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第十章 魔導学園学園祭編
681話 四人の転入生
しおりを挟むそれぞれのクラスに足を運んで、進捗状況を確認。
みんな、楽しそうに準備していた。普段は貴族ちてしっかりあろうとしていても、中身は子供なのだ。
こうしてみんなでわいわいやって、一つのことに集中するのは楽しいのだ。
「……お?」
そして、廊下を歩いていた時……前から、両手に段ボールを抱えて歩いてくる女の子がいた。
その子を見て、私は足を止めた。だって、見覚えがあるから。
うーん、声をかけるべきか……でも、一生懸命段ボール運んでいるみたいだしなぁ……
「よい、しょ……わっ、とと」
「って、危ない!」
どうしようかと悩んでいると、私の横を通り過ぎようとしたその子がバランスを崩す。
危うく転びそうになると感じた私は、とっさにその子を支える。
手からは段ボールが落ちてしまったけど、その子は無事だ。
「ふぅ……大丈夫、レーレちゃん?」
「おお、倒れてない……ありがとう!
えっと……」
その子は、レーレちゃんだった。レーレ・ドラヴァ・ヲ―ム。
レーレちゃんは私に支えられたまま、きょとんとしている。……もしかして、名前を覚えられてない?
その瞳と睨み合うこと数秒……レーレちゃんは「あっ」と声を漏らす。
「ノマおねえちゃんのお友達の!」
「エランでーす」
思い出してくれたようで、ほっと一安心。
でも、名前まで思いだしてくれたかはわからない。
この子は、ノマちゃんがお城で働くことになった際に、ノマちゃんを雇った張本人だ。
ノマちゃんにあの過激なめいど服を着せたのも、彼女の趣味だ。
そんなレーレちゃんは、あのあと……なんやかんやあって、学園に転入することになったと、ノマちゃんは言っていたけど。
「四人目の転入生は、やっぱりレーレちゃんだったわけだ」
「?」
この魔導学園には、フィルちゃん、ラッヘ、リーメイがそれぞれ別のクラスに転入してきた。
その話をしていた時に、実はもう一人があるのだ、という話をしていた。それは、レーレちゃんだったわけだ。
……ノマちゃんったら、その話になった時に教えてくれてたらよかったのに。
「レーレちゃんは、ルリーちゃんのクラスなんだね」
「ルリー……」
まだ名前を覚えていないのか、うーんと考える仕草を見せている。
「えっとね、髪が銀っ……」
……ルリーちゃんの特徴を伝えようとして、私は思いとどまった。
いやいや、ルリーちゃんの特徴伝えようと思ったら……まんまダークエルフじゃないか。それを話すのはどうなんだ。
そもそも、ルリーちゃんは認識阻害の魔導具で顔を隠しているんだから、特徴を伝えてもわからないだろう。
「……同じクラスに、私と同じ黒髪の男の子いるぅ?」
「いる!」
私は泣く泣く、別の人間の特徴を伝えることにする。それも、聞けば一発でわかる特徴。
この学園……どころか国に二人しかいないだろう、黒髪黒目の人間。私と、そしてもう一人。
ルリーちゃんが同じクラスになってしまった、あいつ……ヨルの存在。ヨルが一緒のクラスなら、ルリーちゃんとも同じだ。
「なんでそんなに歯を食いしばっているの?」
「あんまりあいつの話はしたくないから……」
「ふーん?」
ともかく、こうしてレーレちゃんにも会えた。
そのレーレちゃんは、荷物を運んでいたのか?
「って、この段ボール空っぽ?」
「うん。空になったのを片づけてたの」
「そっか。……もしかして、押し付けられたりした?」
「ううん、自分からやりたいって言ったの」
ふむむ……いらなくなったものを片づけているからって、押し付けられたわけじゃないのか。
いかんな、つい悪い方に考えちゃいそうになる。レーレちゃんは小さいから心配って言うのもあるかな。
レーレちゃんと過ごした時間は長くはない。だからといって、放っておくことなんてできない。
小さい女の子は、正義だからね。
「私、手伝おうか?」
「ありがとう、でも大丈夫、うん、しょ」
落ちてしまった段ボールを拾いながら、レーレちゃんは大丈夫だと言う。
空箱になったら折りたためばいいのにと思わなくもないけど、まあ本人の自由にさせておいてあげよう。
「じゃーねー」
「うん、頑張ってー」
とりあえず、元気そうで一安心だ。
レーレちゃんを見送ってから、私は見回りを再開。
どのクラスも楽しそうに作業しているね、よきかなよきか……
「んだとてめえ! もっぺん言ってみろ!」
「てめえこそどういうつもりだこらぁ!」
……楽しそう、だと思ったんだけどなぁ。
通りがかったクラスの中から、叫び声……というか怒号が聞こえてきた。やだなぁ、物騒だなぁ。
でも、このまま無視することもできないわけで。仕方なく、私は教室の入り口から中を覗く。
「やんのかこらぁ!」
「上等だおらぁ!」
……そこには、教室の中心で互いの胸ぐらをつかみ合う二人の男の子がいた。
二人の頭はまるでパンのように長く、荒々しい空気に圧倒されて周りの子も動揺している。
うーん、どこもかしこも仲良く、ってわけにはいかないか。
にしても、こういった荒事はよくないよなぁ。
見てしまったからには、止めに入った方が……
「ちょっと二人とも、落ち着いて」
そんな中、二人を止める声があった。それは、ナタリアちゃんのもの。
そっか、このクラスナタリアちゃんのクラスか。
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