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第十章 魔導学園学園祭編
680話 準備は進む
しおりを挟むなんやかんやで、学園祭の準備は進んでいく。
クラスのみんな……いや学園全体で一丸となって。普段なら授業中の時間も、準備の時間に振り当てられることが増えた。
さて、ウチのクラスのめいど喫茶について。
貴族の子ばかりだから、接客はしたことがない……そういう子は多いけど、貴族の子だけあって言葉遣いはすでにできている。
そのため、クレアちゃん主体となって接客の心得的なものを教えていくことに。
「いや、なんで私!?」
当然、クレアちゃんは驚いていた。
「だってクレアちゃん、接客に関してきっとこの中じゃ一番の経験者だし」
「いや、接客っても宿屋、だし……お客さんに料理とか運ぶことは、そりゃ、あったけど……いや、私だってそんな、丁寧にやってたわけじゃ……ない、し……」
「でも経験値は間違いなくあるでしょ」
「うぐぐ……でも、私なんかがぁ……」
結構渋るクレアちゃん。
どうやら、下級貴族である自分が人にものを教えるなんておこがましい、というふうに思っているらしい。
確かに、クレアちゃんより立場が上の子は多い。上級貴族に中級貴族と、貴族社会にも階級ってものがある。
でも、長いとは言えないけどこのクラスで過ごしてきて、そんなことを気にするような子はここにはいないよ。
「大丈夫だって、ここには立場の違いで見下したりする子はいないから。もしそんな子がいたら、私がメッってしちゃうよ」
「……わかったわよぉ」
クレアちゃんを元気づけるためにできる限りの笑顔を浮かべてみたら、なぜかクラスのみんなが肩を震わせていた。
そんなわけで、クレアちゃんが接客係のリーダーになった。
あんなことを言っていたけど、やるからには適当にやるつもりはないのか、真剣に取り組んでいた。
本人は丁寧に接客していなかったと言うけど……それと、丁寧な接客を知らないかは別の話だ。
間近にタリアさんという接客のプロがいるんだし、見てそれらは身に沁みているはずだ。
「カリーナちゃんたちのほうはどう?」
「えぇ、順調ですわ」
カリーナちゃんがリーダーの衣装係の方へ足を向ける。
めいど服や男子の服を作るため、数人集まって作業している。
順調という言葉通り、すでに何着かの服は完成しているようだ。すごい。
「わー、かわいい!」
出来上がっためいど服を見て、私はそんな感想を抱いた。
これはお世辞なんかじゃない。本心だ。こんなかわいい服を作れるなんて、素直に尊敬するよ!
カリーナちゃんは鮮やかな手つきで、作業を進めている。他の子も、カリーナちゃんほどではないけど上手だ。
少なくとも私より断然上手い。
「えぇと、何着ほど作ればいいんでしたっけ」
「うーんと、完全に裏方……料理担当の人は制服でいいだろうから……」
それぞれ担当する人数を思い浮かべながら、指折り数えていく。
基本的には、接客は接客、料理は料理で担当は変わらない。
他にも、担当は割り振るつもりだ。料理担当が数人で残り全部接客に回してたら、教室の中パンパンになっちゃう。
それに、いざというとき動ける人もいないとね。
「だいたいこれくらいかなー」
「わかりました。……その中に、エランさんは入っているんですよね?」
「もちろん!」
私は、料理も接客も両方やってみたい。というか、普通にめいど服を着てみたい。
一日の中で料理と接客を交互にやるか、学園祭は数日に分けてあるから料理担当の日と接客担当の日に分けるか……
それはまた考えるとしよう。
「飾りつけの方も、順調みたいですね」
「だねー」
衣装係、料理係……そして、接客係。時間もないので、接客係はクレアちゃんに心得を教えてもらいつつ飾りつけもお願いする形になった。
ちなみに、接客については万が一誰がすることになってもいいように、後々全員に伝えるつもりだ。
「なんかみんなに任せきりで、悪いなぁ」
「仕方ありません。エランさんはクラス代表だから全体の指揮をする立場に加え、生徒会の役割もあるのですから」
そう、クラスの準備は、ほとんどみんなに任せることになった。これは私の立場上仕方ないとは言え。
準備なんて魔導で済ませればいいと思うかもしれないけど……こういうのは、手作業でやるからいいんだ。
みんなで団結して、一つのことを成そうとしている。私、今までこういう経験なかったから、準備の時間でも嬉しい。
「じゃあ、私他のクラスも回ってくるね。なにかあったら、ダルマスにお願い」
「はい」
みんなに一言告げてから、教室を出る。私がいない間のまとめ役は、ダルマスに任せておいた。
貴族の中でも一目置かれ、カリスマ性のある彼ならばみんなをまとめることもできるだろう。
それに、前まではツンツンしてて話しかけにくかったのが……最近は、丸くなったのかみんな話しかけやすくなったみたいだ。
平民の子にも、以前は横柄な態度を取っていたけど、今じゃ分け隔てなく接している。
「私のクラスにいる……いや、いたなぁ。立場で見下してた子」
今や変わったダルマスのことを思い、くくっと笑いが漏れてくるのを感じながら、私は他の教室にも足を運んでいった。
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