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第二章 ヒーローとしての在り方

第30話 ヒーロー会議

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「それでは、月に一度のヒーロー会議を始める」

「……」

 座るヒーローたちを見て、博士が切り出す。
 月に一度の恒例である、ヒーロー会議。今日がその日だ。

 プールから帰った愛は、次の日がヒーロー会議の日であることをすっかり忘れていた。
 次の日にヒーロー会議とはツイてなかったが、愛にとってはプールの疲れなどを次の日にまで引きずることはない。

 その愛は、当然ながらレッドの姿だ。ヒーロー会議は、五人のヒーローが一堂にかいし、博士の研究所の一室で行うものだ。
 そのため、ヒーロー服で集まるのが暗黙の了解だ。

 愛の他に、ブルー、グリーン、イエロー、ピンクがいる。
 ブルーとは、この間ショッピングモールでニアミスした。素顔だが。
 グリーンは、プールの件で駆けつけてくれた。

「あの……ピンク?」

「えぇ、なぁに?」

 それぞれ、ヒーロー活動に真摯で、愛としても見習うところがある。
 そんな中……ヒーローとして尊敬はしているが、人として困惑する人物もいる。

 今、レッドの右腕に絡みついている、ピンクがそうだ。
 彼女は、レッドの右腕に自らの腕を絡ませ、レッドの右半身に上体を預けている。そして、己の胸を、これでもかと押し当ててくるのだ。

(ホントなんなのこの人……! この女……!)

 押し付けられる膨らみは、間違いなく女性のそれだ。
 ヒーロースーツは伸縮自在で、体型を隠す性能性に優れている。そのため、本当は女の愛も、レッドが男であると偽ることができている。

 だが、偽れるのはあくまで見た目の話。
 こうして直に触れ合ってしまえば、体の硬さ、柔らかさもわかってしまう。

 まあ、自分からわからせようとでもしない限り、体型がバレることはほぼない。でないと、ふと触れ合った瞬間にレッドの正体がバレてしまう。こうしてピンクに触らせるわけない。
 それに、だ。

「あぁん、レッド……細腕なのに逞しい筋肉……」

「……ども」

 怪人を、倒して倒してバッタバッタ倒しているせいだろう。
 愛は、同級生の中でもわりと腕に筋肉がついてきていた。目に見えて、腕が太くなったわけではないが。
 そのせいで、男だと信じられやすくなっている。

 これもヒーローとしての功績だと言われればそうなのだが、だとしても年頃の女の子として複雑だ。
 もしもピンクが尊で、尊に腕をさわさわされるのだと考えれば……

 それは、アリだ。

「ピンク、会議中だ」

「うるさいわねカレー色。気安く話しかけないで」

「カッ……」

 レッドにべたべたしているピンクを注意するイエローだが、ピンクは気にもしない。
 このように、ピンクは同じヒーロー同士でも他人に厳しい……レッド以外には。

 レッドにべたべたの理由は、まあわざわざ話すまでもないが……

「あぁ、ええよええよ楽にしてくれ。
 それより最近、怪人の出現も活発化しておる。じゃが、それをいち早く察知して、レッドが処理してくれておる」

「さすがレッドだわぁ」

 ……このように、要はレッドラブなのである。
 いつからかはわからない。どうしてかもわからない。ただ、ありのままを話すと……気づいたらこうなっていた。

 博士含め、他のメンバーにバレてもお構いなし。むしろ見せつけているすらある。
 さすがに、うっとうしいからと引きはがすわけにもいかないが……

(胸! さっきから胸押し付けてくるこいつ! む! ね!)

 腕に押し付けられる大きな膨らみに、愛はイライラをなんとか隠していた。
 押し付けられる感じ、愛よりも大きい。そんなものを押し付けられれば、男なんて一発だ。
 ピンクはそう思っているのかもしれない。

 だがレッドには通用しない。だって女だから。

(それにしても、よくもまあこんなものを隠せるよなぁ)

 まさにスーツ様様だ。中の人が女性とはいえ。
 愛的に助かってはいる。あと動きやすそうだ。

「……それで、レッドからの案で、ヒーローにも休みが必要ということになってのん。いやぁ、もっと早く気付くべきだったんじゃが」

「仕方ないでしょう。怪人が増え始めたのは最近……以前までは、出動することなんてあまりなかったですし」

「しかし、休みかぁ。そう言い出した張本人が、怪人を倒していたら世話ないぞ? はっは!」

「お、同じエリアにいたからな……」

 話題は、ヒーロー休日日問題へ。
 イエロー、グリーンの発言を受け、レッドが答える。休日でも、さすがに同じエリアに怪人が現れては、放ってはおけない。

 結果的に、仕事熱心みたいになっているが。

「あぁ、そんなレッドも素敵ですわ」

「ははは……」

「それで、みんなからはなにかあるかの」

 ヒーロー会議は、博士とヒーローたちとの情報共有会だ。
 もちろん、このような会議がなくても、情報は逐一みんなに共有している。それでも、顔をあわせることが重要なのだ。

 まあ、顔はみんな隠しているが。

「やっぱり最近は怪人の活動が……」

「オレこないだ女子高生にサインねだられちゃったよ」

「地域活動にも参加していて……」

 と、このようにそれぞれ感じたことを話し合う。
 中には他愛ない話もあるが、それも含めてのヒーロー会議だ。

 愛としては、この会議は自分の正体がバレないか、緊張の時間でもある。
 とはいえ、用事もないのに欠席するわけにもいかない。愛は真面目だった。

「ふむふむ、なるほどの。ピンクからは、なにかあるかの」

 交わされる言葉を受け、博士がうなずく。そして、話の先は先ほどからレッドにべったりの、ピンクへ。
 それを受けたピンクは、はい、とまるで子供のように元気に手を伸ばして。

「私とレッド、同じ日を休日にしてください!
 レッド、その日デートしましょう!」

「……ん?」

 とんでもないことを、言い出した。
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