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第二章 ヒーローとしての在り方

第9話 こうしてると普通の女の子みたい

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「よぉ愛」

「よ、よーぉ」

 服屋にて、服を物色……していたところへ、聞き慣れた声。
 振り向くと、そこには尊がいた。

 手を上げて、こちらに声をかけてくる尊。なので、愛も手を上げ、状況に頭がついていかないながらも返事をする。
 ここは、近所のショッピングモールだ。なにも、尊がいることに、不思議はない。

 問題は……

「あの、尊? ここ、女性用のコーナーだよ?」

 尊がいる……というか、自分が今いる場所は、女性用の衣類を扱っているエリアだ。
 そんなところに、なぜ男の尊がいるのか。

 間違って入ってきたなら、まだわかるが。そうでなければ……

「いや、待て、不審者を見るような目で見るな。ちゃんと用事が……てか、付き添いだよ」

「つ、付き添い?」

 まさか尊に変な趣味が生えたのだろうか、とうたぐる愛だが、違う違うと尊自ら否定。
 ここにいるのは、付き添いのためだと説明。それを聞いて、愛は訝しむ。

 付き添いで、女性用の衣類コーナーにいる……つまりは、女性の付き添いということになる。
 それも、このような場所に付き添うほどの仲……

 それを思い、愛の表情が一気に青ざめていく。
 今まで尊に、女っ気などなかった。だが、まさか……

「つつ、付き添、いって……も、ももも、もしかして、かか、かの……」

「んぁ、たけにぃ発見! およ? そこにいるのはもしかして……」

「ん? あぁ、あいつの付き添いだよ」

 尊への、女の影……その事実に愛は激しく動揺しつつ、真実を確かめようとする。
 しかしそのタイミングで、耳に届くのは明るい声。さらに、尊は愛の背後を指差し、"あいつ"の付き添いだと話す。

 その言葉を受け、あいつなる人物を確かめようと、愛は振り向こうとして……

「あいちゃーん!」

「ぶも!?」

 振り向いたその瞬間、脇腹に強烈な衝撃を受ける。
 あまりの衝撃に、吹っ飛んでしまいそうになる。しかし、ヒーローとして活動している愛は、不意の攻撃にやられてしまうほどやわではない。

 倒れてしまわないよう踏ん張り、その衝撃を全身に逃がす。一身で受けた衝撃も、全身に逃がすことで威力を拡散させるのだ。
 もしもこれが敵による攻撃ならば、即座にカウンターを叩き込むところだが……こんな人通りの多い場所で、仕掛けてくるとも思えない。

 いや、なにより……敵意が、ない。

「っつつ……えっと……?」

 愛は、その場で倒れないように忍びつつ、自分に突撃してきた人物を見る。
 今の衝撃は、誰かにタックルされたことによるものだ。その人物は……離れず、しがみついている。

 タックルというよりも、これは……抱きついてきたのか。

「わぁー、あいちゃんだぁ、久しぶりだぁ!」

「ん……その声……渚ちゃん?」

 愛に抱きつき、胸元に顔を押し付けている、黒髪ツインテールの女の子。その名を呼び、彼女が顔を見せる。
 その顔は、愛にとっても見覚えのある顔。

 神成 渚かみなり なぎさ、尊の妹である。見ての通り活発な性格で、人懐こい。

「うん、渚だよー!」

「じゃあ、尊が言ってたのって……」

「そ、妹の付き添い」

 女性の付き添い……その女性が、尊の妹であることを確認し、愛はほっと一息。

「こんにちは渚ちゃん。でも、久しぶりってほどかな?」

「渚にとっては、一日会えないだけでもあいちゃん成分が不足なのー」

 渚は久しぶりに会ったと言うが、実際には数日程度だ。
 それでも、渚にとっては我慢出来ないらしい。

 渚は二つ年下の、現在中学三年生。
 渚的には、愛と一緒の学校に通いたいようだが、残念ながらそれはまだ先の話である。

「それより渚、いい服あったのかよ」

「うん、あっちに良さげな服が……
 そうだ! あいちゃんも一緒に服見ようよ!」

「え、えぇ!?」

 これは名案だ、と言わんばかりに、渚は愛の腕を引っ張る。
 突然の展開にまたも置いてけぼりになりそうになってしまうが、考えてみればこれはラッキーだ。

 一人で服を選ぶよりは、同じ女の子である渚の意見もあったほうがいい。渚は、年下だがセンスがいいし、愛よりもおしゃれというものがわかっている。
 それに……だ。

 渚と一緒に服を見るということは、そこに尊も加わることになるだろう。
 つまりは、だ。尊の前で、尊が好きそうな服を選ぶことができる。

「おい、愛も用事があるだろうし、無理には……」

「ううん、大丈夫。一緒に服を見ようか、渚ちゃん」

「やった!」

 そんなわけで、思わぬ形で尊プラス渚が、ショッピングに加わることになった。

「それにしても、休日に兄妹で買い物とか、仲良いよね」

「たけにぃってば、全然おしゃれとか興味ないんだもん。だから渚の服を見に来たついでに、たけにぃの服も見に来たの」

「余計なお世話だっつの」

 渚が、良さげな服を見つけた場所へと二人を案内する。
 タタタ、と渚が先に向かった場所にあったのは、スカートコーナー。その中の一つ、ミニスカートを手に取る。

 赤を貴重とした、シンプルなデザイン。桃色の水玉が散りばめられていて、活発な彼女にはよく似合いそうだ。

「ふふん、どう?」

「……短すぎないか?」

「ミニスカならこんなもんだって」

「だがな……」

「もー、たけにぃのえっち」

 尊はこう見えて、シスコンなのだ。本人は否定するが。
 いつもは見れない、尊の一面。それを見ることができて、愛は嬉しく感じる。

 それに、一人っ子の愛にとって、この兄妹を見ていると心が和む。渚は懐いてくれているし、女友達として関係を深めている。
 しかし、いつか「お姉ちゃん」なんて呼ばれてみたいなと、愛は心の奥底で思っていた。

 こうして過ごしていると、普通の、なんでもない学生生活を満喫しているように感じる。
 だが……

「!」

 ポケットの中で、スマホが震える。愛のスマホではない、ヒーロー用のスマホ。
 つまりは、怪人が出現したということ。愛はスマホを取り出し、画面を見る。

 スマホに表示されているのは、怪人が出現した位置情報。それな正確な位置だ。
 こんなときに……

「え?」

 画面を見て、位置情報を確認して、愛は声を漏らした。
 表示されている、位置……それは、愛が今いるこのショッピングモール内だったからだ。
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