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第十章 魔導学園学園祭編
685話 見事な采配に震えるといいよ
しおりを挟む「お疲れ様でーす」
「おつか……なんだお前か」
放課後、生徒会室に赴く。
ガラガラッと勢いよく扉を開け、挨拶をすると……返ってきたのは明るい声から一辺、残念そうな声に変った。
そこにいたのは、シルフィドーラ先輩だった。
「ありゃ、先輩一人?」
「そうだ。先輩方は忙しいんだ」
どうやら、室内にいたのはシルフィ先輩一人だけ。ゴルさんたち三年生はいない、か。
まあ、生徒会での仕事は早いうちにまとめていたから、他にもやることがあるのだろう。
それはそれとして……シルフィ先輩と二人かぁ、気まずいなぁ。
「あ、紅茶いります?」
「いらん」
むう、取り付く島もない。
とりあえず、荷物置いて、席について……自分のとこにまとめてある資料でも読んでおくか。
学年ごとに、注意事項も変わってくる。私は一年生だ。
シルフィ先輩も、生徒会で唯一の二年生だということを考えると……四人もいる三年生のゴルさんたちは、それだけ負担を分けられるということだよな。
その分、三年生なだけあって私たちより仕事量も多そうだけど。
「……」
「……」
お互い無言の空間……やっぱり気まずいなぁ。
これがタメリア先輩なら、いつもフランくん話しかけてくれるし。メメメリ先輩っやリリアーナ先輩はなにかと気にかけ話しかけてくれる。
ゴルさんの場合も……まあ、若干の気まずさはあるけど。
それでも、決闘を交えただけあってわりと気安く話すことが出来る。
……その気安くってのが、シルフィ先輩的には気に入らないんだろうけどなぁ。
「あのぉ、先輩?」
「なんだ」
と、なんとなく話しかけてしまった。この空気に耐えられなくて。
でも、なんと話題を出そう。私のことをよく思っていない先輩に、なんとか興味を持ってもらえるような話。
私と先輩に共通するような話がいいよねぇ。うーん、となるとぉ……
「先輩って、リーメイのこと好きなの?」
「!? ごほ、がほ!」
私と先輩が共通して知っている人物……それも、生徒会のメンバーだと変わり映えしない話なので、他の人物。
そう考えた時、浮かんだのはリーメイの顔だった。
魔大陸から帰ってきて、この国が変なことになっている時……先輩と協力して事に当たった時、リーメイと仲良くなっていた。はずだ。
「ぐふっ、はぁ……な、なぜいきなり、そんなことを聞く……」
ただ聞いただけなのに、激しく咳き込んでいる。ここまで動揺する先輩も珍しい。
なぜって言われてもなぁ……
「二人とも知ってる人の話したら、先輩との距離が縮まるかなと思って」
「……そうか」
「で、どうなの? 好きなの?」
「! だ、からといって、なぜ好きだのと言った話になるんだ!」
ここからだと、先輩の顔は見えないけど……なんか耳が赤いような、気がする。
リーメイと話している時、先輩の様子はおかしかったし……あれは、ダルマスを見ている時のキリアちゃんと似たようなものを感じた。
「こういう話だめ?」
「脈略がなさすぎると言っているんだ、まったく。
……ちなみに彼女には、交際をしている相手はいるのか?」
おおう、なんだかんだ言っといて興味津々じゃないですかい、兄ちゃん。
リーメイにそういう相手が居るのか……本人に聞いたことはないけど、多分いないだろう。
いたら住んでいたところからここまで着いてこないだろうし……そもそも、ニンギョなのに泳げないという理由で、他のニンギョとは距離を置かれていたんだ。
「彼氏どころか、もしかしたら友達もいなかったのかもしれない」
「そ、そうなのか……それは、どういう……」
うーん……さすがに、本人のあれこれを勝手に話すわけにもいかないよなぁ。
「そこはまあ、いろいろとね。
だから、先輩も友達になってくれたらリーメイ、喜ぶと思うよ。友達から初めてみようよ」
「友達か……そ、そうだな、それも悪く……ん? 友達から?」
リーメイも、この国にはいなかったニンギョで周囲からの反応が心配だったけど……クラスでは、受け入れられているみたいだ。
それに、誰にでも優しく積極的に絡みにいく性格がわりと人の注目を集めている。
それに美形だし、下半身がお魚であることを除いても注目の的だ。
「うかうかしてたら、他の子に取られちゃうかもよー?」
「な、なにを言っているんだ。だいたい、俺は別に……」
うわぁ、先輩ってばからかいがいがあるなぁ。
誰と付き合うか、はリーメイ本人が決めることだけど……純粋に友達を増やすと言うことなら、私からも陰ながらアシストしたいね。
となると、リーメイと先輩の交流を増やすことが大事だけど、学年が違う相手と絡む機会なんてあんまりないよなぁ……
「うーん……」
……そういえば。学園祭の生徒会の役割に関して、私たちだけじゃ人手が足りないから他から引っ張ってくる、みたいな話をしていたなぁ。
学園祭で生徒会の手伝い、か……ほほぉ、なるほど。
「おい、なにをにやけている」
「え? 別にぃ、そんな顔してないですよぉ?」
「……嫌な予感しかしないな」
私が密かに決めたことに、先輩はなぜかげんなりとした表情を浮かべている。
ふふん、そんな顔してるのも今の内だよ。先輩、私の見事な采配に震えるといいよ!
その後、ゴルさんたちもやってきて軽いミーティング。
それぞれの準備はばっちりとなったところで、明日に備えて早めに解散した。
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