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第十章 魔導学園学園祭編

693話 休憩時間

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「ご、ご……ゴルドーラ、様……?」

「キャー!」

 その光景に、リリアーナ先輩は困惑の声が上がり……周囲からは、黄色い声が上がる。
 それはそうだろう。この場にいて誰しもの視線を奪うゴルさんとリリアーナ先輩……その二人が、というかゴルさんが、リリアーナ先輩の前に料理を持っていったからだ。

 それは……いわゆる、『あーん』というやつだ。

「? どうかしたか、リリアーナ」

「え。あ、いえ、その……」

 いきなりあーんをされて、リリアーナ先輩が困惑するのはわかる。この王子様は、なんでこんな平然としているんだ。
 まるで、周りに私たちがいるのを見えてないといった風だ。でも、そんなはずはないわけで。

 こんな、人前で堂々と……

「ゴルドーラ様、すごく大胆だわ……!」

「あぁん、いいなぁ。私も彼氏にあんなことされてみたい」

「あんた彼氏いないでしょ」

 ゴルさんたちが教室に現れたとき以上に、周りの視線がすごい……

「いや、ではないでうが……みんな、見てますし……は、恥ずかしいです」

 いつもクールなリリアーナ先輩も、今はそれが形無しだ。
 ていうか、私は間近でなにを見せられているんだ。

 注文した品は届け終えたのだから、さっさと帰ってしまおうかな。

「じゃ、私はこれで……ごゆっくり」

「え、エランちゃん……!」

 私は二人に背を向けて、さっさとその場を後にする。
 他の人のイチャイチャ悶々している場面は大好物だけど、イチャイチャしているところをじっと見続ける趣味もない。

 しっかし、どうしてゴルさんいきなり、あーんなんて……しかも、こんな人前で。
 もしかして、学園を卒業したら国王の座につくことになるから、残りの学生生活をうんと楽しむつもりなのかも、しれないな。

「ただいまー」

「ねえ、向こうでなにがあったの? すごく盛り上がってるけど」

「いや別に、たいしたことじゃないよ。ただゴルさんがリリアーナ先輩にあーんしていただけ」

「ふーん、そうなん…………!?」

 その後も、ほどほどに忙しい感じで注文が回ってきて、私たち料理組は動いてばかりだった。
 とはいえ、みんな練習の甲斐もあって慣れてきていたからか、うまくできていた。

 そうして、時間も忘れるほどに作業に没頭していて……

「お疲れ様、そろそろ交代の時間だよ」

 声をかけられて、ようやくそれだけ時間が経っていることに気付いた。

「あ、もう? なんか夢中になっちゃってたよ」

「ふふ、結構好評みたいよ」

「こりゃ、私たちも大忙しね」

「頑張ってねー」

 交代メンバーとそれぞれ声を掛け合い、ひとまず当番が終わった私たちは部屋を出る。
 午後からの担当は五人だ。忙しいかもしれないけど、頑張ってほしいものだ。

 教室を覗くと、なかなか盛況だった。特に、やっぱりめいど服の評判はいいみたいだ。

「みんな頑張ってるねぇ」

「そうみたいね。それで、みんなはどうするの?」

 本当なら、クレアちゃんやフィルちゃんと学園祭を回りたいけど……接客係とは休憩時間が違うからなぁ。
 今日のところは、一緒には回れなさそうだ。

「せっかくだし、四人で回らない?」

「構わないわよ」

 というわけで、私は同じ料理係だったネクちゃん、ウルウちゃん、アメリアちゃんと学園祭を回ることに。
 仲の良い子と回るのもいいけど、あまり話したことがないような子と回って交流を深めるのも、いいよね。

 特にネクちゃんは、いつもなにかの本を読んでいて、話したことはあまりないし。

「お昼時だから、どこも多そうね」

「とはいえ、少し過ぎてはいるから入れる場所はあるでしょ。なんなら食べ歩いてもいいんじゃない?」

「お、いいねー」

 貴族のみんなは、食べ歩きなんてことはしたことがなさそうだけど……今日は、無礼講ってやつだ。
 それに、周りでも食べ歩きをしている人は、ちらほらいる。

「それにしても……」

「ん?」

 ふと、三人からの視線を私に……私の服に、感じる。
 それは、私が着ているめいど服に向けられていた。

 まあ……周りを見ても、こんな格好で歩いている人はいないからなぁ。

「うーん、やっぱり目立つかなぁ」

「そりゃあねぇ」

「えっと、みんなは嫌かな? 周囲の視線とかさ」

 もし、私がめいど服を着ていることで周囲の視線を浴びることになっているのなら、残念だけどめいど服を脱ぐっていうことも考えなきゃいけないけれど……

「ううん、構わないわ。というか視線なんてもう慣れちゃったし」

「そうそう。エランちゃんと一緒の時点で視線なんて覚悟してたし、もう慣れっこよ」

「ぐゅふふ!」

「みんな……!」

 私のせいで視線を浴びることになっても、みんな文句の一つも言わない。なんていい子たちなんだ。
 それはそうと、なんだろうこの諦めにも似た雰囲気は。

 そりゃ、私はこれまで黒髪黒目ってことや、入学早々やらかしたことから注目されることが多かったけど……
 ……そのせいか。

「うぅ、なんかごめん」

「謝る必要はないわ。貴族たるもの、注目されてナンボだし」

「それに、エランちゃんと一緒の楽しさの方が勝っているもの」

「ぐゅふふ!!」

「みんな……!」

 それからみんなとお話をしながら、まずは料理を食べられる、空いているところを探すことにした。
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