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第十章 魔導学園学園祭編
738話 もしかして怖い?
しおりを挟む久しぶりに会ったアルミルおじいちゃんは、私のことを覚えてくれていたみたいだ。
「結構お年だろうに私のこと覚えていてくれてるなんて、嬉しいよ!」
「すごい余計な一言加えるね」
「私はもうあんたが怖い」
嬉しさを素直に伝えたつもりだったけど、タメリア先輩とクレアちゃんはそれぞれあ然としている。
クレアちゃんなんか、さっきからハラハラしっぱなしだ。
対して、アルミルおじいちゃんはと言うと……
「ふむ、以前はこうして話すタイミングなどなかったが……国王様から聞いていた通りの人のようだ」
なにやら感慨深そうにつぶやいている。
王様は私のことをいったいなんて言っていたんだ。
「……この子のこと、ご存じで?」
「以前、彼女も交え国王様たちと機会があってな。それに、彼女のことは城内でも有名だ」
……学内から学外、そしてついにはお城の中にまで。
いったい私の話はどれだけどこまで広がっているんだ。
「あ、アルミル様や、国王様と話す機会……? え、エランちゃんっていったい……」
クレアちゃんが私を見る目は、もう単に友達を見るものというより、もっと遠くの人を見るような目だった。
そんな目をしないでよ、寂しいじゃない。
そりゃあ王様たちと話すときはあったけど、あのときは……私は、重要参考人的な立ち位置で呼ばれただけだしな。
以前目撃した白い魔獣や、ノマちゃんの体のことについて呼ばれたのだ。
「それにしても……」
「?」
どこか愉快そうに笑っていたアルミルおじいちゃんだけど、チラッとその視線をクレアちゃんに向ける。
なにか、気になることがあるのか……本人には気づかれないように。
だけど、敵意とかは感じない。なにか探るような視線は感じるけど。
「それで、二人はどうしてここに?」
そんなこととは知らず、タメリア先輩が私たちに聞く。この場に来た理由を。
アルミルおじいちゃんの視線も、私に向いた。
「いや、せっかくだから挨拶でもしておこうかなーって」
「……そんな軽い気持ちでここに来れるのエランちゃんだけだろうね」
私の答えに満足いったのか、それとも呆れたのか。先輩は乾いた笑顔を浮かべていた。
あんまり褒められている感じはしない。
クレアちゃんも言ってたけど、挨拶したいからって会えるような人じゃないんだろうな本当は。
「ははは、やはり面白い子だ。あのバカのように、悪意あってのものではない……天然だな。キミのような子なら大歓迎だ」
おじいちゃん的にはなにがハマったのかはわからないけど、どうやら私のことは気に入ってくれたみたいだ。
あのバカ………ってのは、喧嘩してた若者オールバックのことだろうな。
その様子に、クレアちゃんはもはや目が点だ。
「そういえば、アルミルおじいちゃんは……」
「あ、アルミル……」
「おじいちゃん……?」
「はっはっは!」
私の発言に、先輩とクレアちゃんはもう卒倒でもしてしまいそうな勢い。
でも本人は笑っているし、ダメってことはないんだろう。
せっかく学園祭に着たんだから、ナタリアちゃんに会っていかないのか……そう聞こうとして、ちょっと考える。
「?」
アルミルおじいちゃんとナタリアちゃんが、祖父と孫の関係だってことは……クレアちゃんも知らなかったし、誰もが知る関係性じゃないんだろう。
てことは、あんまり人前で言わないほうがいいのかなぁ。
この場にいるタメリア先輩なら、他の人に漏らしたりはしないと思うけど。
「ん、どうかしたか? 遠慮せずに言うといい」
黙ってしまった私を見て、おじいちゃんは優しい口調で言う。
ふむ、遠慮せずに……ときましたか。じゃあ遠慮せずに。
「ナタリアちゃんのクラスには、行かないの?」
「……」
もしかして、もう行ったあとだったら的外れな質問になってしまう。
だけどおじいちゃんは、私の言葉を受けて考え込むように顎に手を当てた。
そして、自分の白髭を撫でつけるようにしながら、口を開く。
「うむ……なかなか、難しいなぁ」
「難しい?」
「自惚れるわけではないが……私が動けば、どこもかしこも騒ぎになってしまうだろう」
ううん……確かに、さっきよ魔導講義の様子を見てもおじいちゃんは人気者だし、学内を歩けば騒ぎになるどころじゃない。
でも、それはなんというか、本心ではないように思えた。だって、素顔で歩かなくていい方法、なんていくらでもある。
魔導のエキスパートなら、なおのことだ。
「変装とかして、ナタリアちゃんに会いに行くんじゃだめなの?」
「変装、か」
さっきからタメリア先輩とクレアちゃんは、黙ったままだ。
きっと、さっきから遠慮なく質問をぶつける私に対してなにか思っているんだろう。いいじゃん、遠慮はいらないって言ってたんだから。
そして、その遠慮ない質問におじいちゃんは丁寧に答えてくれる。
「……」
けど、この質問には答えない。意地悪で答えないんじゃなくて、答えようにもどう言葉を並べればいいのかわからない……そんな風に思えた。
そんな姿を見て、私は一つの過程に行き着いた。
なんの根拠も、確証もない。だけど……
「もしかして、ナタリアちゃんに会いに行くのが怖い……ううん、ナタリアちゃんとどう接すればいいのかわからない?」
私は、感じたことをぶつけていた。
側で、タメリア先輩とクレアちゃんが「ひゅっ」と声を漏らした。
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