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第九章 対立編

659話 それからどしたの

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「そういうわけで、フィルちゃんが毛玉魔物と使い魔契約をしました。
 あ、毛玉魔物の名前はもふもふです」

「…………」

 私の説明を聞いたサテラン先生は、額に手を置いて悩ましげに眉を寄せていた。
 長い沈黙は、それだけ先生にとってすぐには受け入れがたいことだとわかる。

 フィルちゃんがもふもふを使い魔にして、みんなで盛り上がっているところへ先生が通りかかった。
 なので、一応方向しておいた。もふもふを見つけたときに一番に呼んだ先生でもあったし。

 報告は大事だ。だから、これも大事なこと。
 であるはずなのに、先生は嬉しくなさそうだ。

「先生、どうかしました?」

「……どうかしました? あぁ、どうかしてるよこの状況は」

 先生は大きなため息を漏らした。
 ため息をつくと幸せが逃げちゃうんだぞ?

「わからん……なにがどうして、そうなったんだ。全然わからん」

「私たちだってわかりませんよ。ただ見たことをそのまま伝えただけです」

「ぬぅああ……まだこの魔物の処遇をどうするかも決まってないのに、使い魔……!? それも、学園の生徒でもない……いや魔導士見習いですらない子供がだと……!?」

 先生は頭を抱えたまま、恨み言のようにつぶやいている。
 考えることがいっぱいありそうで大変だ。

 おおよそは私が疑問に思ってたことと同じことを考えているみたいだけど、やっぱり先生の立場からすると考えることも違うんだろうな。

「じゃあ先生、学園再開したらフィルちゃんも生徒にするっていうのはどうかな?」

「じゃあ!?」

 私はとりあえず、思い浮かんだことを口にした。
 こうなってしまった以上、フィルちゃんも学園に入れてしまえと思ったのだ。

 そもそも、これまでだって学園の生徒じゃないのに授業に参加してたし。
 今魔導の知識がないとはいっても、ここは魔導学園。魔導のことを学ぶ学園だ。問題はないはず。

 問題があるとすれば……

「そもそも幼すぎないかい? 入学ラインに達していないだろう」

 ナタリアちゃんが指摘した、幼すぎるというものだ。
 入学するにしても、さすがに幼い。まだ子供だ。そんな状態で、学園になんて入学できるはずもない。

 しかも、フィルちゃんは自分のこともよくわかってないのだ。私のことをママって言うくらいだ、親のこともわからない。

「うーん、だめかぁ」

「例外として、優秀な人材であれば特別に入学を許可するということもあるが……」

 腕を組み、先生が言う。
 年齢が低くても、優秀なら入学できるらしい。へぇ、そういう制度もあるのか。

 じゃあ私も、もっと早くに入学できたかもしれない……なんてね!
 師匠が教えてくれなければ魔導学園の存在も知らなかったし、今年入学してなかったら友達になれなかった子も多くいるからね。

 私は今年入学して、よかったよ。

「じゃあフィルちゃんが優秀なら、入学させてもいいってこと?」

「まあ、極論そうなるが……」

 困ったように先生は、視線をそらす。いや別の人物に向ける。
 私もその視線を追う。その先にいたのはフィルちゃんだった。

 きょとん……というかぽけーっとした様子のフィルちゃん。
 ……優秀な人材かぁ……

「難しいかなぁ」

「難しいだろうな」

 残念ながら、フィルちゃんに優秀さは感じられない。本当に残念ながら。
 まだ小さいから、魔導を覚えようと思えばいくらでも吸収できるはずだ。魔導は子供の頃の方が吸収しやすいって師匠は言ってた。

 その方が知識も深まるし、純粋な子供だからこそ精霊さんと触れ合うことができる。
 まあ、師匠曰く私は最初から精霊さんと仲良くしていたらしいんだけど。

「とはいえ、なぁ……このまま、これまでのように生徒に任せてばかりというわけにもいかなくなった」

「そうなの?」

「当たり前だ。魔物と使い魔契約をしたんだぞ。この魔物はおとなしいとお前は言っているが、魔物は魔物だ。それに、前列のない魔物との使い魔契約……なにが起こるのか、予想ができん。放置するわけにはいかない」

 若干私を睨みながら、先生は言う。
 に、睨まないでよぉ。先生目つき悪いんだから怖いんだよぉ。てか私悪くないじゃん。

 しかし、そうか……前代未聞の使い魔契約だーって騒いでたけど、だからこそ慎重にならないといけないのか。

 思い返せばノマちゃんだって、"魔死事件"に巻き込まれた中で初めての生還者だ。そんな彼女を、検査しなきゃって理由で何日もお城に住まわせていた。
 あの時と同じようなことか。これまでに前例がないからこそ、放置はできない。

「でもそれなら、クロガネと契約した私もいろいろ調べる必要があるんじゃない?」

「なんでドヤ顔だ。
 ……確かにドラゴンとの契約も驚いたが、こちらは前例がないわけではない」

「え、そうなの」

「大昔だがな。ドラゴンと契約を結んだ偉大な魔導士がいたという話だ。だが魔物に関しては、本当に前例が……おい、なにを鼻の穴を膨らませている」

 ほ、ほぉーん……偉大な魔導士かぁ。

 ドラゴンと契約した人がいたって話には驚きだけど、それが偉大な魔導士ってのは……なんか、いい気分だな。自分のことでもないのに。
 偉大な魔導士……うん、とてもいい響きだ。

 その偉大な魔導士と同じく、私はドラゴンと契約したというわけだ。
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