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第二章 ヒーローとしての在り方
第36話 挙動のおかしな二人
しおりを挟むさて、尊からデート(暫定)のお誘いが来て、愛の頭の中はそれはもうパニックだ。
本当なら、恵と最低でも小一時間ほど話し合いたいところだ。
だが、昼休み中の残り時間はもう少なく、結局ろくな話もできずに教室に戻ることになった。
正直愛があんなに狼狽えていなければもう少し時間はあったんじゃないか……と恵は思ったが、そこは口を閉じておいた。
そして二人は、教室に戻る。
「……っ」
教室に戻ると、愛は視線だけで、自然と尊を探してしまう。
クラスメイトと話している尊を見つけ、胸が高鳴る。
彼は、見たところいつも通りだ。とても、先ほどあんなメッセージを送ってきたとは思えない。
ひょっとして、本当に別の人が尊のスマホでいたずらしたんじゃないか……そんな気持ちも、湧いてきた。
「……!」
だが、ふと顔を動かした尊の視線が、愛と合い……尊は、目をそらした。
それは、これまでにない行動。これまでなら、人目も気にせず手を振ってきたりしたはずだ。
少なくとも、無言で視線をそらす、なんてことはなかった。しかも、反射的に。
「あいあい、どしたん?」
「! な、なんでもないよ」
尊の挙動に気がついたのは、愛だけだ。
恵は首を傾げていたため、気がついている様子はない。
このまま尊に直接聞きに行きたかったが……こんなクラスメイトのいる前で、そんな勇気はなかった。
それに、授業開始の予鈴がなったため、そのような余裕もなかった。
先生が入ってきて、授業が始まってからも……愛は、尊からのメッセージが気になって、仕方がなかった。
(あぁもう、すごくモヤモヤする! てか、今週っていきなりすぎない!? 私にもいろいろ、じ、準備ってもんがさ……
そ、そりゃ嬉しいけど……尊とお出かけ自体楽しみなのに、ゆ、遊園地なんて……うへへへ)
「……ぎ…………おい柊! 聞いてるのか!?」
「ひゃお!?」
自分の世界に入っていた愛だが、呼ばれていたことに気づきとっさに変な声を上げ立ち上がってしまう。
今は、授業中。先生からなにかしら当てられて、反応がなかった愛が何度も呼ばれたのだ。
クラスメイトからも、注目の的になっている。
(うわ、わ、私今、変な声……は、恥ずかしい!)
「どうした柊、珍しいなボーっとして。
なにか考え事か?」
「そ、そんなんじゃないですけど!?」
「お、おう……怒んなよ」
普段、真面目な愛らしからぬ行動だ。反省しなければ。
「それで、ここの問四の答えだが……」
「あ、はい。そこは……」
正直聞いてなかったたが、聞かれたのが問題の答えなら、答えるのは容易い。
前後の計算式を確認し、愛はすらすらと答えを述べていく。
「ん、正解だ。だからって、授業をボーっとしてていい理由にはならないぞ?」
「す、すみません」
クラス内で、どっと笑いが起こる。普段の愛とは違った姿に、新鮮味を感じる者もいる。
当然、尊も笑って見ていた。
「は、恥ずかしい……」
小さくつぶやく愛は、縮こまったまま座った。
その後は、真面目に授業を受けた。
そして、なんの問題もなく授業は終わり……尊に、話を聞きに行こうと思ったときだ。
「おぉい神成、ちょっといいか」
先生に呼ばれた尊が、一緒に教室の外に出てしまった。
タイミングを逃してしまったが、放課後にまたチャンスがある。ならばその時だ。
六時限目の授業は、今度こそ最初から真面目に受ける。
ただ、無意識のうちにチラチラ尊の姿を見ていたのだが。
愛の席は後ろの方なので、尊本人にはバレずに尊の背中を眺めることができる。
そして、授業……ホームルームも終わり、放課後。
後は、帰宅するだけだ。愛は帰宅の準備をし、尊の下へと駆けていく。
「尊ー、帰ろー」
「おう」
よし、これで二人きりの時間を確保できた。
あとは、昼間のメッセージについて、話を聞くだけだ。
簡単なことだ。そもそも、誘ってきたのは尊なのだから、愛から待ち合わせ等について聞くことは、なんの不思議もない。
「そういや、こないだやってたテレビでさ……」
「あぁ、あの芸人面白かったよね!」
ただ、聞くだけ……
「最近あっちぃよなぁ。そろそろ凉しくなってもいいんじゃねえか」
「これが温暖化ってやつなんだろうねー」
聞くだけ……
「そんじゃ、またな」
「うん、またね」
気がつけば、自宅の前につき……尊は、自分の家に帰っていった。
結局、帰り道で昼間のことを聞き出すことは、できなかった。
(なにやってんだ私……)
トボトボと、家に入る。
今日は、まだ愛しか帰ってきてはいない。とりあえず「ただいま」と言ったが、返事はない。
その足で自室まで行き、荷物を置いてベッドにダイブ。
「うー……ってか、尊から話題持ってきてよ! バカァ!」
スマホの画面を開き、映し出されたのは尊とのメッセージのトーク画面。
そこには、確かに尊からのお誘い文面がある。
ならば尊の方から、待ち合わせは~とか言ってくるものではないのか。
愛は自分の勇気が出なかったのを、棚に上げた。
そんなときだ。手に持っていたスマホが、ブルルッと震えた。
「わぁ!」
直後、トーク画面にメッセージが表示される。
尊から、新たなメッセージが来たのだ。
そこには、待ち合わせ時間と場所の提案が書いてあった。
「……直接言えばいいのに」
そう呟きながらも、愛は問題ないと返信する。
それにしても、待ち合わせ場所が駅前になっている。わざわざ別の場所で待ち合わせないでも、家の前で待ち合わせればいいのに。
待ち合わせて、遊園地に遊びにいくなんて。それは本当に、デートみたいではないか。
「……まさか」
尊が直接言わなかったのは、愛と同じように直接言うのが恥ずかしかったからではないか……そんな気さえ、してくる。
あの尊が、そんな繊細なことを思うのか、と疑問もあるが。
そして、愛は気づいていない。
愛の考えていた通り、直接話をするのが恥ずかしく感じていた尊が、画面の向こうで若干緊張をしていたのを。
さらに、愛は気づいていない。
トーク画面を開きっぱなしだったので、尊のメッセージには即既読がつき……メッセージを即見ていたのを、知られたことを。
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