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第十章 魔導学園学園祭編

711話 握手

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 食事を終えて、少し休憩。周りでは、人も落ち着いてきたようだ。
 こうしてお客側から見てみると、クラスのみんながまた違った角度で見えるよね。

 みんな頑張ってて、よきかなよきかな。

「じゃ、そろそろ行こっか」

「はい」

 席を立ち、会計を済ませてから教室を出る。
 いやあ、我ながら考案した料理は好評だった。名前をつけたのはネクちゃんだけど、だいたいのメニューを考えたのは私だ。

 とりあえず今まで作ってきた料理を思い出して挙げたけど、好評なようでなによりだよ。
 作り方を教えるのも、新鮮で楽しかった。師匠は料理しない人だったからな。

「二人は、これからどうするの?」

「私たちは、そろそろ帰ります。充分楽しませてもらったので」

「えー、もう少しいたーい」

 これから帰宅するというペルソナちゃんに、カルくんは膨れて抗議する。まだまだ遊び足りないといった様子だ。
 そんなカルくんの頭を撫でながら……

「今日は人がたくさんいて疲れたでしょ。明日も来るんだから、今日は帰りましょう」

 と、ペルソナちゃんは言い聞かせるように優しく告げた。
 頭を撫でられ、心地よさそうな表情を浮かべるカルくんは、しかし首を振る。

「ま、まだ疲れてなんて……ふぁあ……」

「ほら」

 言い返す最中に、大きなあくびをして大きく口を開けた。はっとして口を閉じるカルくんだけど、もう遅い。
 ちょっと恥ずかしそうだ。

 そりゃ、こんな小さいのに歩きまわってたくさんの人に囲まれてれば疲れるよな。
 それに、一度迷子になってたんだ。その疲れも残っているだろう。

「ね、眠く、なんて……」

「わっ」

 目をこすり、眠くないと訴えるカルくんだけど……その場でよろよろとふらついてしまう。
 それを見たペルソナちゃんは素早く、カルくんの体を支えた。

 そして……数秒としないうちに、カルくんは目を閉じてしまう。それからまた、数秒もしないうちに寝息が聞こえてきた。
 さっきまで張り切って騒いでいた分、その反動で今疲れが一気に襲ってきたのだろう。

「まったく、言った通り」

「運ぶの手伝おうか?」

「いえ、だいじょう……あ、でしたら私の背中にカルを乗せてくれませんか?」

 私の手伝いはいらないから大丈夫だと言おうとしたペルソナちゃんだけど、少し考えるようにしてから私に背中を向け、屈んだ。
 そして、背中にカルくんを乗せてくれと言うのだ。つまり、おぶるのだ。おんぶだ。

 カルくんが起きてるなら、自力で背中にしがみついてもらえるけど……寝てしまったら、一人でその人を背中に乗せるのは難しい。

「了解。よいしょ、と」

 私は言われたとおりに、カルくんを抱き上げて……ペルソナちゃんの背中へとゆっくりと、おぶらせるように乗せる。
 小さな子であるとはいえ、眠って脱力しているからちょっと重いな。

 ま、この程度どうってことないよ私にとってはね。鍛えてますからね!

「ん。……しょ、っと」

 背中にカルくんの重みを感じて、ペルソナちゃんは一緒に腰を上げる。
 小さな体を背負った体も、決して大きいとはいえない……それでも、危なげなく立ち上がった。

 何度も、こうしてカルくんをおぶっているからだろう。慣れたものだ。

「お姉ちゃんしてるんだねぇ」

「えぇ、まあ」

 弟かぁ……いいよね小さい子。妹もいいけど、わんぱくなのはやっぱり弟だろうか。
 私は一人っ子だから、そういうの憧れちゃうよ。いやまあ、自分で言うのもなんだけど小さい子に好かれてはいるし妹みたいに思う子もいるけど。

 ……お姉ちゃんじゃなくてママって呼ばれるんだもんなぁ。

「明日も、来てくれるんだね」

「えぇ、せっかく来たんですから。今日だけだともったないですし」

 カルくんをちょうどいい位置に背負いながら、ペルソナちゃんは答える。
 そりゃ、わざわざ他の国から来たんだもんね。一日しか遊んでいかないなんてもったいない。

 そう考えると、他にも別の国から来てる人はいるんだろうし、その人たちも明日以降も来るのだろう。

「じゃ、明日も会えるかな」

「……かもしれませんね。お互い目立ちますし」

「あはは、そうだね」

 ペルソナちゃんは、自分の黒い髪を触った。

 学園祭なんて大きな行事……他の国からも大勢が来ているというのに、黒髪の人物は全然見かけない。やっぱり、珍しいのだ。
 だから、その特徴の私たちはすぐにお互いを見つけられるだろう。

 それから、私は手を差し出した。

「!」

「また会おうね、の握手!
 ……あ、難しかったかな」

 手を差し出したはいいけど、今になってペルソナちゃんはカルくんを背負っていることに意識が向いた。
 人を背負っていたら、握手なんてできない。

 だけどペルソナちゃんは、ふるふると首を振ってから片手を離し、私の手と繋いで握手をした。

「これくらいなら、問題ないですよ」

「そっか、よかった」

 学園祭というお祭りでできた、友達。友達、って言っていいのかはペルソナちゃん的にもどうなのかはわからないけど……
 とにかく私は、そう思ってる。

 ぎゅっ、と固い握手を交わしてから、私たちは笑顔で別れた。
 手を振るペルソナちゃんに背を向け、私は教室の中へと戻っていった。いやあ、楽しい時間だった!





「またね。…………ニル」
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