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第二章 ヒーローとしての在り方

第10話 なんのためにヒーローに

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 怪人出現の報せ……うんざりするほど感じ取った、規則性のあるバイブレーション。
 その元であるスマホを取り出し、画面を見る。これから尊と渚と、楽しくショッピングだったというのに。

 なぜこのタイミングで、怪人が現れるのか。
 許さない。全身の骨を粉々に粉砕して、電柱にくくりつけてやる。

 そんな決意を固め、スマホに表示された内容に、愛は息をのんだ。

「っ、ここ……?」

 怪人が出現した位置……それはこの、ショッピングモール内を示していた。
 怪人が出現する場所に、規則性などない。ただ、これまでは人の多くいる場所に、比較的多く現れていた。

 そう考えれば、休日のショッピングモールなど、かっこうの的だ。 

「だからって、こんなときに……!」

「あいちゃん、どうかしたの?」

「あ……」

 たとえ、今いる位置と怪人出現地が離れていたとしても、ヒーロースーツを着用すれば、あっという間に移動できる。
 その手間がない分、今回は手早く対処できる。

 だが、ここにいる渚……そして尊に危険が及ぶ可能性がある。
 なにより、愛がヒーローレッドだと知られるわけには、いかない。

「えっと、実は……っ」

 口を開きかけて、愛は口を閉じる。
 このモール内に、怪人が現れたから避難して。そう訴えて、逃げている最中で二人を撒く……それが、できない。

 どうして、怪人が現れたなんてわかるんだ。そう突っ込まれたら、その時点でアウトだ。

「えっと、その……ちょっと、お手洗いに……」

「あ、じゃあ渚も行く!」

 ダメだ、うまい言葉が思い浮かばない。こうしている間にも、怪人の魔の手が迫っているというのに。
 このままでは……

「きゃー! 怪人よー!」

「!」

 時間は、待ってはくれない……愛が悩んでいる間にも、被害は大きくなっていく。
 どこかから聞こえる、女性の叫び。それに、周囲のどよめきが広まる。

 休日の平和をぶち壊す、怪人の存在。それに、怯えない方が無理だ。

「怪人? うそだろ!」

「た、たけにぃ……」

 とっさに渚を抱き寄せる尊。その表情には、冷や汗が流れている。
 妹を守る……その気持ちからの行動だが、本人も動揺を隠しきれていない。

 騒然となるモール内。早く逃げようとしている客に、店員が慌てた様子で避難誘導をやっている。

「おい、愛も行くぞ!」

「え、あ、うん、でも……」

「たけにぃ、怪人って……」

「大丈夫だ。きっと、ヒーローが……レッドが来てくれる!」

「!」

 尊は、愛に手を伸ばす。その手を掴めば、正体を隠したまま、ここから逃げることができるだろう。
 さっきまで、元気だった渚はすっかり怯えてしまっている。それは、ただ怪人が怖いから……だけでは、ない。

 怯える渚を落ち着かせようと、尊は渚の頭を撫でる。
 そして、優しく告げるその言葉に……愛は、はっとした。

 そうだ、自分はなにをやっているんだ……正体を隠すことばかりを考えて、渚を、尊を怖がらせて。自分はなんのために、ヒーローになったんだ。
 二人を……大好きな人を、もう二度とあんな目に遭わせないためだろう!
 また同じ思いをさせるくらいなら……正体がバレたって、構わない!

 愛は、ついに決意を固める。
 そして、悲鳴の発生源である、怪人が暴れている場所へ向かおうと足を踏み出して……

「そこまでだ、怪人! これ以上好きなようにはさせない!」

 ……聞いたことのある、声が周囲に響き渡った。
 この声は、知っている。最近は会うことは少なくなったが、以前はよく、怪人出現地で集合して、共に怪人を倒したものだ。

 自信に満ち溢れた、この声は……

「ブルー?」

「お、おい愛!」

 愛は弾かれたように、走り出し……手すりに掴まって、階下を見た。
 一階の、踊り場。そこには、暴れている怪人……全身黒タイツで背中から二本の腕が生えた怪人。異様なのは、その頭部が異様に膨れていることだ。
 それが、ある人物と対峙していた。

 その、ある人物こそ……ヒーローブルーだ。

「なんで、ブルーがもう……彼も、ここに来ていたの?」

 怪人出現の報せを受けて、こんなに早くここに来るには……あらかじめ、このモール内にいる可能性がある。
 ブルーが学生か社会人かはわからないが、基本的に休日である週末なら、このショッピングモールを利用していてもおかしくはない。

 同じ町に住んでいるのか、それともたまたまここに来たのかはわからないが。

「愛、いったいどうし……」

「ブルーが! ほら、ブルーがいるの!」

「なに!?」

 人ごみを抜け、尊は渚とともに愛の側へ。愛が指す階下を見て、二人は驚愕に目を見開いた。
 そこには、ヒーローブルーが、怪人と対峙し……あっという間に、怪人を制圧している姿があったのだ。

「ぐ、ぬぬ……バカなっ。レッド以外のヒーローは、たいして脅威でもないと、聞いていたのに……!」

「あいにくと、彼の活躍が目立ってばかりなのは、彼がとても早く任務を終えるから我々の出番がないからだ。
 それを、彼以外脅威ではない……と考えるのは、浅はかだな。その無駄にでかい頭には、脳みそが詰まっていないのか?」

「いでででで!」

 あざやかな動きで、ブルーは怪人を捉えた。対怪人用のワイヤーで縛り、動きを封じた。
 パワー重視のレッドに対し、ブルーはテクニック重視といった形だ。怪人の攻撃を、力で受けるのではなく受け流す。
 やがて怪人に隙が生まれ、そこを突いた。

 おかげで、ブルーが駆けつけてからの被害はゼロだ。その素早い対処に、愛は息を呑む。
 ちなみに、二人の会話はここまで聞こえるような声量ではない。ヒーロースーツの影響で聴力なども強化されていた愛だから聞こえただけで、尊も渚も聞こえてはいない。

 とにもかくにも、ブルーのおかげで被害は最小限で済んだ。
 おかげで、尊たちに愛の正体がバレることも、なく……

「……ん?」

 ふと、空を……いや、階上を見上げる、ブルー。
 その、ブルーと……愛の視線が、合ったような気がした。
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