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第十章 魔導学園学園祭編
708話 まさかのファンクラブ
しおりを挟む「おまたせしました」
しばらくして、明るく弾けるような声が聞こえた。注文した料理を持ってきてくれた店員さんだ。
今度はちゃんとめいどさん。よかったよかった。
それぞれ料理を並べてくれて、愛想のいい笑顔を振りまいた。
これが接客のためだって言われても、和んじゃうよねぇ。
「わ、おいしそう!」
目の前の料理を見て、カルくんは目を輝かせていた。
多彩なメニューってわけじゃないけど、わりと味には自信がある。なんたって私が指導したんだからね!
師匠のところで十年も料理やってきた私にとっては、料理なんてお茶の子さいさいよ!
……まあ、振る舞う相手が師匠しかいなかったから、師匠好みの味付けになってしまっている可能性もあったけど。
それでも……
「おいしー!」
ご飯を食べて表情を明るくさせるカルくんを見ると、自然とほっこりする。
カルだけじゃない。他のお客さんも、おいしそうに料理を食べていた。
みんな頑張っていたんだ。その結果がこの笑顔なら、上々だろう。
「確かにうまいね。クオリティも高いし、一年生にしちゃかなり出来がいい」
「ふふん、そうでしょうそうでしょう」
「相変わらずだねキミは」
わいわいと会話をしながら、食事を続けていく。
めいどさんを見ながら、おいしい料理を食べるこの至福のとき! なんか……いいね!
それに、いつもとは違うメンバーと食事をするのも、なんだか新鮮だ。
「ところでエランちゃんは、友達のクラスにはもう行ったのかい?」
「ううん、まだだよ。今日はとりあえず、全体的に見ておきたかったから……他のクラスは、明日からかな」
ルリーちゃんたちのところも気になるけど、まあ今日はいろいろあったし。
明日はクレアちゃんと休憩時間が一緒になるから、二人で行ってみるつもりだ。
我ながら自分のクラスはかなりの出来だと思うけど、他のところもどうなっているのか。
「なら、今度は三年の教室にもおいでよ。いろいろ面白いことやってるからさ」
「面白いこと」
「なんたって、俺らにとっちゃ最後の学園祭だ。いろいろ盛り上げていこうって話になってね」
先輩たちの話を聞く。上級生の教室には行ったことないけど……あ、一回行ったことがあるな。頭だけ。
普通に生活してたら、上級生の空間は少し行きにくいかもしれない。でも、こういうときだからこそ行きやすいはず。
面白いことがあるなら、なおさら興味がある。
「エランちゃんならきっと、みんな大喜びで接待してくれると思うよ」
「なにゆえ!?」
「そりゃ、あのゴルと決闘した一年生なんて……そんな面白い存在、話の種が尽きないってもんよ」
……どうやら私は、三年生の間では毎日のように話のネタに上がっているらしい。
三年生と決闘する一年生、ということ自体珍しいのに、その相手が王族で生徒会長と来たもんだ。
中にはシルフィ先輩みたいに、身の程知らずの一年生、という認識の人もいるのかもしれない。さすがに全員が全員が好意的な印象じゃないだろう。
それでも、三年生の中では私の話で盛り上がるほど、私のことを面白い女として認識しているらしい。
「あーむ……」
そっか……今まで気にしたことなかったけど、三年生の中での私の扱いかぁ。
一年生の中では、ヤバい狂犬扱い。生徒会長に挑んだあいつやべーぞみたいな感じで、一定の層からは距離を置かれている。
対して三年生の中では、生徒会長に挑んだ面白い一年生。そういう認識か。
そのわりには、三年生に話しかけられたことってない気がするんだけど。
「そりゃ、エランちゃんに話しかけて俺も決闘を挑まれたらどうしよう、なんて思ってるからじゃね?」
「勝手に心を読まんでください」
とはいえ、タメリア先輩の言うとおりだとしたら……
それ、面白い女じゃなくてやっぱりやべー狂犬扱いなんじゃないのか。
というか、三年生にも狂犬扱いされてる私はなんなんだよ。
「不満そうだね」
「そりゃそうだよ。
……あ、イチゴパフェください」
まったく、失礼しちゃうよねこんなか弱い女の子を捕まえてさ。
ちなみに、私は気にしていなかったけど魔導大会での"楽しそうに戦いを繰り広げている"私が一部の生徒に恐怖を与えたらしい。
そしてさらに一部は、そんな私を見てファンクラブを作ったらしい。なんでだよ。
「ちなみに、俺もそのファンクラブの一員ね」
「ホントになんでだよ!」
「面白そうだったから」
魔大陸から帰ってきて、学園は休みになっていた。また学園が再会してからも、学園祭の準備で余計なことは考える暇がなかった。
まさか、そんなことになっていたとは……
そういえば、時折熱視線を感じることがあったような気がする。
「まあほとんどの会員は、エランちゃんのあの狂戦士状態にゾクゾクしたって言ってたね」
「嫌だ知りたくない」
別にファンクラブとやらが出来るのは、悪いことじゃない。大勢に認知されればそれだけ、私すごいをアピールできるから。
でも……こういうのはなんか、違うじゃん。別に変態は求めていないんだよ。
私の強さに憧れて、ならまだしも、楽しそうに戦う私にゾクゾクしてって……なんか、なんかさぁ……
「お待たせしました、イチゴパフェです」
「ぬがー、こうなったらやけ食いじゃー!」
注文したイチゴパフェが届き、私はいろんなことを吹っ飛ばすためにやけ食いすることにした。
パフェのクリームを、果物を、一気に口の中へかき込んでいく。本来パフェってこんな食べ方じゃないよな。
それでも、むしゃむしゃもぐもぐと食べていく。
結果、お腹の中がもたれた。苦しい。
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