上 下
737 / 739
第十章 魔導学園学園祭編

725話 異空迷路

しおりを挟む


 なんだかんだと楽しんだけど、私たちもいろいろ回りたいところはあるので、ルリーちゃんたちとは一旦お別れだ。
 教室内で自在に変身できた魔法。教室の外に出ると変身が解かれ、いくら念じてももう変身できなくなった。

 教室の外でも、「楽しかったねー」とか「また来ようねー」とか笑いあって話している人ばかりだった。

「うぅ、なんか悔しい」

「別に競ってるわけじゃないでしょ」

「そうだけどぉ」

 クラス間で競っているわけでは、ない。それでも、自分のところよりも繁盛しているっぽいのを見ると悔しく感じてしまう。

 さて、そんな気持ちを抱きつつも私たちは残る一つ……ナタリアちゃんのいる「オウガ」クラスへと向かう。
 ナタリアちゃん以外にも、コロニアちゃんやサリアちゃん。それにリーメイがいるクラスだ。
 まあリーメイは今は自由時間だけど。他にもみんないるとは限らない。

 なんにしても、このまま同学年コンプリートしちゃおう!
 教室を移動し、隣のクラスへ。

「……あれ? 誰もいないのかな」

 入り口につき、中を覗き込むと……教室の中には、誰もいなかった。
 お客さんだけではない。生徒もだ。それどころか、教室の内装もいつものまま。

 まるで、誰もいなくなった放課後の教室……といったふうだ。

「へぇ、こうなってるのね」

「クレアちゃん、なにか知ってるの?」

「パンフレット見てれば誰でもわかるわよ」

 クレアちゃんにジト目を向けられる。そんな目を向けないでおくれよう。

 さっきのクラス同様、今回も出し物の中身は詳しく見ていない。
 内容は、確か……『迷路』だったはずだけど。

 迷路なら、教室の外から見ても内装の変化はよくわかるはずだ。でも、いつも通り。
 どうなっているのか……ま、入ればわかるか。

「いらっしゃいませ。ようこそ、異空迷路へ」

「……いくうめいろ?」

 入り口にいた生徒にいらっしゃいませと言われ、にこりと微笑まれる。
 彼女の言うことが正しいなら、このクラスの出し物は間違いなく迷路だ。まあ、嘘つく必要はない。

 なら、聞き慣れない単語がくっついているのはなんなのか。

「中へとお進みください」

 女子生徒の案内に従い、教室の中へと足を踏み入れていく。一歩、教室の中と外との境を、踏み越えた。
 その瞬間……景色が、変わった。

「わ……?」

 木製の壁に床……それに天井。たくさんの机が並んでいて、一つの部屋の中だったはずだ。
 なのに、今目の前にあるのは……大きな、壁のようなもの。それに、足下には草が生えている。芝生?

 ということは、ここは外? 教室の中に入ったのに、外に出た? どういうこと?
 振り返ると、案内してくれた女子生徒が手を振っている。間違いなく、さっきまでいた景色。

「ここが、異空迷路……教室の中に入ると、異空間へと転送。そこで用意した、巨大迷路に挑んでもらう。
 これが、このクラスの出し物ね」

 パンフレットを読みながら、クレアちゃんが言った。なるほど……異空間に作られた迷路、だから異空迷路か。

 教室の中を異空間に繋げる……このクラスでそんなことができるのは、おそらくナタリアちゃんくらいだ。
 さっきの「ラルフ」クラスと、ちょっと似てるかもしれない。教室の中と外でまったく状況が違う。

 異空間ってのは驚いたけど、そういう存在自体は体験した。クレアちゃんとルリーちゃんの決闘のとき……ジルさんがいた異空間に入った時だ。

「……」

 あのとき、あの場にはナタリアちゃんもいた。
 まさか……あれから発想を得て、こんな空間へ転送させようって考えたのか?

 だとして、それを実現するなんて……どんなだよ。すごいなナタリアちゃんも。

『やあ、いらっしゃいエランくん、クレアくん』

 異空間の存在に圧巻されていると、どこからともなく声が響いた。
 それは間違いない、ナタリアちゃんのものだ。

『我がクラスの出し物、異空迷路。こちらで用意した巨大迷路をクリアしてもらえば、素敵な賞品をプレゼントするよ!』

 姿こそ見えないけど、私とクレアちゃんが来たことがわかったってことは、どこかから見ているのだろう。
 そして、この異空迷路の説明が始まる。

 賞品があるとは、テンションが上がるね!

「ワクワクするよね! なら速攻でクリアしちゃ……」

『ちなみに飛んだり、壁を破壊して無理やり進むのはナシだよ。その場合即失格だからね』

「………………や、やだなぁ、わかってるよ。せっかくの迷路だよ、そんなつまらないことをしたら楽しめないじゃないかぁ」

「なによその間は」

 ナタリアちゃんから釘を差されて、私はあははと笑う。
 そんな乱暴なことをするわけないじゃないかと、言葉を返すけど……クレアちゃんには相変わらずじろりと見られたままだ。

 まるで、私ならやりかねないと言わんばかりの視線だ。失礼しちゃうよね。

『じゃ、注意点を言うね。迷路の途中には、様々な罠を用意している。それらをかいくぐり、見事ゴールへたどり着いてもらうよ。
 時間制限は三十分。制限内にゴールできなかった場合、こちらで失格と判断した場合、そして棄権する場合は進言してくれれば、教室の出口まで転送するよ』

 時間制か……それもそうか。じゃないと盛り上がらないもんね。
 それにしても、制限時間が三十分もあるのか。結構あるなと思うけど、逆に考えればそれだけの時間があってクリアできるかどうかってことだろう。

 巨大迷路というからには、かなり大きいはず。
 現に、目の前の壁はかなり大きい。この壁に沿って進んでいき、途中に分かれ道や罠があるってことか。

 なんか、こういう試みはやったことないな。ワックワクしてきた!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

処理中です...