史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第九章 対立編

645話 本当のこと

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 レーレさんに、真実を隠しておくことはできない。
 弟を殺され、その犯人とは別の人物が犯人だと思い込み、私にお礼を言おうとしているこの状況。

 それを、勘違いさせたままでいさせるわけにはいかない。
 だから私は、これまでの"魔死事件"の犯人について、話した。

「ダーク……エルフ……」

 その言葉をレーレさんは、噛みしめるようにうなずいて復唱した。
 これまで犯人だと思っていたのが、まったく別の人物だった。それはどんな気持ちだろう。

 おまけに……

「本当にいたんだな、ダークエルフなんて」

 ダークエルフという存在自体、普通は信じられていない。
 私は身近にダークエルフがいるから麻痺してるけど、普通はダークエルフなんて聞いたことがある程度で、見たことがない人が大半だ。

 魔導学園にウーラスト先生が来るまでは、エルフさえもこの国にはいなかったんだ。
 それだけ、人々にとってエルフ族は遠い存在だ。

 ……遠い存在だと思っていた人物が、弟を殺した犯人だったのだ。

「ごめんなさい」

「ん、どうしてキミが謝るんだ」

「どうしてって……」

 怒っているだろうか、それとも悲しんでいるだろうか。
 レーレさんの気持ちはわからない。わからないけど、私は謝った。だって、ずっと知って黙ってたんだから。

「知っていて黙っていたことを、か? 確かに、驚きはしたが……黙っていたのにも、理由があるんだろう?」

「それは……」

「少なくとも、私を騙してやろうとか、そんな気持ちはない。でなければ、今この場で打ち明けてはいないだろう」

 うつむく私の頭が、ふと重くなる。
 レーレさんが、手を置いていたのだ。

「キミは、この事実をずっと自分の内に秘めていたのか?」

「……一応、王様とかにも言った、かな」

「……思ったより大物の名前が出たな。
 であれば、事実を明かさなかったのは国王の判断だろう。キミに非はない。そもそも、犯人を知っていてそれを私に事前に話してくれていたとしても、私にはどうにもできなかった」

 私の頭を優しく、撫でるような手つきで……レーレさんは優しい言葉をかけてくれる。
 私が真実をレーレさんに話していたとして、なにもできなかったのはそうだろう。

 私だって居場所の掴めないダークエルフ。むしろ犯人がダークエルフだと知った分、居場所がわからずもやもやしてしまうんじゃないだろうか。

「別にこの事実を知ったところで、キミに対して怒ったりはしない。キミは憲兵でもないのだし、犯人を知っていたからと言って捕まえなかったのを責められるいわれはないだろう」

 ……この人は、本当に立派な生き方をしているな。
 見た目の佇まいや、喋り方から武士みたいな人だって思ったけど……本当に、清い精神を持っている。

「しかし、ダークエルフか……なぜ、それが犯人だと?」

「えぇと……説明しにくいんですけど、本人から言われたというか」

「本人から?」

 人間を憎んでいるそのダークエルフは、私の前に姿を現し、自分が事件を起こしていることを話した。
 でも、魔導学園内で起こった"魔死事件"を最後に、彼はなにも行動を起こしていない。

 だから、その後ダンジョン内で起こった事件と、私の部屋で起こった事件は、別人……レジーのものだ。

「なんにせよ、もし見つけたら……生まれてきたことを後悔させてやる」

「!」

 さっきまで、私に優しく接してくれていたレーレさん。けれど今は、違う。
 冷たい雰囲気……鋭い目は、それだけで人を殺せるんじゃないかと思えるほど。

 弟を殺された怒りは、消えるはずもない。ルランがルリーちゃんのお兄ちゃんだと知られたら、いったいどうなってしまうのだろう。

「しかし、そうか。キミが捕まえた犯人は、別人だったか。
 せっかくの機会に、お礼を言いたいと思っていたんだがな」

「い、いいですよそんなお礼なんて」

 もし本当にレジーがすべての犯人だったとして、レーレさんの弟の仇だったとしても、私はお礼を言われたいためにやったことじゃない。
 ただ、許せないと思って、だから戦って……

 それに、正直な話……レジーがすべての犯人だったとしても、私が彼女に一番怒りを覚えたのは、やっぱりノマちゃんのことだろう。
 殺された他の人よりも、殺されそうになったノマちゃんへの思いのほうが、私にとっては……

「さ、辛気臭い話は終わりにしよう。まあ、私から持ちかけておいて変な話だが」

 パン、と手を叩く音が響く。
 場の雰囲気を変えるように、レーレさんの明るい声が響いた。

 本当は、もっと聞きたいことや考えたいこともあるだろうに……
 もしかして私に、変な気を遣わせまいとしているのかな。

「しかし、こうして後輩と二人きりというのも、なんだか新鮮だな」

「そうなん……いや、それもそうか」

 学年の違う相手と、同じ部屋で一夜を過ごすというのもなかなかないだろう。
 剣の稽古をしているキルスちゃんなら、そういうことがあっても不思議はないけど。

 そうだ、せっかく学園の先輩と一緒にいるんだ。いろいろと、学園の話を聞いてみようかな。
 生徒会でもそういう機会はあったけど、なんかいろいろ事件とか忙しくてピリピリしてる感じが長かったかならなぁ。

 これまでは、同じクラスやそうでないクラスの友達と過ごすことも多かったけど、そこからじゃ見えないものもあるだろうし。
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