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第十章 魔導学園学園祭編
690話 賑やかなめいど喫茶
しおりを挟むまず最初のお客さんから注文を取ったフィルちゃんが、タタタッと駆け足で料理係のところまでやってくる。
それから、手に持った紙をじぃっと見ながら、メモしてきた注文を口に出す。
あぁ、偉いねぇフィルちゃん。こんな小さいのに注文取って、それをメモして、伝えに来るなんて。
まずその年で字が書けるんだもんな。私、学園に入学するまで字が書けませんでしたもんなぁ。
「えっと……ごちゅーもんは、天使の衣だよ!」
「はいはーい」
フィルちゃんから注文を受けた私は、早速料理を開始する。
ふふふ、私の料理の腕前、とくと見るといいよ!
ちなみに、天使の衣というのはこのめいど喫茶だけの呼び方で、既存料理に適当に別名を付けただけだ。
他にもいろいろと料理には名前が付けられているが、命名したのはネク・ラテンちゃんだ。
曰く、名前を付けるなら任せてくれ、とのことだった。
「よい、しょ」
私は、熱したフライパンの上に卵を落としていく。軽くかき混ぜ、それが固まりきってしまわないうちに火を止める。
そして用意するのは、ほくほくのお米だ。これをお皿に乗せて、その上に卵を被せるように乗せる。
最後に、ケチャップで味付けをするのだけど……これは、私の役目じゃない。
「じゃーん、完成! 天使の衣!」
「て、天使の衣……わ、我ながらい、いい名前をつけられた……ぐゅふふ!」
とりあえずこれで完成だ。天使の衣と名付けられた料理。これをクレアちゃんに渡し、運んでもらう。
あれ、私も何度も作ってるけど美味しいんだよなぁ。
……そういえば、以前ヨルが食堂で米を見て「うぉーっ、米だ! 米がある! こんなファンタジー世界で米が食べられるなんて!」と一人騒いでいたっけなぁ。うるさかった。
「ご主人様、おまたせしました」
チラ、と接客係クレアちゃんの様子を見る。
さすがは宿屋の看板娘……なんだかんだ言ってたけど、練習のときと同じように落ち着いている。
他にも少しだけど、お客さんが入ってきている。こりゃ、私たちも忙しくなるぞ。
「それでは、今からこれを使って文字を書かせてもらいますね。お客様のお好きな文字を言っていただいて……」
あー、最後まで見ていたい! クレアちゃんがお客さんになんて文字を書くのか、見たい!
でもここからじゃそこまでは見えないし、どんどん料理の注文も入っている。
練習の時も、私には恥ずかしがってやってくれなかったもんなぁ。見たかったよぉ。
「ネクちゃん、私こっち作るから、そっち任せていい?」
「も、問題、ない……ぐゅふふ!」
みんなもそれぞれ頑張ってるし、私もやりますかぁ。
注文を受けて、料理に取り掛かる。時間が空いた時に作り置きしておくのも手だけど、やっぱり作りたてをご馳走したいもんね。
四人がそれぞれ、料理に向かい合っている。ただ、その中でも担当を分けている。
料理にも大きく分けて二種類ある。デザートか、そうでないかだ。
私は、料理は得意だけど……デザートはあんまり、得意じゃない。師匠は甘いものは苦手だったから、師匠のためにデザートを作ったことがない。
自分のためにってのも、あんまりなかったし。
なので四人のうち、デザート以外は私とウルウ・マントンちゃん。デザートはネクちゃんとアメリア・ドートドちゃんだ。
「今はデザートの注文ないから、こっちも手伝ってもらっていい?」
「わかりました!」
もちろん、その担当しかしない、なんてことはない。
時間が空いたりしたら、手伝ったり手伝ってもらったり。暇な時間ができたら、極力手助けに入るようにしている。
私はデザートは作るの苦手だけど、飾り付けくらいならできる。そういう意味でも、手伝えることはあるのだ。
「はい、お待たせ!」
「はい!」
人はどんどん増えてきているような気がするけど、わりと回せている。
私は料理を作るのは得意だけど、作るスピードも早い自信はあるからねぇ。じゃんじゃんやっちゃりますよ。
さあて、このままどんどん……
「キャー!」
「!?」
調子が上がってきた……そう感じていると、突然教室から悲鳴が。な、なんだ?
こんな時に、悲鳴……でも、なんだか違和感のある悲鳴だった。
悲鳴は、悲鳴なんだけど……なんだか、黄色いものが混じっているような……
「エランちゃん!」
そこへ、クレアちゃんが入ってきた。
「どうしたのクレアちゃん、なにがあったの?」
「ご、ごごごっ、ごごごご……」
なにかを伝えようと必死なクレアちゃんだけど、残念なことになにもわからない。
とりあえず落ち着いてほしい。
クレアちゃんも、なんとか落ち着こうとしているのか肩を激しく上下させ、深呼吸をしている。
そんなやり方じゃかえって落ち着けないとも思うけど。
ウルウちゃんがクレアちゃんに水を渡し、それをクレアちゃんが飲み干したことで……ようやく、落ち着いたようだ。
「それでクレアちゃん、そんなに慌てて、いったいどうし……」
「き、来たのよ……なんでかわからないけど、来たのよ!」
多少落ち着いてもやっぱり慌てたまま、クレアちゃんは教室の入り口を指差して……
「ごご、ゴルドーラ様が、いらっしゃったのよ!」
……なんてことを、言い放った。
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