上 下
26 / 46
第二章 ヒーローとしての在り方

第26話 バレちゃった……!?

しおりを挟む


「あいあいー!」

「わぷっ」

「もー、どこ行ってたの! 心配したよー!」

 尊に手を引かれ、愛は恵、山口と合流した。
 愛を見つけた恵はすぐに駆け寄ってきて、隣にいた尊を押しのけ、愛を抱きしめた。

 その力強さに、恵がどれだけ心配してくれていたのかがわかる。

「ご、ごめん……」

「でも、怪我とかしてないようでよかったよ」

 恵の背後から、山口が歩いてくる。
 彼は、尊と比べるとやはり貧弱なイメージを受ける。まあ尊と比べると、クラスのほとんどが貧弱になってしまいそうだが。

 そんな山口に想いを寄せる恵。
 彼女の着ている水着は……


『うーん……うん、これいいね!
 オフショルビキニ! この……フリルがついてるやつ! 色は黒!』

『く、黒かぁ……ちょっと、派手じゃない?』

『ちっちっち。男ってのは、単色かつシンプルなデザインを好むものなんだよ。
 それにめぐみさんは、スラッとしててかっこいい感じだから、黒が映えると思う』

『そ、そうかなぁ……
 でも、同じ水着でもいろんな種類があるよね』

『そうだね。えっと……この肩紐つきのやつ、かな。こっちのが、他のより清楚感があるからね。
 この水着はセクシーに見せられるけど、逆にセクシーを狙いすぎて下品に見える、なんてこともあるから、組み合わせには気をつけないと』

『し、師匠……!』


 水着選びの際、渚との間にそんなやり取りがあり……選んだのは、フリルのオフショルビキニだ。
 上下ともに黒で、モデルのような恵のスタイルがよく映える。

 試着したときもそうだったが、やはりプールという環境だからか、なんだか余計に似合っているようにも思える。

「ところで恵」

「なぁにあいあい」

 恵に抱きしめられたままの愛は、小声で恵に話しかける。
 その姿に、恵は首を傾げた。

「山口くん、なんて言ってた?」

「!? な、なな、なんでそこで山口くんが出てくるのよ!?」

「だって山口くんに見せるために買ったんでしょ」

「ぅ……」

 愛からのいきなりの突っ込みに、恵は顔を真っ赤にした。わかりやすい。
 これでよく、今まで個人への好意を悟られないようにできたものだ、と愛は感心する。

 ちなみに本人は気づいていないが、好意を隠しきれていなかった愛とは大違いである。

「ほらほら、言っちゃいなよ」

 ニヤニヤと笑いながら、愛は先の言葉を促した。
 適当に誤魔化してしまいたい恵だが、そもそも山口のことが気になっている……と話をしたのは恵本人だ。

 だからこれは、別に面白がっているわけではない。ただ恵の恋の行方を気にしているだけなのだ、と愛は自分に言い聞かせた。

「その……に、似合ってるって、言ってくれた。スラッとしてて、きれいだって」

「ぉおおおぉおおお……!」

 普段は見せない恵の女の顔に、不覚にも愛はドキリとしてしまった。
 あぁ、その場面をぜひとも見たかった。山口がどんな顔をして褒めたのだとか、褒められた恵はどんな顔をしていたのだとか。

 つくづく、あの時現場にいなかったことが悔やまれる。
 本当に、あの怪人は余計なことをしてくれたものだ。あと百回くらい殴っておけばよかった。
 怪人はもういなかったが。

 ……そうだ、怪人といえば……

「そういえば尊、あの女の人はどうしたの?」

「んぁ?」

 あの時、尊と一緒にいた女性。怪人に襲われそうになり、足を捻ってしまっていた。
 それを、尊はお姫様抱っこで共々避難したのだ。

 ……尊のファーストお姫様抱っこ(多分)を奪った女だ。思い出しただけでも憎たらしい。しかも、盗っ人だ。
 本来なら気にするべきではないが……それでもやはり、愛はヒーローだ。
 だから、ちゃんと避難できたのか、気になる。

「女の人って、あぁ……あの足捻っちゃった人か。係員さんに届けて、そのままだよ。無事ではある」

「そっか」

 よかった……と、愛はほっと胸をなでおろす。
 だが……

「ところで……愛はなんで、そのことを知ってんだ?」

「え……ぁ」

 それは、当然の疑問でもあった。
 尊が、動けない女の人を助けた。それは事実だが、それを知っているのは尊本人と……あの場にいた、レッドだ。
 愛では、ない。

 愛が知らないはずの情報を、なぜ愛が知っているのか。そういう話だ。

「ん? なんの話?」

 そして恵は、なんの話がされているのか理解していない。
 山口も同じようだ。つまり、尊はこの話を、二人にもしていない。

 ならばますます、なんで愛がこの話を知っているのだという話になる。

「……お前、もしかして……」

 ふと、尊の視線が鋭くなる。
 その視線を受け、愛は体の奥に熱が灯ったように……いやそれどころではなく。なにもかもを見透かされたような気持ちになった。

 まさか、バレてしまった……? 愛が、レッドだということを。
 これは、どうごまかすべきだろう。それとも、ごまかしきれないのだとしたら……?

 心臓の音が、大きくなっていく。
 次に告げられる尊の言葉を、愛は、目をぎゅっとつぶって聞いて……

「どっかで、俺があの人を運んでるところ見てたのか?」

「……へ?」

 間の抜けた、声が漏れた。
 きょとんと目を開いて、パチパチと何度か、まばたきをして。

「違うのか?」

「へ……あ、あぁ! そう、見てた! 見てたんだよ!」

「なんだそうか。だったら、声かけてくれよ。わざわざあれから探したんだから」

「あはははは、ごめんごめん」

 尊が人を運んでいるのを、どこかから見ていた……そう、解釈したらしい。
 とんでもない勘違いだが、愛は全力でそれに乗っかる。尊が鈍感で良かった。

 わざとらしく笑う愛に、恵は終始、きょとんとした表情を浮かべていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

処理中です...