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第十章 魔導学園学園祭編
753話 力こそすべて解決する
しおりを挟む学園祭を回っていたら、懐かしいスキンヘッド……いや顔を見つけた。
懐かしいとは言っても、別に会いたくもなんともなかった相手だ。だけど、関わってしまったのだから仕方ない。
冒険者グリムロード。かっこいい名前してるのに、やっていることは小物のチンピラだ。
今回もまた、ぶつかったとかなんとかで女の人に因縁を付けている。
私を見つけたスキンヘッド男は、ずんずんと向かってきて、私を殴ろうとしてきたのだが……
「私のかわいい後輩に、なにをしようとしているのかしら?」
スキンヘッド男の手首を掴み、拳を出させまいとしているカルさんの姿があった。
すごいニコニコで。
私、わかる。顔は笑っているけど、これは……怒ってるやつだ。
「あぁ? なんだてめえは、無関係な奴が邪魔すんじゃねえよ」
「いやいや、ここは魔導学園で、今は学園祭、無関係なわけがないじゃないの。他のお客様のご迷惑になるわ。
なにより……かわいい後輩に手を出されそうになって、黙っていられないわよね?」
「っ……」
カルさんが、スキンヘッド男の手首を握り締める手に力を込めた、ように見えた。
そして男が、顔をゆがめたことも。
相手の手首は、わりと太いのに……それを握り締めちゃうなんて、カルさんってばどれだけ力があるんだろう。
「あ、アニキ、もうやめときましょうよ、これ以上は……」
スキンヘッド男の後ろから、困ったようにヤモリ亜人が声をかける。
あいつ、スキンヘッド男の腰巾着って感じだよな……ていうか、あいつも冒険者なんだろうか。
「うるせえ! どいつもこいつも、俺を苛立たせやがって!」
「あら知らないわよぉ、自分中心に世界が回っているとでも思ってるの? 冒険者……いや、元冒険者のグリムロードさん?」
「てめえ……!」
カルさん、めちゃくちゃ煽ってる……スキンヘッド男の頭が、もうとんでもないことになっている。
それから男は、逆の手を握り締める。
まずい。いくら態度が小物とはいえ、相手はBランクの冒険者だ。結構強いはず。
本気で暴れられたら、どうなってしまうかわからない!
ここは私が、あの男を気絶でもさせて……
「死ねや!」
「はぁ……言ったわよね」
スキンヘッド男が、逆側の拳を放つ。
私が魔導の杖を抜くのと、カルさんがため息を漏らすのは、同時だった。
「他のお客様のご迷惑になる、って……聞こえなかった、かしら!?」
ズドンッ……!
「かっ……」
「……」
……今、いったいなにが起こったのだろうか。いや、なにが起こったか見えはしたけど。
あまりに予想外の光景に、開いた口が塞がらない。
ありのまま見たことを話すと……カルさんは、迫ってくる拳を避ける素振りも見せなかった。
スキンヘッド男の手首を掴んでいた手を離し、拳が迫るより早くその手でスキンヘッド男の顔を掴んだ。
そして……その細腕のどこにそんな力があるのかと疑いたくなるほどの力で、スキンヘッド男を後頭部から地面へと打ち付けた。
「ふぅ……まったく、お茶目はいいけど、時と場所を考えなさい」
手を離すと、スキンヘッド男は白目を剥いて気絶していた。
周りの人たちも、その光景に圧倒されている。
自分より大柄な男を、いとも簡単にぶっ倒した。
そりゃ私だって、魔法で身体強化すればそれは難しいことじゃないけど……
今、魔力の気配は感じなかった。
「じゃあ今の……素で?」
「あ、アニキィ!」
ヤモリ亜人が、倒れたスキンヘッド男に駆け寄っていく。
なんとか起こそうとしているが、あの体では気絶している大男を運ぶのは無理だ。
あのままそこに放置しておくわけにも、いかないだろうし。
「あら? 皆さま申し訳ありません、怖い大男は退治しましたので、引き続き学園祭をお楽しみください」
ほほほ、と手を口に当てて笑うカルさん。
周りのみんなが黙ってしまったのは、スキンヘッド男への恐怖からだと思っているようだけど……
多分、ほとんどの人はあなたに対して恐怖を感じていると思うんですよね。
「じゃ、これ運ぼうかエランちゃん」
「えっ? あ、はい」
いきなり話を振られたから、驚いてしまった……
というか、『これ』って言ったな。別にいいけど。
そしてカルさんは、スキンヘッド男をひょいと持ち上げる。
……自分よりも大柄の男を、片腕で、肩に背負って。
私いらないなぁ。
「お、おい、アニキをどこへ……」
「あぁ?」
「ひっ……」
「うふふ、そんな怯えないでよぉ。ちょっと騒ぎを起こしたから、とりあえず生徒会室に連れていくだけよぉ」
うわぁ、表情の切り替え怖ぇ。
ま、学園祭中なら職員室は閉まっているし……生徒会室に連れていくしかないか。
放置してても捨てても邪魔なだけだし。
ついでだし、ヤモリ亜人にも来てもらおう。
「あ、あの!」
歩き出そうとしたところに、背中に声をかけられた。
振り向くと、そこには女の人。確か、スキンヘッド男に絡まれていた人だ。
うわぁ、スタイルいいなぁ。それに、どこかのお嬢様みたいなきれいな服。
帽子を目深にかぶっているから、顔はよく見えないけど。
「えっと……さっきは災難でしたね」
「えぇ……助けていただき、ありがとうございました」
とりあえず応対すると、女性はぺこりと頭を下げた。
「いや、私はなにもしてないですから……」
実際に、私はなにもしてない。全部カルさん一人で解決してしまった。
なので、お礼を受け取る権利があるのはカルさんだ。
「もちろんあの方にも、お礼を。ですが私は、あなたにも興味があるんです」
「へ? 私?」
「えぇ、そうです。同じ魔導士として……エラン・フィールドさん」
顔を上げた女性は、私をじっと見つめて……黒色の瞳を覗かせて、にこりと微笑んだ。
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