655 / 778
第九章 対立編
643話 ゆっくり話したい
しおりを挟む魔物を監視するため、私が見張ることに。
で、一人だとさすがに心配なので、誰かと一緒がいいなと言ったところ……手を上げたのは、ナタリアちゃんとレーレさんだった。
それは、先生も予想外だったようだ。
「私は、別に誰でも構わないのだが……いいのか、ブライデント」
「えぇ。もちろんです」
レーレさんの意思を確認する先生。答えるレーレさんの目に、迷いはない。
その様子に、少し考えつ仕草の先生は……そっと、ナタリアちゃんに目を向ける。
「ブライデントはこう言っているが、お前たちはどうだ?」
「そうですね……誰も候補がいなければと手を上げましたけど、先輩がそう言っているならボクたちはそれで構いませんよ」
「は、はい」
ナタリアちゃんは納得した様子。ルリーちゃんはちょっと残念そうだけど……
これまで、いろんな場面で二人にはお世話になっている。今回も迷惑をかけるのは悪いもんな。
さて、レーレさんと今晩一緒に過ごすのは、別にいいんだけど……
「ただ、これは私個人的なものだ。ルームメイトに話は通していないし、良ければ私がキミの部屋にお邪魔してもいいか?」
と、私が考えていたのと同じことをレーレさんが言った。
もし私が今晩レーレさんの部屋にお世話になるとしたら、彼女と一緒に暮らしているルームメイトにも影響がある。
いきなり後輩が……しかも魔物を連れてやって来たとなれば、良い顔はいないだろう。
「それははい、もちろん」
「よかった。
……それにキミとは、ゆっくり二人で話してみたいとも思っていたしな」
魔物の世話はとりあえず私が見ることになり、今晩はレーレさんが泊まってくれる。
私の部屋は、"魔死事件"の一件以来別の場所に移った。生きていたとはいえ、ノマちゃんがあんなことになった部屋でその後も過ごせるはずもないからだ。
……レーレさんの話って言うのは、その"魔死事件"について、だろうな。
「さて、お前たちそろそろ部屋に戻れ。詳しいことは、また後日説明する。その時まで、このことは他言無用だ」
パンパン、と手が叩かれ、先生の大きな声が響き渡る。
今回のことは女子寮の近くで起きたから、この場にいない女子や男子たちはまだ知らないはずだ。多分。
学園の敷地内に魔物が入り込んだなんて、話が広まったら余計な混乱を招くだけだ。
そういう意味でも、この話は他の人にはしない方がいい。
「それじゃあフィールド、任せたぞ。なにかあったら遠慮なく言うといい」
「それを私に言います?」
先生は、レーレさんさんにも「任せたぞ」と言ってから、去っていく。
この学園は生徒の自主性を尊重するって言ってたけど、こういうのまで尊重しないでいいのに。
ともかく、私はこの毛玉魔物の面倒を見ることになったわけで。
「なんだか、大変なことになってしまったね」
周囲のみんなもそれぞれ帰っていく中で、ナタリアちゃんが言う。
私の腕の中にいる毛玉魔物は、あれだけのことがあったのに今やすやすやと眠っている。
なんと神経の太い魔物だろう。
「でも、本当によかったんですか? エランくんもいるとはいえ、魔物と同じ部屋なんて」
「あぁ、問題ない。私にも武道の心得があるし、いざというときはエランちゃんをわたしが守るつもりだ」
やだ、この先輩かっこいい……!
「エランさんには、クロガネもいますから、並の魔物は反抗する意思すらなくなりそうですけどね」
「クロガネ……?」
しっかし……こうして見ている分には、害はなさそうだしかわいらしい寝顔なんだけどな。
魔物ってだけで、魔物は危険視される。それは、私もよくわかっている。
魔物は、モンスターが魔石を取り込んで凶暴化した姿。
そう、要は凶暴化したモンスターなのだ。そのため、人を見ただけで襲い掛かる固体だっている。
それを思えば……この子は、えらくおとなしい。
怪我をしていたから……とも考えたけど、本当に凶暴な魔物は怪我をしていても関係なく襲ってくる。むしろ、怪我をしていれば気性が荒くなる。
それが、素直に人間に治療を任せるほどだ。
「二人とも、ありがとうね。私といようとしてくれて。
でも今晩は、レーレさんと一緒にいるから」
「わかったよ。それにしても、エランくんはいつの間に先輩と仲良くなっているよなぁ」
「ですよね。ご、ゴルドーラ様との決闘の時に使っていた魔導具は、二年の先輩に作ってもらったって言ってましたっけ」
入学して間もないのに、私はそれなりに先輩とも交流がある。
レーレさんにピアさん、それにレニア先輩。先輩だからあまり会うことはないのが残念だけど。
生徒会のみんなは、まあ言うまでもなくって感じだけど。
「それじゃ、そろそろ行くよ。この子も寝ちゃったし」
「あぁ」
「はい」
私はレーレさんと共に、ナタリアちゃん、ルリーちゃんと別れ、私の部屋へと案内する。
そういえば、私が誰かの部屋に行くことはよくあったけど、逆はなかった気がする。
例外はフィルちゃんくらいだろうか。
「あんまり片付いてないんで、そこはごめんなさい」
「いや、急に言い出したのは私の方だ。気にするな」
私は魔導大会で魔大陸に飛ばされて、ノマちゃんはお城へ。部屋の整理する人誰もいなかったもんなぁ。
元々汚くしていたわけじゃなけど、戻って来てからまだ整理も完璧じゃないなぁ。
そんなことを思いながら、私は自分の部屋へと戻ってきた。
10
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる