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第十章 魔導学園学園祭編
729話 暗いよー! 怖いよー!
しおりを挟む迷路を突き進む私たち。正解の道を行ったり、間違いの道を行ってゴーレムと戦うことになったり。
ただ巨大ってだけの迷路じゃなく、問題文も面白いものがあったりと楽しませてくれる作りだ。
ゴールを目指し、進んで再び分かれ道に突き当たった私たちは、正解だと思われる方向へと曲がった。
「……」
そのはずだったのに……今、私の目の前は真っ暗になっている。
おかしい……さっきまで、明るかったのに。ここは本来教室の中とはいえ、今は異空間に繋がっている。快晴なため、いきなり夜になったわけでもない。
だというのに、暗いのだ。というか、夜だってこんなには真っ暗ではないはずだ。
目をつぶっているわけでもないのに。いったい、どうして!?
「うわー! なんか暗いよー! いったいなにが起きてるのー!」
「……自業自得でしょうが」
声を張り上げる。周りに、誰か聞こえている人がいるだろうか。
その願いが通じたのか……声が、聞こえた。クレアちゃんのものだ。
よかった。でも、どこかあきれを含んだ声色に聞こえる。
「く、クレアちゃん!? いったいどこに!? どうなってるのこれ!」
「……さっきまでの自分の行動をよく思い返してみなさい」
私はこんなに慌てているのに、クレアちゃんはひどく冷静だ。
さっきまでの行動を思い返せっていったって……でも、クレアちゃんがそう言うんだからそうしてみよう。
ゴーレムを倒した後、私たちは正解の道を進んで……また分かれ道についた。今度は二択だ。
で、正解と思う道に曲がったんだ。これも、あんまり自信はなかったけど……ともかく、進んだ。
すると、道の先は行き止まりだった。またゴーレムが出てくるのではと警戒していたけど……その先にあったものに、私は飛びついた。
『た、宝箱だ! 宝箱だよクレアちゃん!』
『あ、怪しい……こんなあからさまな宝箱怪しすぎるわ。戻るわよエランちゃ……ってなに開けようとしてるの!』
『え、だって宝箱だよ? 宝箱があったら開けるでしょ?』
『そんな曇りのない眼で……
いい? ここは行き止まり。で、ナタリアちゃんは罠もあるって言ってたわよね。なら、その宝箱が罠だと考えるのが妥当じゃない』
『いやいや、確かに行き止まりだけど……これが罠と断定するのは、早いよ。もしかしたら、迷路の休憩がてらちょっとしたご褒美かもしれないよ』
『んなわけあるか! ダンジョンならともかくそんな宝箱怪しいだけでしょうが! どうせ開けたら爆発とかするのよ!』
『ぬぐぐ……なるほど、確かにその可能性はあるよね。でも、そうじゃない可能性もある。
宝箱……それは、無限の夢が詰まった箱なんだよ。憧れなんだよ。こんなの、開けるなって言われても……無理なんだよ! 憧れは止められねえんだ!』
『ちょっ……!?』
…………そして宝箱を開けた私の視界は、真っ暗になった。
自分の行動を思い返しても、特にまずいところがあったとは思えない。ただ宝箱を開けただけだ。
だってのに、どうしてこんなことになっているのか。皆目見当もつかない!
「どう考えてもその宝箱が原因だったでしょうが」
「やっぱりー?」
なるべく、原因は別のところにあると思いたかったけど……現実は、非情である。
「というか、私の目には宝箱以外の原因が見当たらないのよ。エランちゃんの格好見てると」
「って、今私どうなってるの? 暗いんだけどー、怖いんだけどー」
体を揺らしてみるけど、動けない。というか、なんだろこの変な感覚。
まるで、なにかにハマっているような……
……いや、これはまるで……
「食べられているわね、宝箱に」
なにかに食べられているみたいだ……って、あれ?
「私も今そう思ったんだけど……た、宝箱に? 食べられてる?」
「そうよ」
なにか、怪獣みたいなのに食べられてる、とかならわかる。嫌だけどわかる。
でも、宝箱に食べられてる? それってどういう状況?
……いや、待てよ待てよ。なんか、そういうの聞いたことがあるぞ。
ダンジョンでは、宝箱が置いてあることがある。それを開けた冒険者が、よくかかってしまう罠。……いや、モンスターがいると。
「それって……もしかして、あの……
……名前、なんだっけ」
「……擬態宝箱よ」
私の質問に、やはりクレアちゃんはあきれたように答える。答えてくれる。
そうだ、ミミックだ! そんな名前だったよ!
宝箱に擬態して、宝箱を開けた相手にかぶりつく。そういうモンスターがいると、ガルデさんが言ってた。
なぁんだそっかぁ。ミミックかぁ。いきなり真っ暗になっちゃったから、どうしたのかと思ったよぉ。
正体がわかれば、どうってことはない。さっさと抜け出して……
「……これってどうやって抜けるの?」
「知らないわよ、かかったことないもの」
なん、だと……!?
ダンジョンにいるモンスターまで用意していることにも驚いたけど、それ以上に抜け方がわからない!?
いやいやいや、落ち着け。これはクラスの出し物……一人で来るお客さんだっている。一人で来て、それでミミックにかかったとしたら。
必ず一人でも抜け出す方法はあるはずだ。
……ミミックに引っかかる人がいれば、の話だけど。
「わー! クレアちゃん引っ張ってー! なんか変な感覚だよー!」
「ちょっ、あんまり足バタつかせないの。パンツ見えちゃってるわよ」
「わー!」
というかこれ、もしかして思っている以上にお間抜けな絵面なのでは!?
このタイミングで、他のお客さんが来る可能性だってある。こんな姿見られたくないんだけど!
「わーん! 出して出してー!」
「というか、エランちゃんパンツ見られても平気な人じゃなかった?」
「人を痴女みたいに! 見られても平気なのと見せても平気なのは違うんだよ!?」
私の必死の訴えに、クレアちゃんが溜息を漏らしたのが聞こえた。
「……さっきのゴーレムにいきなり飛びかかった件といい、その行き当たりばったりな性格少しは反省しなさい」
「わーん!!」
それからしばらく、クレアちゃんからの助けはなかった。
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