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第十章 魔導学園学園祭編
723話 笑いあえるもの
しおりを挟む「ま、みんな楽しんでってくれよ」
そう言って、ヨルは去っていく。
あんなんでもクラスの中心人物だし、いろいろと忙しいんだろう。
「あー、なーんか盛り上がってると思ったらそういうことか」
「?」
リーメイの登場で盛り上がっていると、奥から女の子の声が聞こえてきた。
その人物は、癖っ毛のあるふわふわな茶髪と、半開きの目が特徴的な女の子。
「あ、タラさん」
彼女の姿を見て、ルリーちゃんは嬉しそうな声を漏らした。
タラ……それが彼女の名前か。それに、ルリーちゃんが嬉しそうにしているのは仲良くしているってことだろうか。
駆け寄ってくるルリーちゃんうを手で制しつつ、タラちゃんは私を見た。
「あんたが、エラン・フィールド?」
「わかるの?」
「そりゃ、ルリーがこんな嬉しそうに話している相手なんて限られてくるっしょ……」
「た、タラさん!」
恥ずかしそうな表情を浮かべるルリーちゃん。どうやら、ルリーちゃんの反応で私のことがわかったようだ。
今の私、エルフだもんね。
「タラちゃんこそ、ルリーちゃんがすごく嬉しそうにしていたよ?」
「まあ、あっちが一応このクラスの仲じゃ一番仲良くしてるんじゃないかって自負はあるけど……」
「ちょっと、なんだか恥ずかしいんですけど!」
おぉ……ルリーちゃんがちゃんとクラスで馴染んでいるようで、私は嬉しいよ。
この子が、一番仲が良い子か。
なんだよー、ルリーちゃんにもそんな子いるんじゃん。教室での話もっとしてよー。
「エランさん、なんですかその優しい目は」
「んーん、なんでもないよ。ただ、教室でちゃんとやれてるか心配だったからさ」
「お母さんか」
「あっはっは、面白いっしょ」
なんにせよ、クラスで一番仲が良い子がいるし、ヨルもルリーちゃんのこと考えてくれてこの出し物を決めてくれた。
私としては安心できるってもんだよ。
「ま、そんなわけであっちの名前はタラ。よろー」
「うん、よろしく。
ところでタラちゃんは、人種族に変身してるってことは元々なんの種族なの?」
「あっちは元々人種族だけど」
「え」
「あはは、こういう子なんです」
なるほど……他種族に変身できるコンセプトだからって、別に必ず変身しなきゃいけないってわけじゃないもんな。
こりゃ一本取られたよ。
なんというか、マイペースな感じの子だな。嫌いじゃない。
「二人は、どうやって仲良くなったの?」
「どうやってって言われてもなぁ……
あっちも平民だから、まあルリーとは気が合ったってことっしょ」
そっか、平民同士仲良く……か。
魔導学園じゃ貴族も平民もない平等な場所ってことになってるけど、それでも本人の意識はどうにもならない。
だから、平民同士が惹かれあうのもまた必然なのかもしれない。
「ルリーとはちゃんとダチだから、まあ細かいことはいいっしょ」
「わっ、た、タラさんっ」
タラちゃんは、ルリーちゃんの肩をぐいっと引っ張り……その勢いのまま、ルリーちゃんの肩を抱いた。
その上、お互いの頬がくっつくほどに顔を近づけている。ルリーちゃんは恥ずかしそうだけど、嫌そうにはしていない。
まさか、こんなにも距離感の近い間柄だとは……
……いいなぁ。
「……なに見てんのよ。しないわよ私は」
「ちぇ」
私がなにを言うよりも前に、クレアちゃんは首を振る。
私もあんな風にやってみたいのに……クレアちゃんのいけずめ。
ルリーちゃんなら断らないだろうし、今度やろう。
「それにしても、これが本物の人魚かー。ホントに下半身魚なんだなー」
「いやん、くすぐったいヨー」
物珍しそうにしているタラちゃんは、リーメイの下半身部分を撫でている。
私も目触らせてもらったことがあるけど、わりと感覚はあるみたいだ。撫でられている程度だとくすぐったい。
他種族間の交流、ってやつかな。見ていて和むよ。
「なーなー、人魚って子供どうやって作んの?」
「た、タラさん!」
……和む、かなぁ。
「しっかしすごい魔法だよなぁ。あっちらと同じ平民だってのに、こんな魔法使えるなんて。うらやましい通り越して、なんかもう感心するっしょ」
それは感心か、それとも呆れているのか。タラちゃんが言っているのは、ヨルのことだろう。
あんまり気にしたことはなかったけど、ヨルは平民だ。家名がないからね。
私はフィールドの家名があるとはいえ、貴族だって言われると首をひねるし……立場としては、似た感じかもしれない。
私と同じく、学園に入学した時点で膨大な魔力を持っていたヨル。
そんなヨルが、教室内という限定された空間とはいえ、不特定多数の種族を変えることのできる魔法を使っている。
「誰かに習ったのか、それとも……」
私は師匠に魔導を習った。なら、ヨルにも同じ様に魔導を習う相手がいたのだろうか。
それとも、もしかして独学で編み出した……なんてことがあるのかもしれない。
おかしな言動をすることもあるけど、魔導の実力はやっぱり……認めざるを得ない。
「本人に言うのは絶対ヤだけどね」
こんなことをヨル本人に言おうものなら、調子に乗ること間違いない。その光景を想像するだけで、うっとうしい。
……まあ、なんにしても。最近は魔物魔獣、それらを操る者との戦いや……死闘に近い決闘とか。そんな物騒なことばかりだったけど。
本来魔法って……こういう、みんなで笑いあえるものだよね。
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