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第十章 魔導学園学園祭編
745話 大変だね
しおりを挟む「はじめまして、エラン・フィールドちゃん。私は、ルアシア・トルコヤード。
今彼が言ったように、風紀委員の委員長をやっているわ」
ゴルさんの隣にいた、女の人。ルアシア・トルコヤードさん。
風紀委員っていうと、文字通り風紀を取り締まる委員会だろう。
そういえば、学園内で朝とか、ちょくちょく見回っている人たちがいるな。確か、この人と同じように腕に腕章をつけていたような。
校門あたりにいるときも見るけど、寮暮らしの学園じゃ休日以外校門を通ることはほとんどないからなぁ。
こういうお祭りときだからこそ、風紀が乱れないかを確認しているわけだ。
「どうもー、なんか名前知ってくれてるみたいで、嬉しいです」
「この学園に通っていて、キミの名前を知らない人はいないでしょう。学年問わず……ね」
……有名人になると、自己紹介の手間が省けるなぁ。自分で言うのもなんだけどさ。
それがいいことなのか悪いことなのかは、わからないけど。
ともかく、いい人そうだ。笑顔で手を差し出してきたので、握手に応じる。
うわ、柔らかい手ぇ。
「それで、お前は……確か、この時間はクラスの手伝いと言っていなかったか?」
「まあ、いろいろありまして」
あははと、笑ってごまかす。話すと長くなっちゃうからね。
それにしても、いつもゴルさんの隣にいるのと言えば、リリアーナ先輩たち生徒会メンバーって感じだったから……
他の人が並んでいると、不思議な気分だなぁ。
「えっと、エランちゃん、って呼んでいいかしら」
ふと、風紀委員長さんが、聞いてくる。
「うん、もちろん」
「なら私のことも、気軽にルアシアって呼んで」
学年の違う相手とは、あんまり関わることはなかったけど……こういう場所だからこそ、場所も気にせずに会うことが出来るし、仲良くなれる。
出し物を楽しむのもいいけど、こうして誰かと仲を深めるのもいいもんだよね。
とはいえ、二人ともお仕事中だけどあんまり邪魔するのもよくないよね。
……あ、そうだ。
「ねえゴルさん、タメリア先輩どこにいるか知らない?」
「タメリア?」
同じ生徒会のメンバーなら、タメリア先輩が今どこにいるのか知っているかもしれない。
いや、私も生徒会のメンバーではあるんだけどさ。
ほら、ゴルさん生徒会長だし。同じ三年生同士だし。
「なにか、用事でもあるのか」
「ちょっと、伝言がね」
タメリア先輩には、アルミルおじいちゃんからの伝言を伝えないと。
休憩の前、午後の番までには戻る、と本人が言っていたけど……私からも改めて、伝えておかないとね。
「今どこにいるかはわからないが……なんなら、呼び出そうか」
ゴルさんは、懐から端末を取り出す。
学園から支給されているものだ。これがあれば連絡を取り合ったりできる、なんとも便利なものだ。
私はタメリア先輩の連絡先を知らないけど、ゴルさんなら知っているわけだ。
「伝言と言っていたな。連絡して伝えるのが手っ取り早いと思うが」
「それもそっか。なら、お願いしようかな」
タメリア先輩に用事はあるけど、それは直接会う必要はない。
連絡がついて、知らせることができるならそれが一番手っ取り早いもんね。
タメリア先輩に連絡を取ろうとしているゴルさんに、伝える。
「アルミルおじいちゃんからの伝言で、午後の講演までには戻るってさ」
「あぁ、了解し…………アルミル……」
「おじいちゃん……?」
ピタリと、二人の動きが止まった。どうしたのだろう。
そして二人は同時に、私の顔を見て……信じられないものを見るような目を向けてきた。
「お、おい、一応確認するが……アルミル……お、おじいちゃんというのは……」
「魔導のエキスパートの、あの人のことだよ」
「……」
言葉を失う、とはこのことなんだろうな。あのゴルさんが、ただ呆然と立ち尽くしている。
隣のルアシアさんも、同じくだ。
どうしたのか……聞こうと口を開いたところで……
「お前……正気か」
まるで信じられないものを目の当たりにしたかのように、ゴルさんが言った。
「お前、あの人がどれほどっ、偉大な人間か……わ、わかっているのか!?」
「わかってるよー。ていうか、ゴルさんは私とおじいちゃんたちに会ったの知ってるでしょ? その場にいたんだし」
「いたし知ってるが、まさかそんな馴れ馴れしい言い方をしているなんて……おい待て、まさかそれ本人の前でも……」
「許可はもらったし。ゴルさんだって、おじいちゃんには偉そうにしてたじゃない」
「仮にも俺は第一王子だ、立場というものがある! あまりこういう言い方はしたくないが、俺とお前では立場が違うだろ!」
すごいや、こんなに必死なゴルさん初めて見たかも。
それだけ、あのおじいちゃんがすごい人なんだって再認識するけど。
やっぱり、私馴れ馴れしすぎるのかなぁ。でも、本人がいいよって言ってたんだし、構わないよね。
「とりあえずそういうことだから、タメリア先輩に伝言よろしく」
「とりあえずで済ませていい問題じゃないんだが……はぁ」
なんでかゴルさんは、とても疲れた表情をしていた。
見回りが忙しい……ってだけの理由じゃないんだろうな。
……そういえば、ゴルさんのクラスって出し物なにやってるんだろう。一年生の出し物は触りだけ見たけど、他の学年のは全然知らない。
今日はもう終わりが近づいてるから、明日にでも他の学年に行ってみようかな。
「ゴルドーラくん……キミも、大変だね」
そしてなぜか、ルアシアさんがゴルさんに同情したような視線を向けていた。
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