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第十章 魔導学園学園祭編

668話 嬉しい報せ

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 ゴルさんからの、大切な話。
 それを聞いた瞬間、みんな黙り込み……私は、ゴルさんが言ったことの意味を理解した。

 話に聞いたことがある。相手に血痕を申し込む……それを、プロポーズというのだと。

「ぷぷぷっ、プロっ、プロロッ……」

 私の言葉を聞いて、リリアーナ先輩が過去見たことがないくらいに壊れてしまった。
 顔が真っ赤になり、湯気が出ている。

 表情はいつも通りなのに、その姿はまるっきりいつも通りじゃない。

「? なんだ、なにか変なことを言ったか?」

 当のゴルさんは、やっぱり自分の言ったことの重大さを理解していない。
 変なこと……ではないんだろうけど。いやでも、とんでもないことではあるよ。

「いや、変なことって言うか……」

「あまりに突然で、驚いたと言うか……」

 先輩たちも、困惑した様子だ。
 普段からゴルさんと付き合いのある二人でも、今の発言には肝を抜かれたようだ。

 そして、固まっていた最後の一人は……

「お、驚きましたが……そのような宣言をこの場でされるとは、さすがゴルドーラ様。お二人は婚約済みの身ですし、なにもおかしなことはありませんね」

 ゴルさん信者は、事態を受け入れたようだ。

 そう、元々ゴルさんとリリアーナ先輩は婚約者だ。
 婚約者……婚約ってのは、結婚の約束をしている状態だってのは聞いた。そして、実際に結婚をするのが婚姻。

 今ゴルさんは、正式に言ったのだ。リリアーナ先輩に、結婚しようと。

「ふむ……リリアーナ」

「ひゃい!?」

 おおう、リリアーナ先輩が聞いたことのない声を出している。
 "魔死事件"の後処理の時すらいつも通りの姿だったというのに。

「すまん、まさかそんなに動揺するとは……嫌、だっただろうか?」

「! い、嫌ではありません!」

 ゴルさんはどうやら、リリアーナ先輩の様子を見て勘違いしたらしい。あんなの、私が見たって嫌じゃないとわかる。
 本人だって、すぐに否定した。顔は、真っ赤なままだ。

 その姿に、ゴルさんもまた目を見開いた。

「い、嫌だったら、こうして婚約者として、側にいません。
 た、ただ、いきなりで、驚いて……」

「そうか……いや、そうだな。俺もお前に、事前に一言言っておくべきだった。すまんな」

「い、いえ……」

「……」

 おいおい、なんだよこの空気!? 私たちはお邪魔か!?
 なんか二人だけの世界に入っちゃってるような……そっと外に出ていった方がいいんだろうか。

 だけど、タメリア先輩とメメメリ先輩はニマニマしていた。

「ま、驚いたけど二人ともおめでとさん」

「あぁ、めでたいことじゃ。にしても、まさかこのような場であんな宣言をするとは思っていなかったがのう」

 二人はパチパチと拍手をする。
 それを見てシルフィ先輩も拍手をして、私も遅れて手を叩く。

 室内は、一気に歓迎ムードだ。

「元々、俺が国王となった折リリアーナとは婚姻することになっていたと、お前たちは知っていただろう」

「だとしても、今の状況じゃその辺の事情どうなってんのかわかんないし」

「まったく、ゴルっちは昔からそういうところあるからのう」

「そういうところとはどういうところだ?」

「そういうところ」

 驚きはしたけど、楽しそうに話している。
 こういうの見てると……なんか、いいな。って感じる。

 昔ながらの関係、ってやつか。
 私には昔の記憶がないし、それ以降は師匠と二人で過ごしただけ。この国に来てからいろんな人と仲良くなったけど。

 昔馴染み、ってやつにも憧れがあったりする。

「よかったじゃないですか、リリアーナ先輩」

 私はリリアーナ先輩の近くに寄り、そっと話しかける。
 ゴルさんとリリアーナ先輩は、いわゆる政略結婚ってやつだ。でもリリアーナ先輩はゴルさんのことが大好きだし、ゴルさんも言葉にしないだけで同じ気持ちだ。

 好き同士の二人が一緒になるって言うのは、やっぱり嬉しいものがあるよね。

「あ、ありがとう、エランちゃん」

 ほら、リリアーナ先輩も嬉しそうだ。

「ってことは、婚姻するってのは生徒たちにも発表するのか?」

「時期が来たらな。今は、学園でいつも通りの生活に戻ることが先決だ」

「ははっ、違いない」

 なんにせよ、ゴルさんが学園に通う頻度が少なくなるというものとは別に、これは嬉しい報せだ。
 こんなことがあるなんてまったく予想していなかったしな。

 あぁ、誰かとこの嬉しさを分かち合いたい! でも、私だってちゃんとわきまえているさ、勝手に誰かに話したりはしない。

「そういうことでリリアーナ、後で二人きりになれないか? 改めて、伝えたいことがある」

「は、はい」

 おっと、ゴルさんってばあとでリリアーナ先輩と二人きりに……
 なにをするつもりか、なんて考えるのは野暮だよね。

「二人になって、改めて告白するのかな」

「じゃろうな」

 どうやら、二人の先輩も同じことを考えているようだ。

 さて、ゴルさんによるプロポーズがあり、それから後片付けをして……生徒会室を後にする。
 今後も、学園が再開するまでの短い期間でも生徒会メンバーで会おうという話になった。

 学園が再開するにあたって生徒の混乱を抑えるため、やっておくこともある。学園祭準備以外にも、やることはあるのだ。
 とはいえ、今は……ゴルさんとリリアーナ先輩に、二人きりの時間を過ごしてほしい。
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