740 / 848
第十章 魔導学園学園祭編
728話 もろともぶっ飛ばす!
しおりを挟む巨大迷路の行き止まりに突き当たってしまい、現れたのは人造人形。
見上げるほどに大きいが、以前コーロランのクラスと試合をしたときにコーロランが出してきたものほどの大きさでは、ない。
まさか、ゴーレムが出てくるとは思わなかった。迷路には罠があると言っていたから、これが罠だろう。
ゴーレムを召喚できる魔導士は、これまで三人しか会ったことがない。コーロラン、ゴルさん……
そして、このクラス所属のコロニアちゃんだ。
「ちょ、ちょっと! なんでゴーレムが出てきてるのよ!」
驚愕するクレアちゃんの気持ちは、正直わかる。
でも、出てきたものは出てきたんだから、しょうがない。
「なんでもなにも、出てきたんならやるしかないでしょ」
「やるってなにをよ! というか、術者はどこにいるのよ!」
キョロキョロと周りを見るけど、当然あるのは壁だけだ。
魔術を使うとなれば、当然そこには魔導士がいるはずだ。ならば、壁の外に待機しているのだろうか。
それとも……
「罠、ってくらいだから……誰かがここに来たら出現するよう、セットされてたんじゃない?」
「……人に反応して出てきた、ってこと? そんなこと……」
「できないとは限らないよ。なんせコロニアちゃんは、無詠唱で魔術が使えるんだから」
魔術は、詠唱が必要なのは基本だ。でも、中には無詠唱で魔術を使うことができる人がいる。
その一人が、コロニアちゃんだ。無詠唱で魔術が使えるってことは、それだけ精霊に愛されているってことだ。
精霊と心を通わせ、魔導の技量も非常に高い。それが、無詠唱魔術に必須なこと。
私だって、無詠唱魔術は使えないのだ。悔しい。
「こ、コロニア様なの? このゴーレム」
「このクラスに、コロニアちゃん以外に魔術が使える人がいなければそうなるね」
こちらを見下ろすゴーレムは、とんでもない威圧感だ。この感じは、覚えがある。
以前、ゴルさんとの決闘の準備の際、訓練に付き合ってくれたコロニアちゃん。あのときと大きさこそ違うけど、なんというか気配が同じなのだ。
魔術って点ならナタリアちゃんの可能性もあるけど……私の勘が言っている。これはコロニアちゃんだと。
「と、というか……全然襲ってこない、わね」
さっきから、ゴーレムの攻撃に備えて構えている。だけど、ゴーレムはただ私たちを見下ろすのみ。
ゴーレムってのは、魔術の中でも特殊なものだ。なんせ、自立式で動くのだから。
複雑な命令は無理でも、単純な命令なら術者の指示通りに動くし、なんだったら自分で考えて動くこともできる。
ゴーレムがなにを考えているかはわからない。けど……
「ま、まあ襲ってこないなら、戻りましょうよ。ゴーレムを相手にしている時間は……」
「せいや!」
クレアちゃんがなにかを言い切ろうとする前に、私は飛び上がる。身体強化の魔法で脚力を強化し、ジャンプ力を上昇させたのだ。
そして、ゴーレムの頭上へ。身体強化に回していた魔力を右拳に集中させ、強化。
そして……
「おりゃああああ!」
右拳を、ゴーレムの額へとぶち込んだ。
ドゴッ……と激しい音がして、バリバリッとなにかが砕けるような音が続く。
ゴーレムが、拳を受けた額からひび割れているのがわかる。でも、まだだ。まだ終わらんよ。
ゴーレムには、自己再生能力がある。ゴーレムの核を破壊しないと、いつまでも再生し続けるのだ。
核がある場所は、様々だ。単純に頭や心臓部分にある場合もあれば、右肩や腰といった部分にあることもある。
核の場所が正確にわかるのは、術者だけだ。
だから、核を見つけるには地道にゴーレムの表面を剥がして探すか、あるいは……
「爆炎で焼き尽くす豪火よ、天地をも焼焦す死火と成りて、すべてを灰燼と帰せ!」
「ちょっ……」
「紅炎爆発!!!」
核もろとも、ゴーレムをぶっ飛ばすかだ。
私の放った魔術は、ゴーレムを包み込み爆発する。
迷路の壁を壊してはいけないというルールなので、ある程度威力は抑えて。あくまでも、ゴーレムを破壊することのみに力を注ぐ。
地面に着地し、私は構えは解かない。爆煙がゴーレムを覆っているからだ。
次第に、煙が晴れていくと……
「た、倒した……」
そこには、ボロボロに崩れ落ちた土や石の残骸。
ゴーレムは、土や石などのものを使って作り出す。再生能力が高いのも、素材が再生しやすいものだからだ。
なんにせよ……
「ふぅ、終わり!」
「……ゴーレムを、こんな一瞬で」
「なーに言ってんの! 今のクレアちゃんならゴーレムくらい余裕でしょ!」
終始騒いでいたクレアちゃんも、今の彼女の力ならあれくらいのゴーレムなら余裕のはずだ。
迷路の罠だけあって、強さはそこまで設定されていなかったのだろう。倒しやすかった。
おかげで、ちょっとスッキリしたよ!
「さあて、迷路に戻ろうかクレアちゃん! さあ行くよ!」
「ちょ、ちょっと! 切り替え早すぎないー!?」
これで、迷路に戻れる! 今度は、間違えることなく進んでみせるぞ!
――――――
「……いや、これは予想外だったね……」
「……」
「迷路の罠。だからあくまで見かけ倒しさ。迷路に挑むお客さんを襲うつもりなんてないんだよ。魔導士じゃないお客さんなんてざらだしさ……そんな人に、ゴーレムと戦えなんて言えない。第一、戦わせるためなら行き止まりじゃなくて迷路の道中に設置してる。
だから、ゴーレムはあくまで、お客さんをびっくりさせるだけのものだったのに」
「……」
そう、ゴーレムは戦うためでも、道に立ち塞がる目的で作られたわけでもない。それが証拠に、ゴーレムは出現した後動く様子を見せなかった。
行き止まりの罠の、ちょっとした脅かし用のはずだった。
それを……
「まさか……ゴーレム、倒されちゃうなんてね……」
「……エフィーちゃんのアホぉ」
異空迷路に挑む人々……その様子を別室で観察していた、ナタリアとコロニア。
ナタリアは苦笑いを浮かべ、ゴーレムを召喚したコロニアは涙目で頬を膨らませるのだった。
10
お気に入りに追加
189
あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜
トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦
ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが
突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして
子供の身代わりに車にはねられてしまう

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる