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第一章 秘密のヒーロー活動

第3話 私の秘密

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 ――――――

「はぁはぁ……
 ま、間に合った……」

「おぉ、愛。どこ行って……
 なんでそんな疲れてんの?」

「べ、別にぃ?」

 場所は変わり、ここは愛や尊の通う高校。
 "用事"を終えた愛は、学校へと到着。その足で、教室に入る。

 すでにクラスメートはほとんど揃っているが、まだホームルームの予冷は鳴っていない。
 ぎりぎりセーフというやつだろう。全力で"用事"を済ませて、全速力で戻ってきたのだ。

 しかし、息を切らしている愛を、尊が疑問に思うのは当然のことだろう。
 
「ちょっと、全力疾走しちゃって……」

「その過程が気になるんだが……
 ま、それよりもだ。見ろよこれ!」

 愛の様子に首を傾げる尊だが、彼女がなにも話そうとしないのなら、仕方ない。話題は変わり、尊の声が弾む。
 目の前までやってきた尊の手には、スマホが握られている。
 見ろよ、と、スマホの画面を愛は突き付けられる。

 ……正直、尊が嬉しそうにしているのはこちらも嬉しいと同時に、なんだか嫌な予感もするのだ。
 そして、その嫌な予感は……だいたい、当たる。

「なになに……げ!」

「また出たんだよ、レッドが!」

「…………へぇー」

 尊は、まるで少年のように目を輝かせている。
 突き付けられたスマホの画面……そこには、とあるニュース映像。愛は、固まる。

 その内容は……
 今朝……というかついさっき出現した怪人を、颯爽と現れたヒーローレッドが、颯爽と怪人を倒し、颯爽と去っていく映像だった。

 さっきの今で、もうこんなものが出回っているのか……感心よりも先に、愛は内心で舌打ちをした。

「げ、ってなんだよ、げ、って」

「あー、いや、あはは……げ、げっぷが、出そうになっちゃって?」

「なんだよそれー」

 つい出てしまった言葉、それをごまかそうとするのたが……
 正直、もっとマシな言い訳があったのではないかと思う。げっぷて……

「すげーよなぁ、一発だぜ一発!
 はぁ、やっぱレッドはかっこいいな!」

 さておき。いったい、誰があの動画を撮っていたのだろうか。
 このご時世だ。やろうと思えば素人だって、ネットに動画をアップできる。

 正直、取材陣やカメラマンのようにちゃんとした対応ができない分、こっちの方がかなり厄介だ。
 隠し撮りされネットにアップロードされれば、アップロードした人物を特定するのも難しい。
 方法は警察に頼むとかなくはないだろうが、そもそもネットに上がってしまっては、誰がアップロードしたか特定してももう遅い。

 はしゃいでいる尊。男の子は、こういうヒーローが好きだ、と認識はしている。
 それでも、だ。こうも全面的に表現されると、愛としても歯がゆい気持ちだ。

「っ……尊ってば、レッドのこと、好き……だよね?」

「おう! めちゃくちゃ好きで、尊敬もしてる!」

「っ!」

 その、屈託のない尊の笑顔に……愛は、なんとも言えない感情に襲われる。
 嬉しいやら恥ずかしいやら、いろんな意味で今にも悶え転がりたい気分だ。しかし、それはできない。

 ……愛の、誰にも言えない秘密……
 それは、怪人に立ち向かうヒーローレッドの正体が、なにを隠そうこの、柊 愛本人だということなのだ。

「ふ、ふーん……」

 ひょんなことから、ヒーローになってしまった愛……当時は、町の人々を守るヒーローなんて、憧れたものだが。
 蓋を開けてみて、びっくりだ。


『あれ、このレッドって……間違いかなぁ? ピンクとかじゃ、なくて?』

『いや、ごめんレッドしか空きがなくてのぅ。
 キミにはレッドとして活躍してもらいたい』

『でも、レッドって男……
 あ、女の子レッドってことですね! し、新鮮だなぁ! これからは、表現の自由? ですもんね!』

『なにを言っとる! レッドと言えば男! 男と言えばレッド!
 これ世の中の常識じゃ!』

『えぇ……
 でも私、女……』

『あと、レッドと言えばリーダーと定番が決まっとるのでな。
 今日から頼むぞ、リーダー』

『なんだって!?』


 あれよあれよと、ヒーローレッドとして活躍することになった。
 それも、男として。

 幸い、顔も隠す全身タイツだから、見た目でバレることはない。自分は小柄なタイプだが、中身が女子高校生と知られなければ、体格からも判断はつかない。はずだ。
 それに、男女の容姿の違いは、スーツの伸縮性でごまかせている。多分。
 成長してきている胸も、体のラインが出ないタイプのスーツなのでわからない。きっと。

 声も、低くを意識すればなんとか乗り切れる。戦闘中は喋らなくて済むし。
 いつも口早なのも、女声だとバレるのを、防ぐためだ。

「あぁ、いつか会って握手してほしいなぁ、レッドぉ」

「……」

 男として振る舞うのも、最初は困惑が大きかったが……
 好きな人たけるがレッドのファンだと知ってからは、よりいっそう気をつけるようになった。

 なぜなら……

「きっと、男の中の男! ってな感じの中身なんだろうな!
 な、愛もそう思うだろ!?」

「あー、うん、ソウダネー」

 この幼馴染は、レッドを男だと……それも、男の中の男だと、信じている。
 まあ、世の中のほとんどの人が、そう思っているだろうが。
 戦隊ヒーローのレッドが、花の女子高生なんて、誰が思うだろう。

 そんな尊に、もしレッドの正体が自分だとバラしてみろ。


『はぁ? レッドの正体がお前とかマジかよ……くっそ萎えるわ。
 ないわー、二度と近づかないでくれ。ぺっ』


 こうなってしまったと、したら。
 あぁ、だめだ……考えただけで、死ねる。
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