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第二章 ヒーローとしての在り方

第31話 デートしましょう!

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『私とレッド、同じ日を休日にしてください!
 レッド、その日デートしましょう!』


 ピンクの、その堂々たる宣言。
 それを聞いた一同は、みな一様に固まっていた。

 その中でも、一番衝撃が大きいのは……当然、正面からデートを申し込まれたレッド、愛だ。
 彼女は、言葉を失っていた。

(な、な……なに言ってんの、この人……!?)

 頭の中は、もはやパニックだ。
 これまでの人生の中で、告白されたり、いわゆるデートに誘われた経験が、ないとは言わない。愛としても、女としての魅力を自覚するため悪い気はしなかった。

 それでも、これまで誰の誘いも受けなかったのは、意中の相手が愛にはいたからだ。彼は愛のことを女として見ていないのかもしれない……
 それでも、彼を想うこの想いを、裏切ることはできなかった。

 ……そんな愛でも。さすがに同性にデートに誘われるのは、初めてだった。しかも、こんなみんなの前で。

「えと、と……ぴ、ピンク……?」

 なんとか、声を絞り出す。
 震えてしまって、いつもの威厳ある声をキープできているだろうか。ちゃんと男っぽい声を出せているだろうか。

「その……今の、は……」

「あら、もちろん本気よ」

 困惑するレッドに、ピンクは真正面から見て返す。
 顔は見えないが、きっと彼女は真っ直ぐな目をしていることだろう。

 彼女が、悪ふざけでないのはわかった。
 だが……

「その……すまない、俺は……誰とも、付き合うつもりは……」

「あら、私はまだ付き合って、とは言ってないわよ?」

 なんとか断るための言葉を見つけようとするレッドに、ピンクは言葉を重ねた。
 今のは、デートに誘っただけで付き合ってとは申し込んでないと……まだ。

 確かに、デートに誘うイコール付き合う、ではないなと、愛も納得する。

「これは、デート。お互いの親睦を深めるための、ね。私たちまだ、プライベートで遊んだこともないじゃない?」

 もっともな、ピンクの言葉。
 だが、プライベートで遊ぼうなどと……愛にとっては、無理な話だ。

「俺は、素顔を晒すつもりはない。ピンクだって……」

「私は、別にレッドになら素顔を見せても構わないけど? でも、そうね……嫌がるレッドを無理強い、っていうのもそそるけど、まだそういうのは早いわよね……」

 素顔を見せてもいい……それは、どれほど覚悟の決まった、言葉であろうか。
 なんだか途中に不穏な言葉が聞こえてきたが、愛は聞こえないふりをした。

 そして、なにかを思案したピンクは……

「なら、この姿のままでのデートはどう? 私が素顔でレッドとデート、っていうのも考えたけど、今の世の中スキャンダルにうるさいから……
 その点、レッドとピンクなら、ヒーロー同士だし問題ないんじゃない?」

「大アリだろ!」

 名案だと言わんばかりに、手を叩くピンク。ふふん、と見えはしないがおそらくドヤ顔を決めているピンクに、ツッコミを入れるのはイエローだ。
 その案には、問題がある。その意見には愛も賛成だ。

「なにが問題なのよ」

「なにもかもだ。……だいたい、レッドとピンクが交際疑惑だって、充分スキャンダルだろ」

 そういう意味だけではないが、愛的にもイエロー寄りだ。ヒーロー姿のままでピンクとデートするというのは、いろいろ問題だ。
 ピンクは、なにが問題なんだ、と言わんばかりの表情を浮かべているが。

 だいたい、ヒーロー二人が揃ってお買い物なんて……

「それこそ、人に囲まれて終わりだろうな」

「そうそれ!」

 ブルーの指摘に、イエローが手を叩く。
 仮にレッドとピンクの姿で一緒に出かけた場合……ヒーロー目当ての人々に囲まれて、身動きが取れなくなるのは、目に見えている。

 ヒーロー一人でも危ないというのに。

「むぅ……なら、やっぱり素顔でデートしましょ! それなら私たちがヒーローなんて、わからないわ!」

「それはできない」

 こうも好意を向けてくれているのは、愛にとっても悪い気はしない……相手が女性で、かつレッドに対してでなければ、だが。
 レッドの対応に、ピンクは負けじと食らいつくが……どれだけ言われても、愛が首を縦に振ることはない。

 しばしの問答の末……

「はぁ……わかった、諦めるわよ」

 渋々、といった形で、ピンクは諦めを告げる。
 しゅんとした姿を見ていると、少し悪いことをした気にもなってしまうが……ここで情けをかけては、いけないだろう。

 それほどまでに、レッドとデートがしたいだなんて……

「でも、そこまで頑なに拒否するなんて……私、ちょっと傷ついちゃうわよ? 私結構尽くす方だし、胸だってそれなりに大きいんだけどなぁ」

「「「!!?」」」

 まさかのカミングアウトに、この場にいたブルー、グリーン、イエローが肩を震わせる。
 男性もいる前でこの発言とは、ピンクには羞恥心がないのだろうか。

 しかし、このままではピンクの自尊心を傷つけてしまいかねない。
 なので……

「いや……ピンクに、問題があるわけではない。俺個人の、問題だ」

 キミは悪くないと、フォローを入れる。
 こうしておけば、ピンクが負ったダメージも少なく済むはずだ。

「レッドの問題? ははーん、中身は結構おじさんとか? 私そういうの全然気にしないわよ、私はあなたの中身を気に入ったんだから。
 それとも……あはっ、まさか実は女の子とか?」

「!?」

 レッドが自分の誘いに乗らない理由を考えるピンクは……指を立てて、次々と言葉を滑らせていく。
 その中に、レッド……愛にとって、決定的となる言葉があることに、ピンクはまだ気づいてはいない。
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