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第十章 魔導学園学園祭編

719話 え、エルフ!?

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 さて、ノマちゃんのいる「デーモ」クラスの執事喫茶で、パフェを堪能したりコーロランの婚約者さんに会ったり。
 いろいろあったけど、次だ次。

 次は、ルリーちゃんのいる「ラルフ」クラス。
 確か、事前に確認したクラスの出し物は……仮装がどうのって感じだったかな。あんなよく見てないんだよなー。

 ま、いいか。行ってみればわかる。さあ行くぞ!

「やぁー、いらっしゃいませー!」

「……」

 教室に足を踏み入れ、出迎えてくれたのは……金色の髪に白い肌。緑色に光る瞳と……なにより尖った耳が特徴的な種族。
 エルフだった。

 場所、間違えたかな?
 教室を一旦出て、確認する。確かにここは「ラルフ」クラスだ。

「あれー、エランじゃん! 着てくれたんだな!」

「?
 ……?」

 そのエルフは、私を確認するなりやたらと親しげに声をかけてきた。

 いや、だって……え? なんでここにエルフが……?
 そもそもの話、この学園にはウーラスト先生以外エルフがいないし、国の中だってそうだ。学園の、同じ学年の、別のクラスにエルフが居るなんて……そんなの、居たら知らないはずがない。

 なんだこれは? どうなってるんだ?

「あれ? エラーン、もしもーし?」

 固まる私に心配そうにして、声をかけてくる男のエルフ、その声……声?
 なんだろう……この声、聞き覚えがあるような?

 混乱する材料が増え、どうしたものかと思考が止まらない中で、肩にポンと手を置かれる。
 振り向くと、そこにはクレアちゃんがいて……呆れたような表情をしていた。

「く、クレアちゃん? あの、え、エルフが……」

「やっぱり勘違いしてる。よく見なさい」

 混乱する私とは対称的に、落ち着いた様子のクレアちゃん。
 クレアちゃんは軽くため息を漏らしたあと、ジト目で私を見つめて、ある点をちょいちょいと指さした。

 その方向へと、首を向けると……教室の入り口に、書いてあったのだ。
 ここではいろんな種族に変身することができる空間だ……と。

 つまり……

「エルフじゃ……ない?」

「そうそう。エルフに変身している、俺でしたー」

 ここにいるのは、エルフの姿に変身した別人……そしてこの馴れ馴れしさ、声……この「ラルフ」クラスで見当するのは一人しかいない。

「よ、ヨル?」

「せいかーい」

 目の前の人物は、私と同じ黒髪黒目の特徴を持つ……ヨルだった。
 今はその面影はどこにもなく、どこからどう見てもエルフにしか見えない。

 姿はエルフなのに、声はヨル……なんか変な気分だ。

「び、びっくりしたぁ」

 いきなりエルフが出てきたんだもん、心臓に悪いよ。

「エランちゃん、確認してなかったの?」

「う、うん……ほら、楽しみに取っておきたいなって思って、あんまり深くは見てなかったっていうか……」

 楽しみに取っておくために、それぞれのクラスがなにをやるかはおおまかにしか知らない。内容なんて全然だ。
 それを聞いて、ヨルが首を左右に振った。

「だとしても、やっぱり確認しなよ。教室の入り口に書いてあるし、なんならパンフレットにも。こういうことしてるので、教室にいろんな種族がいても驚かないでくださいってね。
 第一、エランは生徒会で、他学年他クラスの出し物も確認できるだろうに」

「ごめんなさい」

 ぬぐぐ、なんて正論……正論とはいえ、ヨルに謝るなんて。一生の不覚!

 とはいえ、これは私の落ち度だ。確認してなかったから驚いてしまったし、驚いたから周囲の人も何事かと見ている。
 き、気まずい……

「それにしても、なんでエルフ?」

「エルフってこの国に先生しかいないじゃん? だから、物珍しい種族になれば目立てるかなって!」

「ふぅん」

 目立てるかはともかくとして、これはなかなかいい出し物じゃないだろうか。
 自分が、なりたい種族になれる。いろんな種族になれる。これって、みんな一度は思ったことがあるんじゃないかな。

 教室の中をよく見ると、獣人に亜人がたくさんいた。気になる種族は多いってわけだ。

「これ、姿を変える魔導具とか、そんなやつ?」

「と思うじゃん? ところがどっこい。俺の魔法なんだよなー」

「ヨルの?」

 驚くべきことに、姿を変える魔法はヨルのものだという。魔導具だと思ったけど、そういうのがあったとしてこれだけの数を揃えるのは大変か。

 それにしても、種族ごと変えてしまうなんて……それも、これだけの数を。
 そんな魔法、私だって知らないのに。

「むむむ……」

「なんだよエラン、その顔」

「別に」

 どうやら、この教室内にはヨルの魔法がかけられていて、教室の中にいれば自在に種族が変えられるらしい。
 逆に、効力は教室の中だけだ。なので、昨日はわりと盛況だったらしい。

 今はあまり人は居ないけど……やっぱり、お昼からかな。

「頭の中に、なりたい種族を浮かべればなれるぜ」

「じゃあ、クレアちゃんもなにかなってみてよ」

「いいけど。
 ……んむむ」

 頭の中でイメージする。魔法と同じやり方ってことかな。
 クレアちゃんは目を閉じ、真剣に唸っている。その姿はなんだか面白い。

 それからしばらくもしないうちに。クレアちゃんの体に、変化が訪れた。

「……耳?」

「かわわわわ!」

 クレアちゃんの頭には、二つの猫耳が生えていた。
 猫型の獣人だ。視線を下げれば尻尾も生えている。

 うわぁ、すごい! まさかこんな合法的にいつもと違ったクレアちゃんを見れるなんて!

「猫耳なんてピア先輩で見飽きてると思ってたけど、そんなこと全然なかったよ! はわわわ!」

「それ絶対本人に言っちゃダメよ」

 獣人ならば体の一部分が変化するためわかりやすいが、エルフみたいに全体的に変化すれば元が誰かはわからない。
 教室の中は知らない顔でいっぱいだ。

 ということは……

「ルリーちゃんも、どこかにいるのかな」

「今が当番ならね。案外、エランちゃんを真似て黒髪黒目になってたりして」

「えー、そうかなー」

 もしクレアちゃんの言う通りなら、恥ずかしいけど嬉しいかも。
 そんなことを思いながら、キョロキョロと辺りを見回す。うーん、どこかなー……

「エランさん、クレアさん」

 ルリーちゃんを探しているそのとき、後ろから声がした。ルリーちゃんの声だ。
 姿は変わっても、声は変わらない。間違いない、後ろにいる。

 だから私は、ルリーちゃんがどんな姿をしているのか……期待を込めて、振り向いた。
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