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第二章 ヒーローとしての在り方
第19話 さあ水着選びの時間だ
しおりを挟む「きゃー、なにこの子超かわいいー!」
「むぎゅ……」
はしゃぐ恵は、目の前の小さな女の子……渚を、ぎゅっと抱きしめる。
身長の関係で、恵が抱きしめると、渚は恵の腹部に顔を押し付けられる形になる。
その光景に、愛は苦笑いを浮かべながらも、二人を引き離す。
「はいはい、渚ちゃん窒息しちゃうから」
「あ、ごめんごめん。
でも、渚ちゃんって言うんだ。こんにちは、初めまして」
「しゃーっ」
恵の抱擁から解放された渚は、愛の後ろに隠れる。
膝を折り、目線を合わせて微笑む恵に、渚はすっかり警戒心を抱いたようだ。
……さて、この三人が、休日に同じ場所にいるのには、理由がある。
「ほら渚ちゃん。恵も悪気はなかったんっだし、許してあげて」
「……はじめ、まして」
「恵も、いきなりあんなことしない」
「ごめんなさい」
とりあえず、愛は仲裁に入る。
いつも、恵や渚、それぞれと女の子だけのお買い物に来ることはある。
そのため、渚と恵は初対面だ。
「あの……渚、迷惑じゃない、かな」
「全然! かわいい女の子なら、大歓迎だよ!」
そもそもこうなった要因は、数日前……プールの約束をした日の番にまで、遡る。
『え、あいちゃんプール行くの!? いいなぁ……
あ、もしかしてたけにぃ好みの水着を買いに行くの!? だったら任せて! あの朴念仁でも、一発で悩殺しちゃう水着を、渚が選んであげる!』
愛が、尊たちとプールに行くことを聞いた渚。
彼女が、自ら水着選びに参加したいと言い出したのだ。
元々は、愛と恵と二人で、水着選びに行くつもりだった。
そこに、初対面の渚を混ぜることに不安がなかったわけではない……が。
『あいちゃんのお友達と一緒に?
うーん……知らない人はちょっと怖いけど、あいちゃんのお友達なら大丈夫かな』
『水着選びにもう一人連れて行きたい? んー、いいよいいよー。
……はっ? たけたけの妹!? なにそれ超見たい!』
……二人に確認したところ、水着選びに渚が同行することは許可が下りた。
せっかくの渚の気持ちを無下にも、したくはないし……それに、渚ならば尊の好みがわかる、という甘い言葉に乗りたかった。
対面時こそああだったが、二人ともいい子だし、変なことにはならないだろう。
「じゃ、さっそく行こっか。
ってか、そういえばこのモールだよね。怪人が現れたっての」
「うん。怖かったけど……でも、あのときブルー様が颯爽と現れて、助けてくれたの」
「そっかぁ、やっぱりヒーローってすご……ブルー様?」
恵の言うように、怪人の暴れた場所だ。近場では、一番品物が充実している。
あのときは結構な騒ぎだったが、今ではすっかり元通り。
……よくも悪くも、怪人というものに慣れてしまったのだろう。
「うわぁ、水着ばっかりだ……」
「そりゃ、水着売り場だし。それに、シーズンだからこそ、気合も入ってるってもんでしょ」
一行は、水着売り場にやって来る。
休日だけあって人も多いが、理由はそれだけではない。恵が言ったように、シーズン中だからだ。
海、プールの季節。だからこそ、水着売り場の気合いも入っているし、逆に海やプールに行く人間の数も多くなる。
したがって、水着の買い手も増えるというものだ。
「そんじゃ、買おうか。
あいあいは、どんな水着を……あぁ、たけたけの趣味に合わせるんだったねぇ」
「言い方!」
「うーん……たけにぃは単純だし、ビキニとかで肌見せとけばいいと思うよ」
「渚ちゃん!?」
水着売り場に足を踏み入れ、さっそく三人は水着を見て回る。
渚は「冗談だよっ、冗談。半分ね」と言いつつ、愛の水着選びに真剣に付き合ってくれた。
そして、真剣なのは愛と渚だけではない。
「うーん……」
「……めぐみさんは、好きな人を振り向かせたい水着を求めてるんでしたっけ?」
「うん……えっ?」
水着を前に唸る恵。そんな彼女に話しかける渚。
思わず応えてしまうが、恵ははっとして振り向く。
恵は、自分が山口のことを気になっているというのは、愛にしか話していない。
つまり、その話が漏れるということは、愛が話したということ……
「あいあいー? 山口のこと……」
「え? いや、ちがっ……私なにも……」
「いや、あいちゃんからはなにも聞いてないですよ?
ただ、見てればわかりますよ。あぁ好きな人のために水着を選んでるんだなぁって」
「……」
愛に掴みかかろうとしていた恵だったが、渚の言葉に固まる。
そして、みるみる顔を真っ赤にしていって……
「あ、好きな人のこと、山口さんって言うんですね」
「っ!」
渚のいたずらめいた言葉により、ぼんっ、と破裂した。
顔からは。湯気が出ている。
つまりは、恵は勝手に墓穴を掘ってしまったわけだ。
「うぅ……ごめんあいあい……」
「いや、いいけど……それにしても渚ちゃん、すごいね。恵のこと話してないし、会うのも初めてなのに」
「うーん、渚、なんだか人の気持ちに過敏みたいなんだよね。
あ、それとも、めぐみさんがわかりやすかっただけかな?」
「!?」
「やめてあげて!」
この中で一番年下なのに、一番お姉さんな気がする……渚の将来性に、ちょっとしたおそろしさを覚える愛である。
そんな二人をよそに、渚は……
「うーん……めぐみさんはモデル体型だから、やっぱりセクシー系の水着かなあ……
いや、逆にかわいい系もありかも。最近だと、体型をカバーできる水着がありますけど、めぐみさんの場合は素で勝負した方がいいでしょうね」
近くの水着を見ながら、ぶつぶつと呟いていた。
恥ずかしい思いをした恵ではあったが、そのかいはあった。渚監修の下なら、きっと山口に喜んでもらえる水着を選べる!
そう感じて、恵は渚の隣に並ぶ。
「よ、よろしくお願いします! 渚ちゃ……いや、師匠!」
「はい……え、えぇ……?」
若干引き気味の渚に、恵は気づいていない様子であった。
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