671 / 739
第九章 対立編
659話 それからどしたの
しおりを挟む「そういうわけで、フィルちゃんが毛玉魔物と使い魔契約をしました。
あ、毛玉魔物の名前はもふもふです」
「…………」
私の説明を聞いたサテラン先生は、額に手を置いて悩ましげに眉を寄せていた。
長い沈黙は、それだけ先生にとってすぐには受け入れがたいことだとわかる。
フィルちゃんがもふもふを使い魔にして、みんなで盛り上がっているところへ先生が通りかかった。
なので、一応方向しておいた。もふもふを見つけたときに一番に呼んだ先生でもあったし。
報告は大事だ。だから、これも大事なこと。
であるはずなのに、先生は嬉しくなさそうだ。
「先生、どうかしました?」
「……どうかしました? あぁ、どうかしてるよこの状況は」
先生は大きなため息を漏らした。
ため息をつくと幸せが逃げちゃうんだぞ?
「わからん……なにがどうして、そうなったんだ。全然わからん」
「私たちだってわかりませんよ。ただ見たことをそのまま伝えただけです」
「ぬぅああ……まだこの魔物の処遇をどうするかも決まってないのに、使い魔……!? それも、学園の生徒でもない……いや魔導士見習いですらない子供がだと……!?」
先生は頭を抱えたまま、恨み言のようにつぶやいている。
考えることがいっぱいありそうで大変だ。
おおよそは私が疑問に思ってたことと同じことを考えているみたいだけど、やっぱり先生の立場からすると考えることも違うんだろうな。
「じゃあ先生、学園再開したらフィルちゃんも生徒にするっていうのはどうかな?」
「じゃあ!?」
私はとりあえず、思い浮かんだことを口にした。
こうなってしまった以上、フィルちゃんも学園に入れてしまえと思ったのだ。
そもそも、これまでだって学園の生徒じゃないのに授業に参加してたし。
今魔導の知識がないとはいっても、ここは魔導学園。魔導のことを学ぶ学園だ。問題はないはず。
問題があるとすれば……
「そもそも幼すぎないかい? 入学ラインに達していないだろう」
ナタリアちゃんが指摘した、幼すぎるというものだ。
入学するにしても、さすがに幼い。まだ子供だ。そんな状態で、学園になんて入学できるはずもない。
しかも、フィルちゃんは自分のこともよくわかってないのだ。私のことをママって言うくらいだ、親のこともわからない。
「うーん、だめかぁ」
「例外として、優秀な人材であれば特別に入学を許可するということもあるが……」
腕を組み、先生が言う。
年齢が低くても、優秀なら入学できるらしい。へぇ、そういう制度もあるのか。
じゃあ私も、もっと早くに入学できたかもしれない……なんてね!
師匠が教えてくれなければ魔導学園の存在も知らなかったし、今年入学してなかったら友達になれなかった子も多くいるからね。
私は今年入学して、よかったよ。
「じゃあフィルちゃんが優秀なら、入学させてもいいってこと?」
「まあ、極論そうなるが……」
困ったように先生は、視線をそらす。いや別の人物に向ける。
私もその視線を追う。その先にいたのはフィルちゃんだった。
きょとん……というかぽけーっとした様子のフィルちゃん。
……優秀な人材かぁ……
「難しいかなぁ」
「難しいだろうな」
残念ながら、フィルちゃんに優秀さは感じられない。本当に残念ながら。
まだ小さいから、魔導を覚えようと思えばいくらでも吸収できるはずだ。魔導は子供の頃の方が吸収しやすいって師匠は言ってた。
その方が知識も深まるし、純粋な子供だからこそ精霊さんと触れ合うことができる。
まあ、師匠曰く私は最初から精霊さんと仲良くしていたらしいんだけど。
「とはいえ、なぁ……このまま、これまでのように生徒に任せてばかりというわけにもいかなくなった」
「そうなの?」
「当たり前だ。魔物と使い魔契約をしたんだぞ。この魔物はおとなしいとお前は言っているが、魔物は魔物だ。それに、前列のない魔物との使い魔契約……なにが起こるのか、予想ができん。放置するわけにはいかない」
若干私を睨みながら、先生は言う。
に、睨まないでよぉ。先生目つき悪いんだから怖いんだよぉ。てか私悪くないじゃん。
しかし、そうか……前代未聞の使い魔契約だーって騒いでたけど、だからこそ慎重にならないといけないのか。
思い返せばノマちゃんだって、"魔死事件"に巻き込まれた中で初めての生還者だ。そんな彼女を、検査しなきゃって理由で何日もお城に住まわせていた。
あの時と同じようなことか。これまでに前例がないからこそ、放置はできない。
「でもそれなら、クロガネと契約した私もいろいろ調べる必要があるんじゃない?」
「なんでドヤ顔だ。
……確かにドラゴンとの契約も驚いたが、こちらは前例がないわけではない」
「え、そうなの」
「大昔だがな。ドラゴンと契約を結んだ偉大な魔導士がいたという話だ。だが魔物に関しては、本当に前例が……おい、なにを鼻の穴を膨らませている」
ほ、ほぉーん……偉大な魔導士かぁ。
ドラゴンと契約した人がいたって話には驚きだけど、それが偉大な魔導士ってのは……なんか、いい気分だな。自分のことでもないのに。
偉大な魔導士……うん、とてもいい響きだ。
その偉大な魔導士と同じく、私はドラゴンと契約したというわけだ。
10
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。
黒ハット
ファンタジー
前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる