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第十章 魔導学園学園祭編
755話 いつかの恩人
しおりを挟む校舎へと入る。
外とはまた違った賑やかしさがあるな。みんな楽しそうだ。
「ごめんなさいねぇ、せっかくの学園祭に来ていただいたのに、こんなのに絡まれた挙げ句ついてきてもらっちゃって」
「いえ、大丈夫ですよ」
生徒会室への道を進みながら、カルさんは魔導士のお姉さんに話しかける。
学園祭に来てくれたお客さん。でも、こうして面倒ごとに巻き込んでしまった。
申し訳ない気持ちはあるわけだ。
「ところで、二人は知り合いなのかしら?」
「え、私たち?」
「えぇ。なんだか親しそうに話していたじゃない」
続けて私とお姉さんを見て、そう聞いてきた。
きっと、さっき私たちが話しているのを見て、知り合いかと思ったのだろう。
でも、今日が初対面だ。
「いや、私たちは……」
「まあ、知り合いと言えなくも……ないですね」
「?」
私が答えようとしていると、お姉さんが先に答えた。
しかも、私たちは知り合いだ……といった表現で。
私ははっとするが、お姉さんはにこにこしたまま。
「あら、そうだったの」
「はい」
納得した様子のカルさん……でも私は、納得していない。
カルさんが前を向き、隣を歩くヤモリ亜人の背中をバシバシ叩いているのを見てから、私はお姉さんに顔を寄せる。
「あの、なんですか今の」
「んん? なにか問題でもぉ?」
「問題……は、ないかもですけど」
実際に歯知り合いじゃないのを知り合いだと偽ったところで、なにか問題があるのか問われればあるとは言えないけども。
だからって、嘘をつく必要もないはずだ。
私の言葉に、女性はにんまりと笑顔を浮かべた。
なんだか、すごく子供っぽい笑顔だ。
「あ、もしかして本当は会ったことあるとか? 私忘れちゃってる?」
「いや、会ったことはないですよぉ。でも、お互いに接点はあると思うんですよぉ」
うむ……直接会ったことはない。それに、接点か。
接点なんて言われると、思い浮かぶのはこの、黒目のことだけど……
「私、あなたのお友達の怪我を治したことがあるんですよぉ」
全然違った。
「お友達……怪我?」
「えぇ」
お友達の怪我を治してくれた……か。
うぅん、心当たりがない。というか、怪我なんてしてもほとんどは学園でのものだし、わざわざそれ以外の場所でなんて……
それに、こんなきれいな人なら忘れることはないと思うんだけどなぁ。
「ま、わからないのも無理はないですよぉ。そのお友達にも、私顔見せてませんし」
「マジか」
怪我を治したのに、顔を見せていない。なんだその状況。
私は答えを求めて、女性を見た。
「そのお友達って?」
「確か……冒険者のヒーダさんです」
名前を出されて、私はもう一度思案する。
冒険者のヒーダさん。私の知り合いの冒険者と言えば、ガルデさんケルさんヒーダさんの冒険者トリオだ。
つまり、その人で間違いないだろう。友達……って言っていいのかはわからないけど、まあ否定する理由もない。
そういえば、ガルデさんは一日目にフェルニンさんとデートしに来てたけど、他の二人はまだ見かけてないなぁ。
「ヒーダさんの怪我を、治したってこと……?」
「そう」
「うーん……あぁ」
そうだ、思い出した。確かにヒーダさんの怪我を、誰かに治してもらったって話があった。
冒険者との合同作業。私はガルデさんたちと一緒に魔石集めを行っていた……そのさなか、白い魔獣が現れたのだ。
ヒーダさんは、そいつにお腹を貫かれるほどの大きな傷を負った。
それを治してくれた、魔導士のお話。
「あれ、お姉さんだったの!?」
「まあ、そうなりますねぇ」
ヒーダさんの怪我を治してもらい、けれどヒーダさん自身は気を失っていた。
だから、その魔導士にお礼を言ったのは、付き添いのケルさんだ。
そのケルさんが言うには、フードを被っていて顔はわからなかった。でも声を聞いたら、女だろうということはわかったという。
結局、それ以上のことはわからずじまい。
その人が、今目の前にいるこのお姉さん……
「ほ、本当に……?」
「う、うそをついてどうするんですかぁ」
それもそうだ。
本当に本人かと疑問にも思ったけど、あの件を知っているのは僅かだ。なにより、そんな嘘をついて得があるとも思えないし。
あの傷を治せる力を持つ魔導士……この条件だけでも、本人かどうかの確認にはなる。
あれは、結構な深手だった。並の魔導士じゃあ治せないだろう。
でも……瞳の色を変えられるくらいに、すごい魔導の使い手。ならば、治療も出来て不思議ではない。
「じゃあ、お礼を言わないと」
「そんな、いいですよ。私はお礼が欲しくてやったわけじゃありませんから」
お礼はいらないと言うけれど、そういうわけにはいかないよなぁ。
それに、ヒーダさんに教えてあげたい。ヒーダさんだって、自分の命の恩人のことをずっと気にしていたんだし。
自分の怪我を治してくれたのが、こんなにきれいな人だって知ったら、きっとヒーダさん驚くぞぉ。
「くふ、くふふふ」
「?」
「さ、着いたわよ。
……どうしたのエランちゃん、そんな気持ち悪い笑い方しちゃって」
こうして話しているうちに、生徒会室へとたどり着いた。
ちなみに、ここに来る前にカルさんは端末で、ゴルさんに連絡していた。いろいろ手配してくれているみたいだ。
無人の生徒会室、という心配はないわけだ。
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