて、尊が受付の人に割引チケットを見せていた。
 そういえばどんなチケットなのか見せてもらっていなかったが、どうやら二人で一枚を使えるタイプのものだったらしい。

 どのみち、他のメンバーは誘えなかった、ということだ。

「よし、行こうぜ」

「う、うん」

 どうしてか、これからというときに緊張してきた。愛は、自分の心臓がバクバク騒いでいるのを、感じた。
 落ち着け、と胸に手を当てる。こんな激しく音を鳴らしていたら、尊にもバレてしまう。

 愛の緊張が、伝わったのかはわからないが……尊は、愛の手を取り、入口に向かって歩き出した。

「……!」

 愛よりも大きくて、硬い手が、愛の小さな手を掴んでいた。
 これまでだって、尊と手を繋いだことはある。軽いスキンシップだって。

 ……だが、これはその、今までのどれよりも、ドキドキしてしまう。
 尊はきっと、いつものスキンシップのつもりだろうけど。

「……っ、わ……」

 あまりの恥ずかしさにうつむき、転ばないようになんとか足を動かしてついていき……
 遊園地の入口をくぐったところで、先ほどまでとは違う、賑やかな空間が愛を包みこんでいく。

 不思議だ……壁があるわけでもないのに、入口の外と中とで、こんなに違うなんて。
 その賑やかさに、しばし圧倒されてしまう。

「んじゃ、愛。なにから乗ろうか」

 振り向き、尊が聞いてきた。
 そうだ。時間は限られている。こんなところで圧倒されている場合ではない。

 遊園地といえば、定番はジェットコースターや観覧車だろう。
 だが観覧車はラストに取っておきたいし、ジェットコースター……というか激しめのものは、鞄の中身が崩れてしまう可能性がある。

 なので、はじめのうちは落ち着きのあるものに、乗りたい……

「うーん……コーヒーカップ?」

「なんで疑問形なんだよ」

 目に入ったのは、コーヒーカップだ。
 いくつものコーヒーカップの中に、二人か三人の人が入り、楽しそうにカップを回している。

 異論もないので、尊もうなずく。なので、愛はそそくさとコーヒーカップに乗るのだが……

(あれ? これ思ったより恥ずかしいかもっ……)

 尊と対面になる形で座ると、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。
 いつも、食卓を囲うときと同じ配置なのに……どうして、こうも違うのだろう。

 そして愛は、気づく。周囲で回っているそのほとんどが、カップルであることを。

(わ、わー! わー!
 これって、私たちもその、かか、カップルに、見えてるのかしら!)

「よし、回すぞ愛」

「え、あ、うん」

 気づいてしまった事実に、愛の頭の中はすでにお祭り騒ぎだ。
 対していつも通りに見える尊は、緊張などしていないのだろうか。

 くるくると回るコーヒーカップに揺られ、愛は髪を押さえた。
 正面では、楽しそうな尊……こういうのも、いいかもしれない。

「いやぁ、コーヒーカップなんてってバカにしてたけど、案外楽しいもんだな」

「そだね」

 ひとしきり回り終えた後、時間になりコーヒーカップから降りる。
 愛も、自分から選んだのにコーヒーカップをナメている部分はあったが……楽しい時間を、過ごせた。

 さて次は、という話になり、歩きながら気になったものに行こうという結論に。
 二人並んで歩いていると、少し先ではウサギのようなキグルミが、子供たちに風船を配っていた。

「あ、ウッサーだ」

「ウッサー?」

「子供に人気なんだよ。海が好きだから、私も覚えちゃった」

 黄色のカラーリングに、垂れ目のウサギ。なんというか、愛嬌があるような気がする。
 確かに、愛の弟海が、好きそうだ。

「愛、風船もらってきたらどうだ?」

「む、私そんなに子供に見える?」

「いや、そうじゃ……ないけどさ」

 なぜ今変な間を空けた。

「海へのプレゼント的な」

「うーん……ウッサーから貰ったっていっても、風船は風船だしな。
 それにこれからってときに、ちょっと邪魔になっちゃう」

 午後からは、ジェットコースターなどの派手めなアトラクションに挑戦するつもりだ。
 そのときに、わざわざ風船があっては邪魔になる。

 納得する尊。
 そのウッサーの近くに、お化け屋敷を発見した。

「あ、ねえあれ行こうよ! お化け屋敷!」

 目を輝かせて、愛が言う。
 見るからに、興味津々だ。

 そして、尊はというと……

「え、ん、あぁ、うん……い、行こうか」

 どうしてか、ちょっと顔が青くなっていた。
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