上 下
704 / 751
第十章 魔導学園学園祭編

692話 そりゃ注目されるよね

しおりを挟む


 ウチのクラスにゴルさんとリリアーナ先輩が来たことで、室内はしばらく落ち着きを失っていた。
 ようやく落ち着きを取り戻してきたが、それでもチラチラと視線は感じる。

「それにしても、なかなか盛況のようだな」

 周囲を見て、ゴルさんが言う。
 普段目にすることのないめいど服……その物珍しさに、どんどん人が増えているように思う。

 この分なら、お昼には結構忙しくなりそうだなぁ。
 午後の人は、頑張ってもらわないと。

「それで、お二人はなににする? まさか私の様子を見ただけで帰るなんてことはないでしょ?」

「そうだな……」

 お水を飲みつつ、考えて……ゴルさんは、隣を見た。

「リリアーナ、お前はなにか食べたいものはあるのか」

「え、わ、私ですか!?」

 せっかくだ、二人にもウチの料理を食べていってもらいたい。
 決定権を委ねられたリリアーナ先輩は、食い入るようにメニューを見つめている。

 それからしばらくして、ようやく決めたようだった。

「そ、それではこの、伸びるちゅるちゅるで」

「はいはーい。ゴルさんは?」

「俺はとりあえず飲み物を貰おうか」

 注文を取り、「かしこまりました」と返事をする。

「では、料理を作ってきますので、少々お待ちくださいねー」

「ご、ゴルドーラ様? 私だけなんて、その……」

「気にすることはない」

 二人のやり取りを聞きながら、私は背を向けて歩き出す。
 なんだか、周りからの視線がすごいな……めっちゃ見られている。

「なああの黒髪の子、何者だ?」

「ほら、あれだろ? 学園始まって以来の狂犬、エラン・フィールド」

「マジかよ。あんなかわいいのに中身はとんでもない狂人ってことか」

 ……なんか、私についていろいろ言われてるなあ。学園内でいろんな噂があるのは知っていたけど。
 学園の外にまでいろんな噂が広まっているとか、どうなってるんだよ。

 とはいえ、別に気にするような内容じゃない。言いたい人には言わせておけばいいのさ。

「え、エランちゃん! どど、どうだった!? 大丈夫だった!?」

「す、すごいねあんな、ゴルドーラ様に堂々と……」

 調理場に戻ると、ウルウちゃんとアメリアちゃんが話しかけて来た。
 私が堂々とゴルさんと話していたのが、よほど驚いたらしい。

 別に私、ゴルさんと同じ生徒会なんだからそんなに驚かなくても……
 ……あぁそっか。みんな、私が生徒会に入っていることは知ってても、私がゴルさんと話している所は見たことないのか。

「大丈夫なの!? こき使われたりしていない!?」

「なにか嫌なこととかない!?」

「お、おぉ……」

 ……それに、私が生徒会に入った経緯は、『決闘で負けたから』ということになっている。
 いや、それは間違いではないんだけど。ゴルさんとの決闘の賭けで、私が負けたらゴルさんのものになる、といった要求をされた。

 それで、決闘では私は負けた。だから、周りからは……私が生徒会で窮屈な思いをしているんじゃないかと思っている子も、いるかもしれないわけだ。
 実際は、ゴルさんから生徒会に入るように勧められて私も納得して入ったから、なにも問題はないんだけど。

「大丈夫だよ、みんないい人だし。だいたい、ひどいことされてたらゴルさんなんて呼べないよ」

「そ、それはそうかもしれないけど……エランちゃんだし……」

「うん……」

 おいおい、それはどういう意味だい?

「そ、それより……ご、ゴルドーラ様の、ちゅ、注文……」

「おっと、そうだった」

 ネクちゃんが間に入ってくれたおかげで、二人からの追及は止まる。
 さすがに、お客さん……それ見も、ゴルさんを待たせるわけにはいかない。

 ま、料理注文してくれたのはリリアーナ先輩だけなんだけどね。

「えぇと、伸びるちゅるちゅるだったよね」

 リリアーナ先輩が注文したものを復唱しつつ、調理に取り掛かる。
 まずは、お湯を沸騰させて……その間に麺を取り出して、それを沸騰したお湯の中に入れる。
 それから、麺がゆで上がるまでかき混ぜてと。

 そんで、柔らかくなった麺を上げて、お皿に盛り付ける。
 その上に、牛乳を固めたものをかけていく。ヨルはこれをチーズって言ってたっけな。

 とろとろのチーズを麺の上にかけて、味を付ける。このチーズはめっちゃ伸びるので、料理名に伸びる、と書いてあるわけだ。

「よっし、完成」

 うん、なかなかの出来栄えだ。
 そういえば私、紅茶は淹れたことあっても料理を作ったことはないな。まあそんなことする必要もないんだけど。

 ふふふ、私の料理の腕前に驚くといいよ。

「それじゃ、これを……」

 誰に持って行ってもらおう。そう聞こうとしたけど、みんなの視線が私を見ていた。
 あはは、やっぱり私に持って行けってことね。

 まったく、めいど服を着ていてよかったよ。まあ元々めいど服を着るつもりだったんだけど……

「お待たせしましたー」

「うむ」

 ゴルさんとリリアーナ先輩のところに戻ると、ゴルさんは先ほど注文飲み物を飲んでいた。
 いったい誰が運んできたのか……そう思っていたけど、どうやらフィルちゃんが持ってきてくれたよだ。

 あの子もある意味で、怖いもの知らずだからなぁ。

「ほぉ、なかなかおいしそうだ」

「でしょー。私が作ったんだよ」

 料理を見て、ゴルさんが食器に手を伸ばす。これはリリアーナ先輩が注文したものなのだけど。
 そんな私の気持ちとは裏腹に、ゴルさんは流れるような作業で、巻き上げた麺を持ち上げて……

「ほら、リリアーナ」

「へ……?」

 それを、リリアーナ先輩の口元に、持って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...