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第十章 魔導学園学園祭編
720話 変わりたいと思ったから
しおりを挟むルリーちゃんのいる「ラルフ」クラス。そこまは、魔法による仮装が行われていた。
要は、自分がなりたい種族に変身することが出来る……というものだ。
この教室内限定だけどね。
そして、ヨルはエルフの姿に。さらに、後ろからルリーちゃんの声がした。
ルリーちゃんはいったい、どんな種族になっているのか。それを確認するために、振り返って……
「エランさん! クレアさん!」
「……」
「おわーーーっ!?」
「ひゃーーー!?」
私たちを呼ぶ声は、間違いなくルリーちゃんのものだ。
種族……いや姿が変わったとしても、その人の声までは変わらない。そして私がルリーちゃんの声を間違えることはない。
だから、そこにいるのは間違いなくルリーちゃんだ。
……銀色の髪を露わにした、褐色の肌を持つ少女。緑色の瞳と尖った耳は、間違いなくダークエルフの特徴そのものだった。
「ど、どうかしたんですかエランさん」
目の前のダークエルフの存在に、思わず驚いてしまった私は声をかけてくれたルリーちゃんも驚かせてしまった。
いや、どうしたのかはこっちのセリフなんだけど!?
「いや、な、なにしてるの! か、顔出しちゃってる! 出てるよ!」
私は声を潜めて、ルリーちゃんに話しかける。
ルリーちゃん、いつも正体を隠すために認識阻害の魔導具を被っているのに……今日は、それを着用していない。
もろじゃん! これもうそのまんまじゃん! そのまんまダークエルフじゃん!
「お、落ち着いてくださいエランさん」
「いや、落ち着けって! こんなオープンに顔をさらしてたら、みんな騒ぎに……
……なんて、ない?」
そういえば、慌てているのは私だけだ。
教室にいる誰も……クレアちゃんも、平然としている。どうして?
困惑する私の耳に、「ふふふ」と得意げに笑う声が聞こえた。
「それはな、ちゃあんと理由があるんだよ。思い出してみ、ここはどこだ?」
ヨルは、なんだか楽しそうに指を立てている。
腹の立つ顔だ。
「どこって……「ラルフ」クラス……」
「そうじゃなくて。このクラスが出している出し物は、なんだ?」
「出し物はなにって…………ま、さか……」
そこまでヒントを出されて、私は一つの見解に至った。
ここが、なにを出し物にしているのか。それは、いろんな種族に姿を変えることが出来る魔法だ。
そのおかげで、教室にはいろんな獣人や亜人、エルフまでいるわけで。
つまり、いろんな種族ってのは、なんにでもなれるってわけで……
「……ダークエルフという種族に変身した、という設定で?」
「はい、そうです」
「……」
にっこりと笑うルリーちゃんに、私は唖然とした。なん……だと……!?
ルリーちゃんは、ダークエルフに変身している……というコンセプトでその姿をさらしている。でも、それは嘘だ。
だって、ダークエルフに変身するどころか、ルリーちゃんはダークエルフなんだから。
「お、おぉ……」
「エランさん、どうしました頭を押さえて」
「いや……ちょっと、キャパオーバーが……」
なるほど、いろんな種族に変身できる。そういう空間だからこそ、どんな種族が居ても不自然ではない。
そう、たとえエルフやダークエルフといった種族が居ても、不思議ではないのだ。
オーケーオーケー、納得した……
「わけじゃあないんだよなぁ」
「?」
きょとんと首をかしげているルリーちゃんは、かわいい。それは間違いない。
同時に、ここがなんとも不思議な空間のように思える。いろんな種族がいるから、という意味ではない。
ルリーちゃんが、フードを脱いでこんな堂々と素顔を晒しているからだ。
人前があるこの学園……いや国では、落ち着いて素顔を晒せるのは自室くらいだ。
そんなルリーちゃんが、人前で姿を晒している……
「う、く……っ」
「泣いた!?」
「わぁ、泣いちゃった」
なんだろうね、この気持ち……決して、ダークエルフが認められた……ってわけではないんだけど。
ダークエルフが、なにも隠すことなく素顔を見せることが出来る。それが、なんかもう……
「なんか、よかったなって……」
「お母さんかあんたは」
それからしばらくして、落ち着いた。
「ふぅ。それにしても、すごいこと考えたね……いや、考えてもやろうと思ったね」
「せっかくだし、みんなに学園祭楽しんでもらいたいじゃん? いっつも顔隠してたら、学園祭も楽しめないかなってね」
どうやら、この件にはヨルも噛んでいるみたいだ。
この男、ルリーちゃんのことを考えてくれていたなんて……少し見直したよ。
ヨルも、ルリーちゃんがダークエルフだと知っている一人だ。
エルフなんてファンタジーものの王道嫌うわけがない……と変なことを言っていたけど。
「それにしても、よく自分から顔を出す決心がついたわね」
クレアちゃんの言葉に、私もそれは疑問に思っていた。
いくらヨルも噛んでいたとしても、実際に素顔を晒すのはルリーちゃん本人だ。
ダークエルフの、世間からの扱いを知っているルリーちゃん。この間だって、クレアちゃんとあんなことがあったのだ。
それなのに……いくら種族変身のコンセプトとはいえ、よく顔を出す決心をしたものだ。
「私も、迷いました。
……でも、私もなにか、変わらないとって。そう思ったんです」
やっぱり不安はあったのだ。ルリーちゃんにも。当然だ。
でも……それよりも、変わりたいという気持ちが大きかったのだ。
ルリーちゃんも、強くなっている。そう、感じた。
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