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第十章 魔導学園学園祭編

722話 楽しいクラス

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 私はエルフになった。

「髪を染めるとかいろいろ方法はあるだろうけど、こんな完璧に種族が変わるなんてびっくりだよ」

 自分で試して改めて、思う。
 これが魔法によるものだって言うんだから、すごいよねぇ。

 でも、私も知らないような魔法をヨルが……なんだか悔しい!

「それにしても、みんな楽しんでるみたいだね」

「そりゃ、なかなか思いつかない試みだし……思いついたとしても、それを実行できる人なんてなかなかいないわよ」

 真面目な顔をして答えるクレアちゃんだけど、さっきから猫耳がピコピコ動いててかわいいんだよなぁ。

 まあ、クレアちゃんの言う通りだろう。喫茶店はなんだかんだ言ってやろうと思えば誰でもやれるし思いつく。でもこれは別だ。
 姿だけとは言え種族を丸ごと変える魔法……それも教室内にいれば誰でも変えられる仕様だ。

 悔しいけど、私にもすんなりできるとは思えない。

「むむむ……」

「どうしたんだエラン、そんなふくれて」

「なんでもない」

 悔しいのは確かだけど、おかげでルリーちゃんも思い切り素顔を晒せているわけだし……んぁー、複雑!
 ヨルなんかにあんな笑顔を作らせてしまうなんて!

「あ、エランお姉ちゃんにクレアお姉ちゃんだ」

 ふと、明るい声が聞こえた。
 聞き覚えのある女の子の声。声の方向に首を向けると、小さな女の子が歩いてきていた。

 その姿は、リザードマンってやつだ。二足歩行のトカゲみたいな感じ。
 その強面な姿とはまったく違った可愛らしい声。この声は……

「もしかして、レーレちゃん?」

「あったりー」

 正体は、やっぱりレーレちゃんだ。レーレ・ドラヴァ・ヲ―ム。
 魔大陸から帰ってきた後、一騒動あったこの国のお城で知り合い……そして今は、このクラスに転入生してきた女の子だ。

 別の国では王族だったって話だけど……こうして見ると、普通の子供だよなぁ。
 そういや、レーレちゃんのお父さん今どうしてるんだろ。

「レーレちゃんも楽しんでるみたいだね」

「うん! ヨルの魔法面白いんだよ」

「あっはっは呼び捨て」

 こんな小さな女の子の例外的な転入で、周囲の反応はどうなるかと思ったけど……わりと馴染めているようだ。
 それに、クラスメイトだろう子たちに頭なでなでされている。かわいがられているな。

 いろんな子がいろんな楽しみ方をしている。中には親子連れもいるようだ。
 特に子供なんかは、こういうところは楽しいだろうな。

「しっかし、こうして見ると人気の種族ってのがわかりやすいかもな」

「人気の種族?」

「そう。今だとほら、人魚が人気だぜ」

 ヨルの指さす方向には、三人のニンギョがはしゃいでいた。
 ニンギョは、元々この国にはいなかった。リーメイが来たことで、みんなリーメイと仲良くなり……そして、その物珍しさに目を輝かせた。

 おかげで、ニンギョの姿になってみたい子が増えているらしい。下半身お魚はどんな気分か私も気になる。
 ちなみにリーメイは、ナタリアちゃんのいるクラスに転入した。

 生徒会の仕事も頼んだとは言え……今行ったら会えるだろうか。

「わっ、こ、こんな感じなのねニンギョって……」

 ふと、クレアちゃんが慌てたような声を出した。
 クレアちゃんの猫耳と尻尾は消え、代わりに下半身がお魚に……つまりニンギョになっていた。

 いつも私たちは二本の足で立つけど、ニンギョには足がない。代わりに尾ひれがあり、リーメイは尾ひれで器用に立ったり、ぴょんぴょん飛び跳ねて歩いている。

「わぁ、ニンギョクレアちゃんもいいね!」

「そ、それはどうも。あと、なんだか皮膚が変な感じね」

 クレアちゃんは近くの机に手をつき、なんとか立っている状態だ。
 皮膚が変だと言うので、私はクレアちゃんの頬をつついてみた。柔らかい。そしてはたかれた。

 言われてみれば、確かに……触った感じなんだか違う気がする。

「ニンギョの皮膚って、人間とは違うのかな」

「そうだヨー」

「ほぁ!?」

 後ろからいきなり声が聞こえ、私は反射的に叫んでしまう。
 振り返ると、そこにいたのは……今話題の中心にいた、リーメイだ。

「リーメイ」

「外から、なんだか賑やかそうな声が聞こえてきたかラ」

 にこにこと笑顔を浮かべているリーメイは、今自由時間なんだろう。どうやら一人みたいだけど、満喫しているみたいだ。
 ふむ、さすがリーメイ。どこかに手をつくこともなく、尾ひれを完璧に使いこなして立っている。

 ところで、さっき人間の皮膚とニンギョのそれは違うって言ってたけど……

「リーたちは水中でも呼吸ができるように、他種族とは皮膚の作り方が違う……みたいなんだよネー」

「つ、つつかないでー」

 クレアちゃんの頬を指でつつくリーメイ……戯れる美少女ニンギョ二人。うむ、良い。

 なるほど、皮膚の作りが違うのは水中で活動できるかどうか、か。
 確かに私たちは水中じゃ息できないけど、ニンギョは呼吸ができるもんね。

「でもリーメイ、泳げないんじゃ……」

「しーっ」

 そう、リーメイはニンギョだけど泳げないのだ。
 魔大陸から帰っている時、ウミで溺れているリーメイを発見したんだもんな。

「ルリーたちのクラス、すごい面白いネー。
 でも、リーたちのクラスも面白いヨ!」

「ほー」

 えっへん、と胸を張るリーメイ。
 彼女も、人の国に来るのは初めて。学園もお祭りも初めてだ。

 どうやら、楽しめているみたいでなによりだよ。
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