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第十章 魔導学園学園祭編
669話 それぞれの馴れ初め
しおりを挟む「いやあ、まっさかゴルの宣言には驚いたねー。あそこで公開プロポーズとはね」
「さすがに予想外じゃったのう」
校舎から外に出て、私たちは歩いていた。
生徒会室にはゴルさんとリリアーナ先輩を残して、残るメンバーは帰宅途中だ。
前を歩くタメリア先輩とメメメリ先輩は、先ほどの出来事を思い出して話している。
驚いた、とは言っているけど、二人とも楽しそうだ。
「二人は、全然知らなかったんですか?」
「あぁ。リリアーナがゴルを好きだったのはそりゃ気づいてたけど、ゴルはいまいち読めなかったからなー」
「第一王子である以上、そう遠くないうちに……とは思っていたが。まさかこのタイミングとはの」
ははー、付き合いの長い二人でもゴルさんの真意は読めないんだ。こりゃ、リリアーナ先輩も苦労しそうだな。
今回の婚姻の件は、まだ正式に発表するわけではない。そもそも卒業と同時に王位を継ぐこともまだ発表してないのだ。
それは、然るべきときにゴルさん自身の言葉でみんなに説明するとのことだ。
「そういえば二人……いやリリアーナ先輩も含めた三人って、ゴルさんとはいつ知り合ったの?」
ふと、気になった。そういえば、ゴルさんたちの関係について、なにも知らないのだ。
仲の良い関係だ、ってことくらいはわかるけど、それだけだ。いつからの付き合いだとか、そういうのはわからない。
それを受けて、タメリア先輩が振り返る。
「んー、俺もメメも魔導学園に入ってからだよ。なあ?」
「あぁ。ゴルっちとの付き合いは二年ほど。むしろわしらが幼馴染ってやつじゃな」
へぇ……そうだったのか。それは少し驚きだな。
ゴル、とかゴルっち、とか親しげに呼んでるから、てっきりもっと小さい頃から付き合いがあるのかと。
え、私だってゴルさんって呼んでるだろうって? そうだね。
「そもそも、相手は王族なんだし、普通に暮らしてたら関わることすらないって。学園に入ったからこそ、接点もできたわけ」
あぁ、そうだよなぁ。ゴルさんは王族、しかも第一王子なんだから、普通は関わることのない相手か。
そういう意味でも、魔導学園は貴重な出会いの場だ。
「リリっちは、婚約者なだけあって幼い頃からの関係らしいがの。あまり深く聞いたことはない」
リリアーナ先輩は、婚約者。婚約者なら、当然小さい頃から知り合っている、か。
それにしても、第一王子と婚約させられるなんて、リリアーナ先輩ってよっぽどすごい人なのでは?
「皆さんの馴れ初め、俺も詳しく聞きたいですね」
そこへ興味津々というように割り込んできたのは、シルフィ先輩。
ゴルさん信者だけど、先輩たちのことも普通に尊敬しているし、気になることはあるのだろう。
「馴れ初めのぅ……そんなにたいした話でのないぞ」
「そうそう。入学して、新入生代表のスピーチにゴルっちが選ばれて。第一王子だし顔と名前くらいは知ってたけど、まあ関わることはないと思ってたんだよ」
「したら、同じクラスになってのぅ。ゴルっちはああいう性格じゃし、クラス代表にもなったことでビシバシとクラスメイトをまとめあげていったんじゃ」
二人は懐かしそうに、語る。どうやら三人は一年生のとき、同じクラスだったようだ。
そこでの光景は、目に浮かぶようだ。クラス代表になったゴルさんかぁ。
すんごい生真面目そう。
「それでも、一クラスメイトとしての関わりしかないと思ってたんだけど……」
「タメっちの不真面目な態度に、ゴルっちが物申してな。もっと魔導学園の生徒として自覚を持てと」
「はははー、いやぁあんときはうざいのに絡まれたと思ったなぁ」
う、うざいのって……わりと最初の印象最悪だったんだな。
まあタメリア先輩は不真面目……というかすごいフランクだし、ゴルさんと合わなさそうっていうのはなんかわかる。
「それで、授業の一環としてゴルっちがタメっちに決闘を申し込んでの。魔導のなんたるかを教えてやる、と言って」
……お? クラスメイトに決闘を申し込む? どこかで聞いた話だねぇ。
「それで、結果は?」
「俺の完敗。いやあ、魔導に関してはわりと自信あったんだよ? いくら相手が王族でも、高飛車なボンボンに負けるわけないって思ってたのにさ……すげーボロボロにされた」
悔しいのか、それとも他に思い出す気持ちがあるのか。ケラケラと、タメリア先輩は笑っていた。
それを見て、メメメリ先輩もまた笑っている。
「それを機に、タメっちがゴルっちに絡むようになっての」
「絡む?」
「だって、すげーおもしれー男とクラスメイトになったんだなって思ってさ。これはもう、友達になるしかないっしょ」
ゴルさんは当然、最初は鬱陶しそうにしていたらしい。
でも、タメリア先輩の猛アタックに、ついには諦めたように折れた。さらにタメリア先輩の幼馴染のメメメリ先輩とも、縁が出来た。
いつの間にか三人で行動することが多くなり、やがてリリアーナ先輩とも。
二年ではゴルさんが生徒会長になり、来年は自分たちも役員になってゴルさんを支える……そんな約束をしたようだ。
「いやぁ、時間が経つのはあっという間だよねぇ」
「違いないのぅ」
「い、いい話です……」
懐かしい話に花を咲かせる先輩たち。そして今の話に感銘を受け涙しているシルフィ先輩。
今は仲の良い四人だけど、ここに来るまではいろいろあったんだなぁ。
なんか、やっぱりいいな。そういうの。
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