上 下
735 / 751
第十章 魔導学園学園祭編

723話 笑いあえるもの

しおりを挟む


「ま、みんな楽しんでってくれよ」

 そう言って、ヨルは去っていく。
 あんなんでもクラスの中心人物だし、いろいろと忙しいんだろう。

「あー、なーんか盛り上がってると思ったらそういうことか」

「?」

 リーメイの登場で盛り上がっていると、奥から女の子の声が聞こえてきた。
 その人物は、癖っ毛のあるふわふわな茶髪と、半開きの目が特徴的な女の子。

「あ、タラさん」

 彼女の姿を見て、ルリーちゃんは嬉しそうな声を漏らした。
 タラ……それが彼女の名前か。それに、ルリーちゃんが嬉しそうにしているのは仲良くしているってことだろうか。

 駆け寄ってくるルリーちゃんうを手で制しつつ、タラちゃんは私を見た。

「あんたが、エラン・フィールド?」

「わかるの?」

「そりゃ、ルリーがこんな嬉しそうに話している相手なんて限られてくるっしょ……」

「た、タラさん!」

 恥ずかしそうな表情を浮かべるルリーちゃん。どうやら、ルリーちゃんの反応で私のことがわかったようだ。
 今の私、エルフだもんね。

「タラちゃんこそ、ルリーちゃんがすごく嬉しそうにしていたよ?」

「まあ、あっちが一応このクラスの仲じゃ一番仲良くしてるんじゃないかって自負はあるけど……」

「ちょっと、なんだか恥ずかしいんですけど!」

 おぉ……ルリーちゃんがちゃんとクラスで馴染んでいるようで、私は嬉しいよ。
 この子が、一番仲が良い子か。

 なんだよー、ルリーちゃんにもそんな子いるんじゃん。教室での話もっとしてよー。

「エランさん、なんですかその優しい目は」

「んーん、なんでもないよ。ただ、教室でちゃんとやれてるか心配だったからさ」

「お母さんか」

「あっはっは、面白いっしょ」

 なんにせよ、クラスで一番仲が良い子がいるし、ヨルもルリーちゃんのこと考えてくれてこの出し物を決めてくれた。
 私としては安心できるってもんだよ。

「ま、そんなわけであっちの名前はタラ。よろー」

「うん、よろしく。
 ところでタラちゃんは、人種族に変身してるってことは元々なんの種族なの?」

「あっちは元々人種族だけど」

「え」

「あはは、こういう子なんです」

 なるほど……他種族に変身できるコンセプトだからって、別に必ず変身しなきゃいけないってわけじゃないもんな。
 こりゃ一本取られたよ。

 なんというか、マイペースな感じの子だな。嫌いじゃない。

「二人は、どうやって仲良くなったの?」

「どうやってって言われてもなぁ……
 あっちも平民だから、まあルリーとは気が合ったってことっしょ」

 そっか、平民同士仲良く……か。
 魔導学園じゃ貴族も平民もない平等な場所ってことになってるけど、それでも本人の意識はどうにもならない。

 だから、平民同士が惹かれあうのもまた必然なのかもしれない。

「ルリーとはちゃんとダチだから、まあ細かいことはいいっしょ」

「わっ、た、タラさんっ」

 タラちゃんは、ルリーちゃんの肩をぐいっと引っ張り……その勢いのまま、ルリーちゃんの肩を抱いた。
 その上、お互いの頬がくっつくほどに顔を近づけている。ルリーちゃんは恥ずかしそうだけど、嫌そうにはしていない。

 まさか、こんなにも距離感の近い間柄だとは……
 ……いいなぁ。

「……なに見てんのよ。しないわよ私は」

「ちぇ」

 私がなにを言うよりも前に、クレアちゃんは首を振る。
 私もあんな風にやってみたいのに……クレアちゃんのいけずめ。

 ルリーちゃんなら断らないだろうし、今度やろう。

「それにしても、これが本物の人魚かー。ホントに下半身魚なんだなー」

「いやん、くすぐったいヨー」

 物珍しそうにしているタラちゃんは、リーメイの下半身部分を撫でている。
 私も目触らせてもらったことがあるけど、わりと感覚はあるみたいだ。撫でられている程度だとくすぐったい。

 他種族間の交流、ってやつかな。見ていて和むよ。

「なーなー、人魚って子供どうやって作んの?」

「た、タラさん!」

 ……和む、かなぁ。

「しっかしすごい魔法だよなぁ。あっちらと同じ平民だってのに、こんな魔法使えるなんて。うらやましい通り越して、なんかもう感心するっしょ」

 それは感心か、それとも呆れているのか。タラちゃんが言っているのは、ヨルのことだろう。
 あんまり気にしたことはなかったけど、ヨルは平民だ。家名がないからね。

 私はフィールドの家名があるとはいえ、貴族だって言われると首をひねるし……立場としては、似た感じかもしれない。
 私と同じく、学園に入学した時点で膨大な魔力を持っていたヨル。

 そんなヨルが、教室内という限定された空間とはいえ、不特定多数の種族を変えることのできる魔法を使っている。

「誰かに習ったのか、それとも……」

 私は師匠に魔導を習った。なら、ヨルにも同じ様に魔導を習う相手がいたのだろうか。
 それとも、もしかして独学で編み出した……なんてことがあるのかもしれない。

 おかしな言動をすることもあるけど、魔導の実力はやっぱり……認めざるを得ない。

「本人に言うのは絶対ヤだけどね」

 こんなことをヨル本人に言おうものなら、調子に乗ること間違いない。その光景を想像するだけで、うっとうしい。

 ……まあ、なんにしても。最近は魔物魔獣、それらを操る者との戦いや……死闘に近い決闘とか。そんな物騒なことばかりだったけど。
 本来魔法って……こういう、みんなで笑いあえるものだよね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

処理中です...