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第九章 対立編

662話 またこうして仲良く

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「さあフィルちゃん! キミにこれを授けます!」

「おぉー……木の棒?」

「魔導の杖です」

 翌日、私はフィルちゃんに魔導の杖を渡した。
 魔導の知識を学ぶにも深めるにも、やっぱり実践あってからこそだからと思ったからだ。

 私だって、見て覚えろよりやって覚えろって感じだったしね。
 やっぱり体に慣れさせないと。

「授けるって……それ、学園から借りたものじゃない」

「いいじゃん、その方が雰囲気出るじゃん!」

「エランさんらしいですねぇ」

 左右からそれぞれ、呆れたような口調と苦笑い気味の口調が私にぶつけられる。
 確かにこれは学園から借りたものだ。魔導学園だし、大抵のものは借りられるのだ。

 授けるなんて大げさなことを言った私に呆れたようにツッコむクレアちゃんと、苦笑いを浮かべながらそれは私らしいと言ってくれるルリーちゃん。
 二人に挟まれて、私は立っている。

「それにしても、二人がフィルちゃんの訓練に付き合ってくれるなんて」

 驚いたのが、クレアちゃんとルリーちゃんは率先して、私とフィルちゃんの訓練に付き合うと言ってくれたことだ。
 まったく、どこからその情報を仕入れたのか。

「まあ、フィルちゃんのことは私だって気になってたのよ」

 クレアちゃんが、フィルちゃんの頭を撫でる。フィルちゃんも、嫌がっている様子はない。
 二人は、魔導大会のときに一緒に観戦していたくらい、仲が良い。

 そしてそれは、ルリーちゃんも同じこと。

「エランさんが無茶なことしないか、見ておかないといけませんからね」

「なにおう」

 なにより、一番驚いたのが……いや、嬉しいのが。クレアちゃんとルリーちゃんの二人が、こうして一緒にいて笑っていることだ。
 もうこんな光景見れないかもしれない……そんなことを思っていた。

 あの決闘の日から、私は二人には会っていない。まあ、そんなに時間が経ってるわけでもないんだけど。
 その間、二人の間で気持ちの整理がついたのか、それは二人だけが知ることだ。

 ただ確かなのは、今ここに二人がいるということ。

「ちょっと、なにをニマニマしてるのよ気持ち悪い」

「ば、バッサリだなぁクレアちゃんは」

 ただ、クレアちゃんは以前より私に遠慮がなくなったような気がする。
 まあ、いいんだけどさ。

「エランさんはそういうとこありますもんね」

「それはどういう意味かな?」

 そしてルリーちゃんも、以前は天然気味だったのが今は意図的に私に厳しい言葉をかけてくる気がする。
 まあ、別にいいんだけどさ。

 それだけ、心を開いてくれたのかなって思えば嬉しくなるし。

「これが、まどーのつえ……」

「そうよ。これを使って、自分の思い描く魔法を出すことができるの」

「始めは難しいかもしれませんが、慣れればすぐにできるようになりますよ」

 そんな二人は、フィルちゃんに甘い。甘いのは私もな気がするけど。
 それに、教えるのはなんかうまそうだ。なんでかわかんないけど、そう感じる。

 さて、学園から借りてきた魔導の杖で、フィルちゃんの才能を見てみようじゃないか。

「ところで……その子が、例の魔物、なのよね」

「ぴゅう」

 じっ、とクレアちゃんが見つめる先にいるのは、毛玉魔物のもふもふ。
 結局、使い魔を魔法陣に戻す方法がわからず、ずっと召喚したままなのだ。

 使い魔を召喚したままというのは、その分魔力を食う。使い魔を召喚する際には当然魔力が必要だけど、召喚した使い魔を維持するためにも魔力が必要なのだ。
 私も、そうだ。

 クロガネみたいな強力な使い魔を召喚し、維持する。これだけでも、莫大な魔力を食らう。
 ゴルさんとドラだって、そうだろう。

 なのに……

「ほらほらもふもふ、ぴょんぴょんしてー」

「ぴゅ、ぴゅう!」

 杖を使って、もふもふと遊んでいるフィルちゃん。
 契約を結び、使い魔を召喚したままであるというのに、まったく疲れた様子がない。一晩中召喚していたのにだ。

 それは、使い魔になったけどまだ魔法陣を介して召喚したわけではないから召喚扱いになっておらず魔力を食っていないのか、もふもふ維持の魔力がかなり燃費がいいのか……

 ……フィルちゃんの魔力が、膨大なのか。

「ま、それをこれから確かめないとね」

 魔力が膨大なら、それだけ強力な魔法を使えるということだ。
 この訓練場なら、周りに被害が出ることもない。なにかあれば、私が割り込んで止めることもできる。

 クレアちゃんとルリーちゃんもいるし、人の目も多ければ問題は少なくなる。

「じゃあフィルちゃん、まずは魔導についてどんなものかってのを見せていくね」

「うん!」

「まずは、頭の中でイメージを固める」

 魔法は、イメージが具現化したものだ。頭の中でイメージを膨らませ、それを魔力に変換。内から外に向ける感じで、力を放出する。
 そして、この場合は魔導の杖の先端に力を集中させる。

 今イメージしているのは、火の玉だ。大きすぎず、小さすぎる……だいたい手のひらサイズのもの。

「わぁ……!」

 出現した火の玉を見て、フィルちゃんが歓喜の声を漏らした。
 改めて、フィルちゃんの目の前でこうやって魔導を披露するのは、初めてかもしれない。

 私はそれを、天井へ向けて放ち……ある程度の高さまで打ち上がったところで、パンッと音を立てて散った。
 力の入れ具合で、どの程度まで放ったところで爆散させるかも、変えることができる。
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