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第十章 魔導学園学園祭編
717話 興味を抱いている
しおりを挟む学園祭二日目……ノマちゃんのいる「デーモ」クラスでやっている執事喫茶に来た私とクレアちゃん。
ノマちゃん以外にも、コーロランやカゲくんの活躍を眺めながら食事をしていた。
そんなとき、現れたのだ……第二王子コーロランの婚約者だという、女の人が。
サライア・パルシュタン。王族の婚約者に選ばれるって程だから、かなり有名な家柄で本人の器量も良いのだろう。
……そう考えると、第一王子ゴルさんの婚約者のリリアーナ先輩って、私が思ってるよりかなりすごい?
「ふむ……あなた、なかなか面白いですね」
「へ?」
そんな婚約者さんは、私を見て面白いと告げて……私とクレアちゃんが座っている席に目を向けた。
そして、空いているもう一つの椅子に座ったのだ。
「サライア……他にも、席は空いているが……」
「あら、良いではありませんか。私、この方と一緒の席がいいですもの。あなたはお嫌?」
コーロランがさりげなく他の席を促すけど、婚約者さんは気にした様子はない。
それどころか、私に同意を求めてくる。
「え、まあ……私は、別に……」
「あなたも、構いませんね?」
「……!」
次にクレアちゃんに言葉をかけると、クレアちゃんはこくこくとうなずいていた。
あの雰囲気で、ダメとは言えないだろうに。
それにしても……私がこの人のこと知らなかったからって、それだけで気に入られる要素あったかな。
「あら、コーロラン。せっかくのお客よ、丁寧な接客をするのが礼儀じゃなくて?」
「……いらっしゃいませ、お客様。ご注文はいかがしますか」
「あなたのオススメでいいわ」
なんだろうな、この二人のやり取り……終始コーロランが表情が固いというか。なのに、婚約者さんはうっすらと笑みを浮かべている。
婚約者さんの注文を受け、コーロランは背を向け去っていく。
残された私たち……相席でもいいとは言ったけど、き、気まずい……
「えっと……」
「そういえば私、あなたの名前をまだうかがってませんでしたね」
なにか話題を……と考えていたところ、婚約者さんが広げていた扇子を閉じ、私を指した。
確かに、私はまだ名乗っていない。
ここは礼儀として、名乗っておくべきかな。
「えっと……エラン・フィールド……です」
「……へぇ、そう。あなたが噂の」
私の名前を聞いて、婚約者さんは笑みを深めた。
またっ。また噂のって言われた! だから私の噂ってなんなんだよ!
「まあ、学園の生徒ならいろんな噂聞いてるんだろうけどさ……」
「あら、私は魔導学園の生徒ではありませんわよ」
「そ、そうなの?」
どうやら婚約者さんは、学園の生徒ではないらしい。
コーロランの婚約者だっていうし、私たちよりちょっと年上に見えたから二年生か三年生の先輩なのかと……
……やっぱり私の噂、なにがどこまで広がってるんだよう。
「私は、こことは別の学園に通っています」
「……別の学園? え、この国にあるのって魔導学園だけじゃないの?」
「そんなわけないでしょう」
「あははは、面白いですわね!」
魔導学園とは別の学園に通っているという婚約者さん。その存在に私が首をかしげると、これまで黙っていたクレアちゃんからの指摘が入った。
黙ってられなかったようだ。
さらに、そのやり取りを見ていた婚約者さんがお腹を抱えて笑っていた。
「いや、だって……他の学園の話とか、聞いたことないし……」
「それはエランちゃんが魔導学園以外興味ないからよ。魔導大国のベルザ国だけど、魔導関係の学園が一つしかない、なんてことはさすがにないわよ。
他にも魔導を学べる学園はあるし、そうじゃなくてもいろいろあるわよ」
「あははははは!」
うぅ……無知だ無知だとは言われてきたけど、この国のこともまだまともに知らないのかぁ。
考えてみればそうだよなぁ。こんな大きな国に……いや国に学び舎が一つしかないなんてことはないじゃないか。
それに、魔導学園しかなかったら落ちた子はどうなるんだって話だ。
「あぁー、おかしい。こんなに笑ったのは久しぶりです。褒めて差し上げますわ」
お腹を抱え、ようやく笑いが収まったらしい婚約者さんに褒められるけど……正直、褒められている気なんてまったくしない。
今のはユーモアで笑ったってよりも、私の無知を笑ったでしかないからだ。
そんな私の思いを知ってか知らずか、婚約者さんは軽くため息を漏らした。
「他校でも有名ですよ、エラン・フィールドさん。魔導学園始まって以来の変な……才女ですとか、なににも怖気ないバカ……勇敢さを持った女性であるとか」
「全然いい意味での有名に思えないなぁ」
国中や他の学園でもそんな扱いなのか私は。全然取り繕われてない。
というか、こういう噂って少ししたら消えるもんじゃないの!? 全然消えないどころか増えてるんだけど!
……まあ、日々を重ねるごとにいろいろやってるからみんなからの記憶から消えない、ってのはあるのかもしれないけど。
「いえ、私はとても興味を抱いていますよ。その容姿が珍しいのはもちろん、学園で起こしている数々の事件や、あのグレイシア・フィールドの弟子だという話も。話題は尽きませんもの」
「事件扱い!?」
「ぜひ一度、話をしてみたいと思っていました。世間知らずの少女だからかはわかりませんが、王族に……ゴルドーラ様や、我が婚約者にも馴れ馴れしい態度を取る肝の座り様。そんな人物、なかなかいませんので」
……婚約者さんが私を見る目が、完全に獲物を見る目なんだけど! ちょっ、怖いんですけど!
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