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第二章 ヒーローとしての在り方
第8話 お買い物にでも行こう
しおりを挟む他のヒーローと活動することはある。が、それはヒーロースーツ着用後でのこと。
スーツを着用していない状態、シラフでの交流はない。誰の中身が誰なのか、性別すらも不明だ。
もっとも、そのおかげでレッドの中の人を詮索されなくて、済んでいるのだが。
「最近は愛くんがあっちゅうまに怪人を倒していくから、他のヒーローと関わることもないしのぅ」
「ぬぅう……それはまあ、そうなんですけど」
別に、他のヒーローと密接になりたいとは思わない。だが、同じヒーローをやっているのだから、少しくらい仲良くなっても、とは思う。
しかし、ヒーローが集まるのは基本、怪人が現れ現場に集まったときくらいだ。
その機会を、愛自らが踏み潰しているのだから、目も当てられない。
「他にも、ヒーロー集合の場を設けようと思えばできるぞい。たとえば、このメンテナンス時とかの」
「それは嫌です!」
愛の要望で、ヒーロースーツのメンテナンスは、他のヒーローと時間をずらすようにしてもらっている。
少なくとも、愛は他のヒーローとメンテナンス時間が被ったことはない。
ヒーロースーツのメンテナンスなど、今から素顔で会いましょうと言っているようなものだ。だってスーツを着用していないんだもの。
そんな勇気は、愛にはない。
まあそもそも、ヒーロースーツのメンテナンスを他のヒーローも一緒にやったら、ヒーロースーツが使えないのでいざというときに出動できないのだが。
今や、ヒーロー同士で直接会ってあれこれ相談することはほとんどなく、博士を介して話し合うことが多い。
他のヒーローの声も、通信で聞いたことはある。が、愛のように声を変えている可能性もあるので、性別がわかることはない。
「さて……メンテナンス、終わったぞい。異常なしじゃ」
「よかったぁ」
一通りのメンテナンスが終わり、ヒーロースーツの問題ないことは確認。
ちなみに今更ではあるが、ヒーロースーツは物理的なものではない。愛たちヒーローに渡されたスマホの中に、ヒーロースーツのデータがある。
スマホを操作することで、内部にあるデータが具現化……使用者に着用される。
そのため、メンテナンス時にはスマホを解析し、異常がないかを調べることになる。
愛は、博士からスマホを渡される。
「……これ、今更なんですけど……このスマホの色が、赤いのって……」
「もちろん、レッドだからじゃよ」
「やっぱり……」
安直である。
「ま、いいや。メンテナンスも終わったし、あとはぶらぶらとショッピングでもしよーかなー」
「もっとわしとお話してもええんじゃよ?」
「ノー、です!」
メンテナンスが始まったのがお昼あたりで、今はだいたい三時間くらい経っている。
これから少し、ショッピングモールでもぶらぶらすれば、いい時間帯になるだろう。
愛はそそくさと、帰り支度を始める。
「釣れないのぅ。女子高生ともっとお話ししたいんじゃよ」
「そのセリフだけ聞いたら絶対通報されますよ」
博士は、だいたいをこの研究室で過ごしている。あまり外に出ることはないらしい。
なので、博士が人と会うのは、メンテナンス時か緊急の集合で呼んだときなど、そのくらいしかない。
どのみちヒーロー相手である。
話し相手がほしいなら、もっと外に出ればいいのに……と愛は思うが、口には出さない。
「じゃ、私帰りますね、博士」
「うむ。今後のシフトについては、追々伝えるからの~」
「あはは」
まるでバイトのようなやり取りに、愛は苦笑い。
バイトで人々を守るために怪人と戦うとは、誰が想像するだろう。
愛は、部屋を出て、その足でショッピングモールへと向かった。
――――――
休日ともなれば、モールは人で賑わっている。
お昼を過ぎていても、ある程度の数はいる。油断したら、人に酔ってしまいそうだ。
家族連れ、恋人同士、友達……いろんな人たちがいる中で、愛は一人、足を進める。
「最近暑くなってきたし、なにか涼し気な服買おうかな……」
そんなことをつぶやき、やってきたのは服屋だ。
モールには、階層ごとどころか同じ階にも、複数の服屋がある。ここを選んだのは、ポイントカードを持っているからだ。
別に、今日これを買おう、と決めたわけではない。
それに、だ。
「このあとは、尊の誕プレでも見に行くかなー」
服を眺めつつ、幼馴染である尊への、誕生日プレゼントを探すことも考える。
尊の誕生日は八月。あと一ヶ月ちょっとしかない。
それまでに、尊が欲しそうなものをリサーチしておくか。
その前に、自分で候補を決めておくのも、悪くはないだろう。
「あ、この服かわいー」
目に入ったのは、白のワンピース。シンプルなデザインだが、こういう清楚系なものに憧れる。
普段持っている服といえば、動きやすいズボンスタイルのものばかり。怪人が現れたとき、走りやすい服装にしておくためだ。スカートでは走りにくい。
ちなみに、ヒーロースーツに変身するとき、元着ていた服は、ヒーロースーツを解除すれば元に戻る。
どういう理屈かはわからないが、そうなっている。
いつも、ヒーロー活動のことばかり考えていたが……愛だって、女の子だ。
こういう、ザ女の子、といった服を着れば、少しは尊に意識してもらえるだろうか?
「ん? 愛じゃん、なにしてんだ?」
「へ?」
尊のことを考えていて、ついに幻聴が聞こえてきたか……そう思ったが、自分に語りかけてくるその声に、愛は振り向いた。
そこには、幻聴ではない……本物の、尊がいた。
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