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第十章 魔導学園学園祭編
682話 人気者
しおりを挟む生徒会メンバーとして、同じ学年のクラスを回っていた。
すると、一つの教室から騒がしい怒鳴り声が。喧嘩かなぁ、やだなぁ。
そんなことを思いながらも室内を覗くと、そこには睨み合う二人の男と、二人の間に割って入るナタリアちゃんがいた。
「なんだよカルメンタール、止めるな!」
「いやこれは止めるでしょ。意見のぶつかり合いならいいけど、喧嘩はだめだよ」
興奮する男に、ナタリアちゃんはやんわりと話しかけている。
原因はわからないけど、二人が言い争っているのは意見のぶつかり合いか。
ただ話し合うだけならいいけど、それが喧嘩にまで発展するのはよくないよな。
「けどこいつがよぉ……」
「俺の考えに文句があんのか!? ここをこうした方が確実だろうが!」
「どこがだ! 目ん玉腐ってんのか!」
乱暴な言い争いだけど、これも学園祭の意見のぶつけ合いの延長線なんだよなぁ……
お祭りの準備なのにこんな荒っぽくなるの?
こんなんじゃ他のクラスメイトも……あれ、やたらと少ないな。
「落ち着いて二人とも。買い出しに行った他のみんなももうすぐ帰ってくるし、喧嘩なんてしてたらびっくりするよ」
どうやら、ここにいないクラスメイトは買い出しに行っているらしい。
そうだよな……いくら荒々しい性格でも、このクラスにはコロニアちゃんがいる。コロニアちゃんの前で喧嘩をしようとは思わないだろう。
女の子があんまりいないのも、騒ぎが起こった理由の一つかな。
うーん、私が止めに行くべき? 行くべきかなぁ?
「けどよ……」
「なら、二人の意見をまとめて……ここをこうして、こうしたらどうかな?」
「……お、おぉ。ま、これなら……なぁ」
「あぁ……まあ、いいんじゃねえか?」
うんうんと私が考えている間に、いつの間にか騒ぎは解決しているようだった。
私、ただ見ているだけだったな……いいのかこれで、生徒会。
まあでも、自分のクラスのことを自分で解決できるならそれが一番だよな、うん。
「じゃ、みんなが帰ってきたらボクからみんなに話してみるよ。それで賛同が取れたら、この方向で進めようよ」
パン、と手を叩いて、ナタリアちゃんがその場を締める。
その鮮やかなやり方に、私は目を奪われていた。荒れている男の子二人相手に臆することなく、しかも二人の意見を二人が納得する形でまとめてみせた。
それに、ナタリアちゃんは声が通るから、誰かが声を遮るなんてことはしない。みんな、聞き入ってしまうのだ。
やるじゃないかナタリアちゃん。友達として鼻が高いよ。
「なあ、カルメンタールさんって……」
「あぁ、やっぱいいよな」
「あの凛とした態度たまんねえぜ」
「お」
近くの男の子たちが、ナタリアちゃんに聞こえないようにナタリアちゃんはのことを話している。
でもね、私には聞こえているのだよふふふ。
ふむ……どうやらクラスメイトの男の子の中には、ナタリアちゃんのことを好意的に見ている子も結構いるようだ。
顔やスタイルはもちろんいいし、それに加えて性格も、今見た通りだ。
「じゃ、仲直りの握手」
おまけに、今二人の男の子の手を取って握手させている。
あんな風に、自然と手を触れているのだ。ナタリアちゃんの手に触ったことはあるけど、そりゃもーあったかくて柔らかいよ。
そんな手にあっさりと触れられたら、年頃の男の子ならそりゃ意識しちゃうさ。ほら二人の男の子顔赤くなってるもん。
ナタリアちゃんは気づいてないようだけど……そして他の男の子も自分の手を見たりしている。
……まさか、あんな風にクラスの男の子の手に触れたりと、スキンシップ多めなんじゃないだろうか?
罪な女め。
「カルメンタールさん、やっぱり素敵だわ」
「本当ね」
あっちではあっちで、女の子に囁かれている。
ふむむ……ナタリアちゃんは中性的な顔立ちをしているから、女の子にも人気があるのもわからなくはない。
それに、困ってる子とか率先して助けているみたいだし。性格もかっこいいし。
そんな姿に憧れを持つ人は少なくないってことか。
「うまくやってるみたいでなにより」
思えば、こうして他のクラスの日常を見る瞬間ってあんまりなかった気がする。
休憩時間は自分のクラスの友達と話したり、他のクラスに遊びに行っても目的は友達だ。
こうやって、教室全体を見て、友達がクラスメイトとどのように過ごしているのか……どう思われているのか、知らなかったな。
「そそそ」
ナタリアちゃんに挨拶していってもいいんだけど……なんとなく私は声をかけるのをやめ、音を殺して移動する。
その後も、他のクラスを確認。みんなうまくやっているみたいだ。
私が回らなくても、うまく立ち回ってるんじゃないかな……と思うくらいだ。
教室の中で、あるいは廊下に出て……準備をしているみんな。飾り付けは教室の中だけじゃなく、廊下でもやるからだ。
お祭りの雰囲気ってやつが、感じられてきた。
「ここに、いろんな人たちが来るんだよね」
学園祭当日は、学園関係者以外も来る。私が知っている人も、きっと来るだろう。
タリアさんや、冒険者のみんな。普段学園にいない人たちがいる時間っていうのは、なんだか特別な感じがする。
あとは、ひょっとしたら師匠も来てくれないかな、なんて思ったりするけど……魔導大会にも来なかったし、来ないだろうなぁ。
ちょーっと、久しぶりに会いたい気持ちがあったりなかったり。
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