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第十章 魔導学園学園祭編
691話 めいど喫茶の王子様
しおりを挟むクレアちゃんの言葉は、私たちを大いに動揺させた。
ただ、私は多少なり落ち着くことはできたけど……問題は、他の三人だった。
「ごごご、ゴルドドド……様が!? なな、なにかの、まちぎちがいでは、なくて!?」
「でも、向こうすごい騒がしいし、本当に……」
ウルウちゃんとアメリアちゃんは、手を止めキョロキョロと周囲に目をやりながらわかりやすくパニックになっていた。
そりゃ、三年生で生徒会長で、第一王子が来たとなれば、その反応もわからないでもない。
慌てる二人、そして……
「あ、あばばばばびゃ……こ、これは夢だ、そうだ、夢に違いない……ぐゅ、ふふふふふ……」
ネクちゃんに至っては、完全に壊れてしまっている。
ゴルさんを直接見たわけでもないのに、来たと聞いただけでこの反応だ。なんかもはや怖いよ!
それに、伝えに来てくれたクレアちゃんもあわあわしている。
「クレアちゃん、ゴルさんには何度か会ったことあるんだし、ちょっとは慣れたんじゃない?」
「慣れないわよ!」
慣れないかぁ……
「そ、それに、ゴルドーラ様にこんな格好、見られちゃって……」
顔を赤くし、スカートをぎゅっとするクレアちゃん。恥ずかしさでゆでダコみたいになってしまっている。
でも、クレアちゃんには悪いけどその仕草は大変ごちそうさまです。
まあ、学内を歩くのも恥ずかしいって言ってためいど服姿を、憧れの生徒会長に見られたら恥ずかしいもんか。
憧れって言っても、それは本当に憧れだ。生徒のほぼ全員が尊敬の念を抱いている。
中には恋愛感情を持つ子もいるかもしれないけど……婚約者もいるし、遠くで見守る感じだ。
……私の友達に、婚約者がいる王子に好き好きオーラ出してる子はいるけど。
「ど、どうしよう、どうしたらいいの!? みんな、慌てちゃってそれどころじゃないわよ!」
クレアちゃんがここに来たのは、ゴルさんが来たことを伝えるためだけではなく室内がパニックになっているから……どうすればいいのか聞きに来たのだ。
そして、なんで私たちに……いや、私に聞きに来たのかというと……
「ごめんウルウちゃん、ネクちゃん、アメリアちゃん。ちょっと行ってくるから、ここ任せていい?」
「え? え、えぇ。それは、もちろん」
私はこの場を三人に任せ、クレアちゃんと一緒に室内に戻ることにする。
多分、このクラスの中でゴルさんの相手ができるのは……私くらいだ。
どれだけ上級の貴族でも、王族……しかも第一王子となれば緊張してうまく話せないだろう。
コーロランやコロニアちゃんは、クラスでうまくいってるようだけど、二人は同級生だから。
ゴルさん相手に萎縮してしまうのは、生徒会長で先輩でってところが大きいのだろう。
「じゃ、ちょっと行ってくるね」
「早く早く!」
クレアちゃんに急かされ、後をついていく。
ゴルさん登場はクラスメイトだけでなく、お客さんも驚いているのだろう。注文がピタリと止まっている。
部屋を移動し、めいどクラスメイトが待つ教室へと足を踏み入れる。
「! いたいた」
さてとゴルさんはどこにいる……と、探すまでもなかった。なぜなら、教室の中で一人、異彩を放つ人物がいたから。
この教室の中で、なんていうか存在感が違うんだよ。教室の入り口を入ったところで、立ち止まっていた。
クラスメイトはどうしたらいいかわからないのか、何人かで対応しつつも若干距離があるように見えた。
同じ学校の生徒なのに、こうも違うのか……さすがというかなんというか。
「ん、おぉエラン」
あ、ゴルさんのほうから気づいてくれた。クラスメイトたちは、どこかほっとした様子を見せている。
私じゃないとどうにかできないと思っていたのか……私自身もそうは思っていたけど、私はいったいみんなにどう見られているんだ?
とりあえず、みんなには目で合図する。ここは私に任せて、と。
すると、みんなこっちを気にする素振りを見せながらも、自分の仕事へと戻っていった。
「やっほゴルさん。まさか来てくれるなんて」
「せっかくだからな。あれほど楽しみにしていたお前が、クラスでどんな働きを見せているのか、見に来た」
ゴルさんたちを席に案内しつつ、会話していく。
クラスメイトはもう慣れただろうけど、私たちの関係を知らないお客さんからは「誰あれ?」「ご、ゴル、さん?」「不敬すぎない?」などの声がちらほら聞こえた。
「しかし、めいど服……なかなか似合っているではないか」
「ふふん、ありがとう。でもゴルさんったら、デート中に他の女の子を口説いちゃだめですよ」
「! でで、デート!?」
案内した席へと座るゴルさんと……リリアーナ先輩。
教室のみんなが動揺していたのは、ゴルさんはもちろんだけどその隣に生徒会副会長のリリアーナ先輩がいたからだ。
私はよく知らないけど、リリアーナ先輩の家もかなり大きいんだろう。すごい位の高い貴族だ。
そんな、話しかけにくい人間が二人も現れたもんだから、みんな余計に萎縮していたんだ。
「あれ、違うの?」
「いえ、それは、その……」
「なにを戸惑っているリリアーナ。俺はデートのつもりだったのだが」
「!!?」
顔を赤くしてうろたえているリリアーナ先輩がかわいい、と思っていたけど……ゴルさんのとんでもない追撃に、もうノックアウト寸前だ。
この人、ホント思ったことまっすぐ言うよな……
この前のプロポーズから、いっそうにまっすぐになったような気がする。
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