上 下
668 / 751
第九章 対立編

656話 ぴょんぴょん跳ねる

しおりを挟む


 ちょこん、とフィルちゃんの頭に毛玉魔物が乗っかっている。
 フィルちゃんの白い髪に、黒い毛並みのまん丸魔物……なんか不思議と和む光景だな。

 なんか知らないけど、毛玉魔物はフィルちゃんに懐いているみたいだ。初めて会ったばかりなのに。
 やっぱり、フィルちゃんの癒し的オーラがそうさせるんだろうか。

「フィルちゃん、どうしてここに?」

「みんなと遊んでるの!」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、フィルちゃんが指差す先には……数人の女子生徒たち。
 あぁ~、フィルちゃんがぴょんぴょん跳ねる~。

 どうやら、最近はフィルちゃんは女子生徒たちの間で人気らしい。人懐こい笑顔と、活発だけどおとなしい。誰とでも仲良くできる。
 だから、夜はいろんな子たちの部屋を入れ替わるように泊まっているらしい。

 以前は、私とノマちゃんの部屋で寝泊まりしていた。でも魔導大会のあと、私もノマちゃんもいなくなった。
 その後はルリーちゃんとナタリアちゃんが面倒を見ていた、と聞いてはいたけど……

「みんなのお世話になってたんだねぇ。フィルちゃん、みんなに迷惑かけてない?」

「大丈夫! わたし、いい子にしてるよ!」

 今日はルリーちゃんたちの部屋、明日は別の人の部屋、その次の日はまた別の人の部屋……といった具合だ。
 もちろん、自分の部屋に泊めてもいいと志願した子たちだけの話だけど。

 やっぱり同じ部屋に泊まり続けるのはその子たちの負担になるだろうっていうのと、フィルちゃんなら面倒を見てもいいという意見があって、そうなったらしい。

「ねーねー、この子はなにー?」

 と、フィルちゃんは頭上に乗っている毛玉魔物をツンツンつつく。恐れ知らずだなこの子は。
 まあ毛玉魔物もされるがままだから別にいいけど。

「その子はね、魔物だよ」

「まもの……?」

「うん、モンスターではなくてね……」

 ただ、フィルちゃんに魔物だモンスターだって言い分けるのは、まだ早いかもしれない。
 モンスターだって、単なる獣として認識している。いや間違いではないんだけど。

 魔物が怖いものだって教えるべきか……いやでもまだ早いような……

「うぅん……」

「エランくん、そうやってフィルくんのために真剣に考えていると、本当にお母さんみたいだね」

「ほぁ!?」

 私がお母さんみたい……!? いや、私こんな小さな子を産んだ覚えなんてありませんけど!
 ナタリアちゃんも冗談で言っているんだろうけど、その冗談はちょっと笑えないよ!

 結局この子が私のことをママって呼んでくるのはなんでかわからないし、慣れたとはいえやっぱり気にはなる。

「フィルちゃんー、なんで私がママなの?」

「ママはママだから!」

「……」

 なんで私のことをママと言うのか、何度聞いてもこの答えしか帰ってこない。
 一応学園としても、憲兵さんに連絡して親探しをしているらしいけど……見つからない。

 もしも親も、フィルちゃんと同じく白髪黒目の特徴なら、見つけるのはそう難しくないと思う。
 なのに見つからないってことは……髪や目の色は違うのか……それともこの国にいないのか。

 こんな小さな子が一人、知らない国の知らない学園の敷地に入り込んだってのも、考えにくいけどね。

「あら、エランさんではありませんか」

「あ、カリーナちゃん」

 フィルちゃんと話していると、向こうから歩いてくる子がいた。見覚えのあるその子は、カリーナ……カリーナ・レンブランドちゃんだ。
 学園に入学してから、私をお茶会に誘ってくれたり、なにかと話しかけてくれる子だ。

 クレアちゃんは学園に入学する前からの友達だから、学園に入学してからできた初めての友達のクラスメイトはカリーナちゃんかもしれない。

「いきなりフィルちゃんが駆け出したと思ったら、エランさんを見つけたんですよね」

「そうなんだ。……ん? じゃあ向こうでフィルちゃんと遊んでたのって……」

「私たちですわ」

 自分の胸に手を当て、自分がフィルちゃんと遊んでいたのだとうなずくカリーナちゃん。
 その後ろには、同じくお茶会メンバーのロリア・サラメちゃんとキリアちゃんもいた。

 貴族も平民も、別け隔てなくというカリーナちゃんの思いが、まだ少ないけど同じグループで仲良くしている。

「じゃあもしかして、フィルちゃんを今預かってるのって?」

「私ですわ」

 はい、とカリーナちゃんが手を上げる。やっぱりそうか。
 カリーナちゃん面倒見よさそうだもんな。他の子も交えて、ちゃんと外で遊ばせている。

「なんか、カリーナちゃんの方がお母さんみたいだよね」

「!?」

 ともかく、フィルちゃんがみんなに受け入れられているのならなによりだ。
 魔法も使えない平民の子だけど、誰かにいじめられたりしてなくてよかった。

「ところで……その毛玉って、もしかして……」

 おずおずと毛玉魔法について言及するキリアちゃん。
 先生たちから話は聞いているだろうし……キリアちゃんは、魔力の流れを感じ取る力が人より敏感だから、魔物の存在にも気づくのだろう。

 魔獣騒ぎや、ダンジョンでも具合悪くなってたもんね。大丈夫かな。

「うん、魔物だよ。でも害はないし……なんでかフィルちゃんに懐いてる」

「そ、そうですか」

 私の説明に、キリアちゃんはほっと息を吐いた。
 これで安心してくれているかはわからないけど、怖い思いは私がもうさせないよ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

処理中です...