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第九章 対立編
627話 決着
しおりを挟む「わっ……!」
二人の、魔力の衝突。それは激しいものだった。
なんせ、観戦席にいてもその衝撃が伝わってくるのだ。結界があっても、その衝撃までは殺せはしない。
ぶわっと風が吹き、まるで大気が震えているかのようにピリピリと肌に電気が走るような感覚。
遠くから見ていてこれなのだ。近くにいればいったい、どれほどの衝撃が襲うだろう。
それこそ、間近にいるクレアとルリーは……
「二人とも、大丈夫かな」
「結界の中にいる限り、そこまでひどいことにはならないよ」
二人の姿は、今は見ることは出来ない。
それもそのはず。二つの魔力の激突により、二人の姿は今や爆煙に包まれてしまっている。
激しい魔力の激突は、その衝突から瞬く光を発生させ、光は二人を飲みこんだ。
その後、魔力同士の激突はお互いの力と相殺し爆発……もうもうと、黒い煙を上げている。
あの衝撃の中にいては、ただでは済まないだろう。
それでもナタリアの言うように、結界の中だからこそ本人たちへのダメージはひどくはならないはずだ。
「どちらが勝ったか、どちらが立っているかは、わからない。
けれど、わかっているよね……」
「うん……」
煙の中からも、二人の魔力は感じない。
どちらも、自分の魔力を限界まで使い切り、からっけつになってしまったのだ。
全力を尽くした、ぶつかり合い。
その結果、どちらに軍配が上がったのか……どちらが立ったままなのかは、わからない。
だが、一つだけわかることがある。
それは、この決闘の結果により、ルリーがこの国を去ることになるということ。
「どっちにしろ……これで、決まるよ。
二人の……いや、ボクたちの今後が」
「……」
そう、この決闘の行方は、観戦者だったエランにも無関係ではない。
それこそが決闘において、二人が賭けたものなのだから。
ルリーは、クレアとちゃんとした話し合いの場を設けることを。
クレアは、ルリーがこのベルザ国を去ることを。
「ちゃんと結果は、受け入れるよ」
本音を言えば、エランはルリーに勝ってもらいたい。
ちゃんとクレアと話し合ってほしいし……なにより、友達にこの国を去ってほしくはない。
とはいえ、もしもこの決闘の結果がクレアの勝利に終わり、ルリーが国を去ることになったとして。
それを止めることは、エランにはできない。いや、やらない。
二人の間で決めたことだ、エランが口出しをすることではない。
ルリーがこの国を去ることになったら、エラン自身も……と考えた。
だがそれは、きっとルリー自身が許さないだろう。
「おー、煙が晴れるぞい」
間延びした、ジルの声。
その声に、エランもナタリアも意識を、舞台上へと集中させた。
彼の言葉通り、濃かった煙は徐々に晴れていく。
見える人影は二つ……それは当然、クレアとルリーのものだ。
問題は、どちらが立って、どちらが倒れているか……
「え……」
そして、煙が晴れて……その姿が露わになったとき、エランは声を漏らしていた。
それは、目の前の光景に驚いてのもの。それほどまでに、予想していなかったからだ。
舞台上では……クレアとルリー、どちらともがうつぶせに倒れていたのだから。
「ふ、二人とも、倒れて……」
「これは……」
しばらくその様子を観察しても、二人が動く気配もない。
どうやら、お互いに気を失ってしまっているようだ。
全力の魔力をぶつけ合って、魔力も体力も、すべてが尽きた状態。これは……
「引き分け……かな」
同じように経過を観察していたウーラストが、口を開いた。
決闘において、どちらかが動けなくなるか、降参するのが一般的な勝敗の決し方だ。
しかし、双方がダウンし、動けなくなった場合……それは、引き分けという結果に終わる。
「え、と……これって、どうなるの?」
その結果に、エランは困惑した。
そもそも決闘の仕様がよくわかっていない上に、エラン本人も二度の決闘しか行ったことがない。
しかも一度は、授業の一環でだ。
ゴルドーラとの決闘では、エランは負けてしまったため……ゴルドーラの要求を受け入れた。
その結果として、生徒会に入ったのだ。
勝ち負けにより、どちらの要求が通るか変わるのならば……
引き分けとなった場合、いったいどうなるのだろうか。
「決闘は、引き分けになれば、どちらの要求も通らない。いわゆる現状維持ってやつかな。
ま、決闘に引き分け自体、そうないんだけどな」
ウーラストが、決闘の引き分けについての説明をする。
魔導士同士の決闘に、引き分けなどというものはそうあるものではない。力が拮抗している者同士であっても、勝ち負けの決着がつくものだ。
引き分けというのは、めったにないケースだ。めったになくても、引き分け自体はある。
だから、取り決められたものはある。引き分けになった場合、お互いに賭けたものは無効。
どちらも勝者でなく、どちらも敗者でないのだ。それは、当然とも言える。
「と、とりあえず、二人を運ばないと!」
「そうだね」
決闘の決着がどうあれ、気絶した二人を放置しておくわけにはいかない。
エランはその場から舞台上へと飛び降りる。軽やかな動きだ。
倒れたままの二人の下へ駆け走りつつ、エランはこの結果に、心のどこかで満足していた。
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