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第十章 魔導学園学園祭編
724話 他種族間の交流なんてもの
しおりを挟む「どやっ」
「わぁ……!」
私の姿を見て、みんな驚いた表情をしていた。特にルリーちゃん。
さっきまでエルフの姿だったけど、今別の姿に変えてみたところだ。
緑色の瞳と尖った耳はそのままに、金色の髪は銀色へ、白い肌は褐色へと容姿を変える。
種族こそエルフ族で一括りにされているけど、同じようで実際には全然違う。
それが、ダークエルフだ。
「ど、どうかな?」
「おー、わりと似合ってるっしょ」
みんなに感想を聞きつつ、私は手鏡で自分の顔を見る。
種族が変わるとは言っても、容姿が大きく変化するわけではない。
全体的に獣要素が強い亜人なんかは別だけど、獣人やニンギョなど、一部分が変化するだけの場合は自分の顔そのまま特徴を残している。
なので、エルフやダークエルフになっても顔立ちまで変わるわけじゃない。
「へー、こんな感じなんだねぇ」
「に、似合ってますエランさん」
ボソボソと、ルリーちゃんが言う。本当は声を大にして言いたいけど、あんまりダークエルフの姿が似合ってると言うと周りに変に思われてしまうからだ。
それでも、似合ってると思ってくれてるのだろう。何度もうなずきながら、涙まで流している。
そこまで感動されると逆に恥ずかしい。
「ダークエルフの種族になったのはまだルリーとエランだけだけど、こうしてみんなに触れ合えば案外怖らがられることはなくなんのかもなー」
私たちがこうして、みんなが怖いと思っている種族に変身することで、みんなの中から恐怖心を減らす……
実際には、ルリーちゃんは元々ダークエルフなのでダークエルフに変身したのは私だけだけど。
だとしても、みんなに触れ合ってもらえるのはいい考えかもしれない。
他にも、ダークエルフになってくれる子がいればいいんだけど……
「……なに見てるのよ」
クレアちゃん……は、さすがにダメかなぁ。
「クレアちゃんも一緒にダークエルフにならないか?」
「ならないわよ。
ていうか、こんな形だけ慣れても……"本物"を前にしたら、こんなの意味ないわよ」
首を振り、クレアちゃんは言う。
本物……とは、言葉通り変身していない、純粋なダークエルフのことだろう。
形だけ慣れても……意味がないと言う。
「意味ない、かな」
「……少なくとも、今のエランちゃんからダークエルフに似た魔力は感じても、あの圧倒的な圧力は感じないわね」
うまく言えないけど……と、クレアちゃんは目を逸らした。
ふむ……つまり、種族が変わってその種族の魔力にも似ることはできるけど、本物には程遠いということか。
所詮種族を変えただけのダークエルフと、実際のダークエルフを前にしたら全然違う……
クレアちゃんはそう言いたいのだ。
「そっか。ありがとね」
「……なんでお礼なのよ」
「あはは、なんでだろ」
それでも……意味がないとしても、それは百パーセントじゃない。少しでも可能性があるなら。
私は、その可能性に賭けてみたいかな。
「よ、よし私も……えいっ」
キョロキョロと周囲を見ていたルリーちゃんが、なにやら気合いを入れた声を出した。
すると、ルリーちゃんの容姿に変化が訪れた。
銀色の髪は、黒色に。褐色の肌は、肌色に……尖っていた耳は丸くなり、緑色の瞳は黒色になった。
「おぉ、黒髪黒目! 私だ!」
「エランちゃんではないけどね」
「なんだか新鮮っしょ」
「えへへ……」
ルリーちゃんは、黒髪黒目の人間の姿になっていた。
いつもと違う姿……すごく新鮮だ。それに、とても似合っている。
私じゃないのはわかっているけど、私を参考にしてくれたのかなーなんて思っちゃうよ。なんか照れくさい。
「わ、わぁ……こ、こういう感じ、なんですね」
ルリーちゃんは手鏡を見て、丸くなった耳を触っていた。
いつもの、自分の尖った耳とは違った耳……それが物珍しいのだ。
ルリーちゃんだけじゃない。自分が違った種族になれるなんて、とんでもない体験だ。みんな、自分の身体をぺたぺたと触っている。
私だって、さっきから尖った耳触りまくってる。んん、くすぐったい。
「あっちも昨日堪能したけど、やっぱ楽しいよなー。オシャレなら自分でできるけど、こういうのはなかなかできないし」
周りを見ながら、タラちゃんが言う。
なるほど……いつもの自分と違った自分という意味で、簡単にできるのがオシャレだ。服を買ったりお化粧をしたり、お手軽だ。
でも、種族丸々変えるなんてことはまずできない。
そういった物珍しさが、みんなのハートを掴んでいるんだろう。だって実際楽しいもん。
「他種族の交流を深めるために、こんな出し物を……ヨルめ、なかなかやるじゃん」
「多分その人そこまで考えてないと思うわよ」
ま、楽しいからだけでもいいんだよ。結果的に少しでも他種族への理解が深まれば。
それでいいのだ。
「まー、はじめはみんな物珍しいから来るんだろうけどっしょー。しばらくしたら飽きてどっか行っちまうの」
「た、タラさんっ」
頭の後ろで手を組み、唇を尖らせて身も蓋もないことを言うタラちゃんに、ルリーちゃんは困ったように笑っていた。
それは、事実なんだろう。言っちゃ悪いけど……いくら楽しいからって、長時間滞在しようとは思えないよな。
他にも回りたい場所はあるし、喫茶店みたいに食べ物が出てくるわけでもないし……
「でも、それは回転率が良いってことだから結果的にいいことなんじゃない?」
「そうとも言うっしょ」
考えてみれば、別にそこまでまずいわけでもなかった。
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