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第十章 魔導学園学園祭編

675話 めいど喫茶

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 学園祭の出し物。クラスのみんながそれぞれ声を上げる中で、元気に手を上げる声があった。
 フィルちゃんだ。

「あのね、私はママのがいいと思う!」

「喫茶店?」

 どうやらフィルちゃんは、自分がやりたいものというよりも私の意見を後押しする形だったみたいだ。
 いや、元々フィルちゃんがやりたいものを、私が先に言っちゃったのかもしれないけどさ。

 だけど、どうやら私が言ったものだから、という以外にもやりたい理由があるらしい。

「あのね、私、めいど喫茶っていうのやりたい!」

「……冥土?」

「なにそれ、死ぬの?」

 元気で明るい声で、フィルちゃんは言う……めいど喫茶というものをやりたいのだ、と。
 だけど、その言葉にピンとこないみんなは、首を傾げている。

 めいど……冥土? 冥土の土産って言うもんね。

「フィルちゃん、その……めいど、ってなんなの?」

 誰もが疑問に思っていることを、クレアちゃんが聞く。
 というか、みんな知らないんだ……

「うーんとね、こう、ひらひらしたお洋服着て、かわいいの!」

 それは、なんとも抽象的な言葉だった。
 かわいいひらひらしたお洋服……要は制服を着てるってことだよな。

「かわいいってことは、女子がやるものなのか?」

「そうだよ! いらっしゃいませって言ったりするの!」

 フィルちゃんの言葉を頼りに、なんとか当たりをつけていく。
 喫茶店でめいど……みんな、特に異論はなさそうだけど。

 だけど、ここでポツポツと声が上がる。

「面白そうだけど……接客、かぁ」

 それは、一人の貴族の女の子の声。
 貴族として、人に尽くすという接客には思うところがあるのだろうか。

 確かに貴族って人に尽くすより尽くされるイメージではあるけど……

「私そういうことしたことないから、不安ですわ」

 違った。ただやったことがないから不安ってだけだった。
 みんな、わりと乗り気みたいだ?

 それもそうか……魔導学園じゃ、貴族と平民が入り乱れてる。中には平民を見下す貴族もいるかもしれないけど、そのほとんどが平等に接しようとしている。
 平民に接客するのが嫌だとか、そういうことを考えている子はいないのだ。

「でもせっかくの学園祭ですし、普段とは違うことをやってみたいですね」

「たしかにね」

「……みんな話が喫茶店の方向で進んでいるけど、異議はなしってことかな」

「異議なーし」

 みんな、せっかくの学園祭だから非日常を楽しみたいと思っているんだな。
 あんな事件があったばかりだし、なおさらにね。

 そんなわけで、私たちのクラスはめいど喫茶をやることになった。

「それで、その……めいど、服、ってどんなのかしら」

「うーんとね……白いのと黒いので、ひらひらなの!」

 またも抽象的なフィルちゃんの説明。
 みんなは困ったように顔を見合わせている……

「うーん、どうしようか。どんな制服かわからない以上、作りようがないというか……」

「……こんなの、じゃない?」

「わ、それそれ!」

 みんながそれぞれに悩む中、私はいつの間にか黒板になにかを描き始めていた。
 そしてそのなにかを描き終えると、みんなの方へ振り向いた。

 私が描いたものを見て、みんなぽかんとしていた。

「えっと……エランちゃん、めいど服がどんなものか知ってたの?」

「知ってた、というか……うーん……」

 そう、私が書いたのはめいど服であろう服。
 黒板に描いたから色はみんなには伝わってないだろうけど、それでも形がどんなものかはわかってくれたはずだ。

 ……なんか、体が自然と動いて、この絵を描いたんだよなぁ。

「うわぁ、本当にひらひらしてる……」

「というか、スカート短くない?」

「制服もこんなもんでしょう?」

「あと、服とは別に……帽子、みたいなものあるけど」

 ざわざわと声が大きくなっていく。そのほとんどが、女の子のものだ。
 ここまで来れば予想はつくだろう。めいど服というものは、男女共にではなく女の子のみが着るものだということを。

 実際に着る女の子たちはそれぞれ話しだし、男の子たちは……

「な、なかなかいいんじゃないか?」

「あぁ、なかなかな」

 と、そんな風に興味なさげに言っているけど、実際のところ鼻の下が伸びている。
 見たいんだ、女の子たちがめいど服を着ているところ。

 まあ、自分が描いといてなんだけど、かわいい制服だと思う。
 ……今更だけど、学園祭で喫茶店をやるとなったら内装とは別に料理や制服も準備しないといけないの? 時間足りる?

 そんな思いを込めて、先生を見た。

「ま、できるというなら任せるだけさ」

 とのありがたいお言葉を受けた。
 元々生徒の自主性を重んじる学園だ。生徒主体の学園祭ともなれば、それこそ先生が口を出すことは少ないだろう。

 あんまりに非合法なものは止められるだろうけど。

「それにしても、こんなめいど服なんて初めて見たわね」

 じっと、それをクレアちゃんが見る。
 宿屋の娘として、同じ業界には詳しいのかもしれない。それを踏まえても、見たことのない制服だと。

 この国で見たことがないのなら、他の国でということになるけど……

「エランちゃん、この国以外行ったことがないって言ってたわよね」

「え? うん」

 それがこの国以外の制服だとして。なんで私がそれを知っているのか。
 私にもわからないことだった。
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