上 下
756 / 769
第十章 魔導学園学園祭編

744話 見回りしてます

しおりを挟む


 ついナタリアちゃんのおじいちゃんだと言っちゃった。
 アルミルおじいちゃんがナタリアちゃんのおじいちゃんだってことは間違いないけど、今は変装している。そして、変装しているのは女性にだった。

 私としたことが、うっかりしていたぜ。

「いや、ほら……男か女か、わかりにくい人っているじゃん? だからほら、間違えちゃって」

「初対面の相手ならともかく、一緒にここまで来た相手の性別を間違えることはないと思うっすけど……」

 うっ、そんな曇りなき眼で私を見ないで。あと正論ぶつけるのやめて。
 だけど、エコちゃんはニコッと微笑んで。

「でも、エラン様がそう言うならそうなんっすね!」

 なんて言い放った。

「えぇ……」

「? どうしたんすか?」

「いや、なんでも……」

 私がそう言ったからそうなんだって、納得しちゃったよ。
 まあ、下手にツッコまれなくてよかったけどさ。

 私の言ったことならなんでも全肯定しそうだなぁこの子。

「ど、どうしたんすかエラン様。そんな熱い視線を向けられたら自分は、自分は……!
 そ、そういうのはまだ早いと言いますか、自分なんかがおこがましいって言いますか。でも、エラン様が望むなら、自分なんでもするっす。ぬ、脱げって言うなら、この場で……」

「いきなりなにをどこまで言ってんの!? ちょっと見てただけじゃん! どこからツッコめばいいかわからないんだけど!」

「つ、突っ込むだなんて……きゃっ」

「うがぁー!」

 だめだ、この子と二人で話してたらなんか変なペースに持っていかれる!
 悪い子じゃないん、だけど……ぅんん……他に誰かいるならともかく、二人で話すのは危険だ。

 用事も済んだし、これでおいとましよう。アルミルおじいちゃんがどれくらい中にいるかわからないし、私にタメリア先輩への伝言を頼んだってことは、待ってなくていいよってことだろうし。

「じゃ、じゃあ私はこれで」

「えぇ、もう行っちゃうんすか。……でも、仕方ないっすね。自分が止められる立場にないことは重々わかってるっす……でも、また戻ってきてくれたら、嬉しいっす。自分、ずっと待ってるっすので」

「都合のいい彼女か!」

 そんなこんなで、私はこの場をあとにする。
 振り向いたら、エコちゃんはぶんぶんと手を振っていた。試しに私から振り返したら、こっからでも見えるくらいに目をハートにして倒れていた。

 ……大丈夫かなぁ。

「まあいいか。
 ……うーん、どうしよっかな」

 時間を確認する。結構おじいちゃんと話していたみたいだけど、本当ならこの時間はクラスの手伝いをしているはずだった。
 それをクレアちゃんが気を遣ってくれたおかげで、今この場にいるわけだけど。

 おじいちゃんと別れて暇になったし、クラスの手伝いに行こうかな。クレアちゃんがみんなに言ってくれたのは、あくまでアルミルおじいちゃんと話すため、って理由があったからだし。

 それとも、このままみんなには内緒で自由時間を謳歌しちゃう?
 うーん、どうしたもんかなぁ。

「……ここでなにをしているんだ、エラン」

「んぉ?」

 うんうんと考えていると、私を呼ぶ声。
 振り向くと、そこには声の主……ゴルさんがいた。

 隣には、リリアーナ先輩……は、おらず。代わりに、別の女の人がいた。
 この人も、きれいな人だ。地味と言えば地味だけど、その中に光るものがあるというか。

 それに、スタイルもいい。

「……ゴルさん、私は内緒にしておくから。ね?」

「ね? じゃない。なにを考えているんだお前は」

 だって……リリアーナ先輩とじゃなく他の人と学園祭を回ってるなんて、ねぇ?
 これはあれですよ。とてもよろしくないことだと思いますのことよ。

「ゴルさんはそういうことしない人だと思ってたんだけどなぁ」

「おい待て、一人で勝手に話を進めるな」

「しかも学園祭なんていう、人の多いところで……」

「だから話を聞け!」

 とりあえず、話を聞くことに。まあ話と言っても、たいしたことではなかった。
 要は、この女の人は風紀委員会に属する委員長さんで、生徒会長のゴルさんと相談することがあったので話がてら見回りを……というわけだった。

「なぁんだ、なら早く言ってよー」

「お前が勝手に盛り上がったんだろ。あと、彼女の腕章をちゃんと見ろ」

 ゴルさんが指す先には、彼女の腕。腕に巻かれた腕章には、確かに風紀委員と書いてある。
 私としたことが、見逃しちゃったぜ。

 そんな私を見てか、「ふふっ」と笑う声があった。

「聞いていた通り……いやそれ以上に、面白い子みたいね」

 クスクスと笑う風紀委員長さんは、私のことを面白い子と言った。
 やっぱり、私の噂って面白い奴っていう認識が多いんだろうか。

 ゴルさんはゴルさんで、呆れたようにため息を漏らしている。

「勘違いしてごめんよー。なんかスキャンダルだと思ったんだよー」

「なにを言っているんだお前は」

 まあ、考えてみればゴルさんみたいな一途な人が、他の女の人となんて考えられないよな。
 さっき真反対のことを言っていたって? はははなんのことやら。

 ともかく、一大事じゃなくてよかった。リリアーナ先輩にバレたら……
 ……あの人なら、バレた時点でとんでもないことになりそう。相手もゴルさんも。

「でも、こんなときもお仕事なんだね……って、私も一応そうか」

 私は明日は、生徒会のお仕事で見回りだ。
 もちろん、お仕事だからってカッチカチになる必要はない。今ゴルさんや風紀委員長さんが付けている腕章を付けて歩き回るだけだ。

 普通に出し物を楽しんでいいとも言われたし。それでも、トラブルが起きないか事細かに見張る必要がある。

「あぁ、風紀委員の仕事は、風紀を取り締まること。こういった祭り事にハメを外す者は多いからね。
 もっとも、キミのことは普段から注目しているけど。風紀を乱す問題児として」

「!?」

「あっははは、冗談よ冗談」

 冗談……と笑う風紀委員長さんだけど。
 なぜだろう。全然冗談に聞こえないのは。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました

瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。 レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。 そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。 そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。 王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。 「隊長~勉強頑張っているか~?」 「ひひひ……差し入れのお菓子です」 「あ、クッキー!!」 「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」 第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。 そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。 ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。 *小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...