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第九章 対立編
656話 ぴょんぴょん跳ねる
しおりを挟むちょこん、とフィルちゃんの頭に毛玉魔物が乗っかっている。
フィルちゃんの白い髪に、黒い毛並みのまん丸魔物……なんか不思議と和む光景だな。
なんか知らないけど、毛玉魔物はフィルちゃんに懐いているみたいだ。初めて会ったばかりなのに。
やっぱり、フィルちゃんの癒し的オーラがそうさせるんだろうか。
「フィルちゃん、どうしてここに?」
「みんなと遊んでるの!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、フィルちゃんが指差す先には……数人の女子生徒たち。
あぁ~、フィルちゃんがぴょんぴょん跳ねる~。
どうやら、最近はフィルちゃんは女子生徒たちの間で人気らしい。人懐こい笑顔と、活発だけどおとなしい。誰とでも仲良くできる。
だから、夜はいろんな子たちの部屋を入れ替わるように泊まっているらしい。
以前は、私とノマちゃんの部屋で寝泊まりしていた。でも魔導大会のあと、私もノマちゃんもいなくなった。
その後はルリーちゃんとナタリアちゃんが面倒を見ていた、と聞いてはいたけど……
「みんなのお世話になってたんだねぇ。フィルちゃん、みんなに迷惑かけてない?」
「大丈夫! わたし、いい子にしてるよ!」
今日はルリーちゃんたちの部屋、明日は別の人の部屋、その次の日はまた別の人の部屋……といった具合だ。
もちろん、自分の部屋に泊めてもいいと志願した子たちだけの話だけど。
やっぱり同じ部屋に泊まり続けるのはその子たちの負担になるだろうっていうのと、フィルちゃんなら面倒を見てもいいという意見があって、そうなったらしい。
「ねーねー、この子はなにー?」
と、フィルちゃんは頭上に乗っている毛玉魔物をツンツンつつく。恐れ知らずだなこの子は。
まあ毛玉魔物もされるがままだから別にいいけど。
「その子はね、魔物だよ」
「まもの……?」
「うん、モンスターではなくてね……」
ただ、フィルちゃんに魔物だモンスターだって言い分けるのは、まだ早いかもしれない。
モンスターだって、単なる獣として認識している。いや間違いではないんだけど。
魔物が怖いものだって教えるべきか……いやでもまだ早いような……
「うぅん……」
「エランくん、そうやってフィルくんのために真剣に考えていると、本当にお母さんみたいだね」
「ほぁ!?」
私がお母さんみたい……!? いや、私こんな小さな子を産んだ覚えなんてありませんけど!
ナタリアちゃんも冗談で言っているんだろうけど、その冗談はちょっと笑えないよ!
結局この子が私のことをママって呼んでくるのはなんでかわからないし、慣れたとはいえやっぱり気にはなる。
「フィルちゃんー、なんで私がママなの?」
「ママはママだから!」
「……」
なんで私のことをママと言うのか、何度聞いてもこの答えしか帰ってこない。
一応学園としても、憲兵さんに連絡して親探しをしているらしいけど……見つからない。
もしも親も、フィルちゃんと同じく白髪黒目の特徴なら、見つけるのはそう難しくないと思う。
なのに見つからないってことは……髪や目の色は違うのか……それともこの国にいないのか。
こんな小さな子が一人、知らない国の知らない学園の敷地に入り込んだってのも、考えにくいけどね。
「あら、エランさんではありませんか」
「あ、カリーナちゃん」
フィルちゃんと話していると、向こうから歩いてくる子がいた。見覚えのあるその子は、カリーナ……カリーナ・レンブランドちゃんだ。
学園に入学してから、私をお茶会に誘ってくれたり、なにかと話しかけてくれる子だ。
クレアちゃんは学園に入学する前からの友達だから、学園に入学してからできた初めての友達のクラスメイトはカリーナちゃんかもしれない。
「いきなりフィルちゃんが駆け出したと思ったら、エランさんを見つけたんですよね」
「そうなんだ。……ん? じゃあ向こうでフィルちゃんと遊んでたのって……」
「私たちですわ」
自分の胸に手を当て、自分がフィルちゃんと遊んでいたのだとうなずくカリーナちゃん。
その後ろには、同じくお茶会メンバーのロリア・サラメちゃんとキリアちゃんもいた。
貴族も平民も、別け隔てなくというカリーナちゃんの思いが、まだ少ないけど同じグループで仲良くしている。
「じゃあもしかして、フィルちゃんを今預かってるのって?」
「私ですわ」
はい、とカリーナちゃんが手を上げる。やっぱりそうか。
カリーナちゃん面倒見よさそうだもんな。他の子も交えて、ちゃんと外で遊ばせている。
「なんか、カリーナちゃんの方がお母さんみたいだよね」
「!?」
ともかく、フィルちゃんがみんなに受け入れられているのならなによりだ。
魔法も使えない平民の子だけど、誰かにいじめられたりしてなくてよかった。
「ところで……その毛玉って、もしかして……」
おずおずと毛玉魔法について言及するキリアちゃん。
先生たちから話は聞いているだろうし……キリアちゃんは、魔力の流れを感じ取る力が人より敏感だから、魔物の存在にも気づくのだろう。
魔獣騒ぎや、ダンジョンでも具合悪くなってたもんね。大丈夫かな。
「うん、魔物だよ。でも害はないし……なんでかフィルちゃんに懐いてる」
「そ、そうですか」
私の説明に、キリアちゃんはほっと息を吐いた。
これで安心してくれているかはわからないけど、怖い思いは私がもうさせないよ。
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